想の章−80『たくされた魔宝』


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「嘘、嘘ですよね? これってミッション授業なんですよね?」

 ローラに胸を撃たれたルーを抱き上げ、必死に声をかけるシェリル。

ルーはかすかに頷いた。

「そうですよね、現実じゃないんですよね。でも、でもどうして血が止らないんですか?

 どうしてルーさんの顔色が悪くなって…冷たくなっていくんですか?」

 止らない血と、むせるような鉄の臭い。だんだんと顔色の悪くなっていく表情。

熱を失ってきているルーの体。そのどれもが仮想世界を否定しているようにシェリルには思えた。

「…」

ルーは無言で鞄をシェリルに差し出した。

「なんですかこれ? そんなことより否定して下さい。

 現実じゃない、ミッション授業だって…言っ…て……お願…い」

シェリルの言葉に答えず、ルーは用件を淡々と語った。

「次の魔宝の場所は…覚えているな? 火口の側、炎に関係あるものだ」

「ルーさん!」

「俺はここで脱落のようだ。後を…頼む」

「そんな、私1人じゃ無理です。お願い、一緒にいて下さい」

「魔宝を集めるんだ。シェリル、君がこのゲームがミッション授業であることを証明しろ」

「私が…私にそんな資格なんて」

「ミッション授業なら、魔宝を集めればゲームクリアだ。裏技だがな。

 こんな悪趣味な授業だ、ランディの思い通りにさせたくはないだろう?」

「はい、はいっ…でも…」

「悲しむな、君が魔宝を集めればすぐにまた会える。トリーシャにもな。ただし楽はするな?

 楽をしようとしたら、君と同じ気持ちを抱く人数が増える、それは嫌だろう?」

 疑問があった。だから安易に脱落しないようルーは念を押した。

「はい、解りました。逃げません、絶対、ぜったいにランディ先生をガッカリさせてみせます!」

ルーはフッと笑う。

「もういってくれ。寝顔は見られたくないからな」

「…ルーさん、解りました、走ってすぐに終らせます」

シェリルは振り返ることなく走り出した。…後ろをみるのが辛いから。

 

 

「…いつから仮想世界では嗅覚まで表現できるようになったんだろうな?」

 おそらく自分の予想は外れたのだろうと思い知ってルーは自虐的に笑った後、

静かに目を閉じた。

 

 

もし本当に予想が外れていたのならシェリルと二度と出会えない事を願って。

 

 

 

悠久学園 社会学部1年 ルー・シモンズ 脱落

 

 

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