曲の章−83『ミッション授業2』


 

83

 

「うわああああああああああ! 痛い! 痛い!! 痛いっ!!! 痛いよルシードッ!!!」

ビセットは無くなった右腕の切口を押えながら、あまりの痛さの為、転げ回っていた。

「ビ、ビセット…」

突然の出来事にピートも転げまわるビセットをただ見つめていた。

「…あったのかよ?」

「えっ?」

放心状態だったピートが突然話し出したルシードを見る。

「ミッション授業に痛みがあったのかよ!!」

「えっ、それは…わかんねーけど…だってオレ達ミッション授業の時って

 ミッション授業の意識ってないじゃんか! わかんねえよ」

ピートの言は辻褄も発言も回答になっていないが、

ルシードにとってピートは解らないという事実で充分だった。

「じゃあなんでこれがミッション授業だって解るんだ」

「なんでって…えっ!?」

最初何を言われたか解らなかったピートは次の瞬間真っ青になった。

「た、たしかランディセンセーがミッション授業と同じでって…」

「…ミッション授業と同じで無作為に選ばれた。そう言われただけだな。わかるか?

 ミッション授業の意識が無いんじゃねぇ。ミッション授業が始まったら

 ミッション授業という存在その物の認識が無くなるんだ。そんなモンは存在しなくなってるんだ」

「そんなの設定じゃねーか! それだけでミッション授業じゃないって証明できるのかよ!」

ピートはムキになって反論する。認める訳にはいかなかったから。

「じゃあお前はこれがミッション授業だって証明できるのか!」

「それは…それは……」

「嘘だろルシード? じゃあコレ現実だって言うのか?」

痛みで大粒の汗を流していたビセットがルシードを見上げた。

「解んねぇよ。だがな、ミッション授業に痛みってあったか? 苦しみがあったのかよ?

 血が飛んだのか? 人が…死んだのかよ!!」

ビセットがゴクリと唾を飲み込んだ。

(それじゃ、俺は…)

 

「嘘だ!!!」

 

「ピ、ピート?」

 

「嘘だ! ウソだ!! うそだーーーっ!!」

 

ピートはルシードに飛びかかるとそのまま首を締め上げた。

「ぐっ…ピート」

「ウソだ! ルシードの言ってる事は全部ウソだ!!」

ミシミシとルシードの首を締め上げる音が聞こえた。

「くっ!」

ルシードはピートの腕を払い除けようと手を掴むが、ビクともしない。

「つぅ…ぁ(何て力だ…振りほどけねぇ)」

「ウソだって言えよ…言ってくれよルシード! じゃないとオレ、更紗を…更紗が……」

 

ビチャッ…

 

意識を失い掛けたルシードの顔に熱い液体が飛びついた。

そして、締め上げる力が次第に緩くなり、ルシードは失い掛けた意識を取り戻した。

「…ピート?」

ピートは涙を流しながら口から血を吐き出していた。

そしてピートの胸には剣の刃が突き出ていた。

ズルリと剣がピートの胸から抜かれる。

ピートはルシードから手を離し、ガクリと膝を付いた。

膝を付いたピートの後ろに姿を現したのは、血の付いた剣を左腕に持ったビセットだった。

「…へへへ、ルシード無事?」

「ビセット…お前」

「ルシード、俺どうしよう? ミッション授業だって思ってたんだ、

 だから俺、シェールを…ティセを……殺しちゃった」

ビセットはルシードに力なく微笑んだ。

 

パン!!

 

その微笑んだビセットの額に小さな穴が開き、ズシャリという音をたててビセットは倒れた。

「なっ!?」

倒れた額辺りから大量の血が流れ、緑の草原を赤く染めていた。

「ライフル?…誰だ!!」

ライフルが放たれたであろう方角を見る。

草原に面した崖の上にその姿を見付けた。

 

1人の男が立っていた。

 

ルシードが最も信頼し、兄のように慕っている人物。

「なっ…何だと? なぜだ、ゼファー!!!!」

 

悠久学園高等部3−B担任 ゼファー・ボルディであった。

 

 

悠久学園 高等部2−B ビセット・マーシュ 脱落

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