想の章−79『ティセ・ディアレック2』
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「ご主人様〜♪」
ティセが手をぶんぶんと振りながら一心不乱に走ってくる。
…凄く遅い。
「慌てんな、転ぶぞ」
「はいです〜っ、あうっ!!」
ドシャっという音を立ててお約束のように転ぶ。
起き上がると律儀に服についたホコリを払い始めたが、ルシードが側にいることを思い出してまた走る。
「ったく、子犬かあいつは…」
走りよるティセを見つめながらルシードは思わず溜息をつく。
(心配かけさせやがって…まあ最初に抱きついてくるのは許してやるか。
その後はゲンコツだな。ったくじっとしてりゃあいいものを、手間かけさせやがって。
んで涙目になりながらも、すぐにあいつはこう言うんだ
『ご主人様、チョコ食べたいですぅ…』ってな。
アイツは馬鹿だから手持ちの食料全部食っちまってるんだ。しょうがないからくれてやるか。
別に甘やかすわけじゃない。とりあえず今まで無事だった褒美みたいなもんだ。
それから…そうだな、ここから逃げ出す準備を始めねぇと…)
「あう〜っ、1人で寂しかったですぅ〜」
抱きつく姿勢で真直ぐにかけてくる。
(ったく…)
ティセが抱きつきやすいように軽く両腕を上げる。
ルシードまで後、10歩、9歩、8歩…
ティセが後7歩目まで近づいた時、ルシードの目の前で爆音が響いた。
「なっ!何だ!?」
突然の爆発と煙の為、ルシードは腕で顔を隠す。
目をつぶっていたのは二秒も満たない筈だった。しかし、
その二秒の間に目の前にいたはずのティセはどこにもいなかった。
ルシードは足元に転がってきた何かを拾い上げる。
…金色の焦げた首輪だった。
悠久学園高等部2−C ティセ・ディアレック 脱落