想の章−74『そして三人目』


74

 

「ゼファー先……由羅?」

ゼファーに駆け寄ろうとした更紗を由羅は手で制した。

「駄目よ更紗」

由羅は更紗を振り向きもせずゼファーを睨みつけた。

(あいかわらず何を考えてるのか全然わかんないわ)

由羅はカマをかけることにした。

「あなたは何人殺したのかしらん?」

「由羅!!」

更紗が目を丸くして由羅に抗議の視線を送る。

 卑しい人間、嘘をつく人間、心の腐った人間。由羅はそんな人達を何人も見てきた。

もしゼファーがこの質問に嘘で答えたのならば目で解る自信が彼女にはあった。

「2人、リサと…メロディだ」

「!!」

更紗は大きく息を飲み、由羅は目を見開いた。

「…ゼファー、嘘…だよね?」

更紗が震えながら小さく呟いた。

 その言葉にゼファーは小さく笑う。更紗は『先生』とついていなかったが、

それが不快ではなく、酷く懐かしい響きに聞こえたから。

「…事実だ更紗。すまんな」

そういってライフルの銃口を更紗に向ける。

「更紗逃げ…」

由羅の叫びはゼファーの放ったライフルの銃声にかき消され、更紗の体は崖下に消えた。

「さら…さ…」

 

由羅が振り向いた先には既に誰もおらず、返事をするものはなにもなかった。

 

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