想の章−78『ティセ・ディアレック』
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ルシードは走り続けていた。
「なんでだ? どうなってやがる! なんでこんなことになっちまってるんだ!」
元々端整な顔立ちのルシードの姿は、頬はこけ、目には隈ができていた。
3日近く眠っていない。
「チャンスはあったんだ! 違うか?」
ドームから出た時点でセリーヌは死んでいた。助けようがなかった。だがエルはどうだ?
「1度出会った筈だ、トリーシャを探していると言っていた。
トリーシャが死んだという放送があったんだ、エルがあんな行動を起すのを俺は解っていた筈なんだ!」
後悔してもしきれない。エルと行動を共にしていればエルは死なずにすんだ筈だった。
「フローネもそうだ。会った時あきらかに様子がおかしかった。なんで気付けなかった?
なんで無理にでも側にいてやらなかったんだ!!」
「あいつは、フローネは俺の変わりにティセを守って死んだってのに…」
走るルシードの右腕には刀が握られていた。
―――酷い光景だった。
ディアーナは頭から血を流して倒れ、シーラは胸に刀が突き刺さったまま、
パティは眠るように、三人とも死んでいた。
せめて静かに眠らせてやろうと3人の遺体を寝かせた。
パティにいたってはまだかすかに体に暖かみが残っていた。
「ゼファー何やってやがる! 俺達が組めば何だって出来るだろうが…」
そのゼファーが既に何人もの脱落者を作っている事を知らないルシードは
この無意味なゲームを終らせる手段をゼファーが考えているであろうと信じて疑わなかった。
(ゼファーなら必勝の策を考えて俺と合流する筈である。)
ルシードはそう核心していたからティセ探しをしていた。
結果ゼファーとも、ティセとも出会えないでいた。
「なさけねぇ…」
(今だってそうだ、結局俺はゼファーに頼っていた。それがこのありさまだ。)
「もう誰も犠牲にさせねぇ! ティセも守る! ランディに一矢報いてやる!!」
その決意がルシードを走らせていた。
しかし、鍛えられたルシードの体力でさえ、既に限界を超えていた。
「なっ!」
ルシードの足は彼の意思に逆らいもつれ、大地にせりあがった木の根に足をひっかけて
盛大に転んでしまった。急な斜面であった事も災いした。
ルシードはそのまま何メートルも急斜面をころげ落ちてしまった。
「…ったく、何やってんだ俺は」
大きな溜息をつく。
ころげ落ちた先、目の前の光景は広い何メートルも続く草原だった。
「ほえ?」
聞き覚えのある声が遠くから聞こえた。
「…あ?」
草原の先、数十メートル先に1人の少女が立っていた。
ルシードを見つめていた。
ピンクの髪の少女、ティセ・ディアレックであった。