想の章−77『真実の扉3』
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孤島中央に位置する管理ドームの一室。そこにゲーム強制参加者である筈の
イヴ・ギャラガーがランディ・ウェストウッドの前に立っていた。
「ほう、お前が掴んだ真実ってのは『これは現実では無い』ってことか小娘?」
「そうね、ただ訂正するならこの無意味な殺し合いだけではなく、
この世界そのものが有り得ないと言ったところかしら?」
「…何が言いたいんだ小娘?」
ランディはニヤリと笑う。人を小バカにした笑いだったがイヴは気にせず話を進めた。
「『悠久学園は存在しない』違うかしら? エンフィールドの反政府組織
『物言わぬ柱』の用心棒ランディ・ウェストウッドさん?」
「…何の事かわからねえな、お人形さん」
イヴは唇を強く噛む。
「ふん、まあいいだろう。で? お前の言っている事が事実だという事を
前提と仮定して話してやろう。それでお前はどうするつもりだ小娘?」
「私は自分の世界に帰りたい。それだけよ」
「その為にどうするのかと聞いている」
イヴを睨みつけるランディ。
「…貴方なら帰る方法を知っている筈だわ」
「勝手な妄想のあげくに俺が真実を知っているときたか。話にならんな」
ランディは薄く笑い、興味は失せたといった態度で立ちあがった。
「妄想? 違うわ、私は覚えている。いいえ、思い出したのよ! ここは違う、帰るべき所、
側にいるべき人のいる世界、私のいるべき世界はエンフィールド! 貴方もそこにいた筈だわ!」
「チッ、付き合いきれねえな。今俺に殺されるか小娘?」
そう言い放つと静かにイヴにボウガンを向ける。
「…そうね、殺されれば元の世界に帰れるのなら殺してもらおうかしら」
イヴはランディを見、そう答えた。
「いい度胸じゃねえか。…だが早計だな。お前はこの殺し合いそのものはミッション授業だと
思っているんだろう? 死んで終りならお前のその記憶もリセットだな。
元の学園生活に戻るってわけだ」
ランディの口元に笑みが戻る。
「それは…」
「そこまで言っていてわからねえのか? このゲームの意味が?」
「!? ランディ…先生、あなたまさか?」
「お前が考えろ。答えは言わねえ」
ゴトリ
と布に包まれた大きな物をイヴの前に投げ落した。
「何かしらこれは?」
「特別サービスってやつだ。お前がこれからやる事は腕がなきゃ不便だろう?
お前の世界の俺の右腕はどうなっていた?」
イヴは布に包まれたある物を見つめると覚悟を決めたのか掴み取った。
「あと10人前後だ。せいぜい生残るといいな小娘」
イヴはその言葉に返事もせず、ドームから去って行った。
ドームから出て、歩き出すイヴをランディは室内にあるTVで見ていた。
「この世界が現実では無い? 本当の世界は別にある? 誰がそんな事を言ったんだ?
バカが…小娘、お前が考えた答えってのはなんだ? 『正解は何もない』だったんだがな」