想の章−71『あっけない幕切れ』


 

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「弾切れなんて、冗談じゃないわよ!」

 そう叫びながらローラはルー達がいた場所から全力で離れて行った。

シェリルの叫び声を聞けば間違いなくルーさんは死んだであろう。とローラは判断した。

「ここまで来れば、大丈夫かしら?」

ハアハアと息を整えながらローラは側にあった木に寄りかかった。

「ハァハァ、弾切れなんて…ハァ、これからどうしよう?」

 もう一つの武器である包丁はもう捨ててしまった。

セリーヌさんとリーゼさんを刺した時のあの気持ち悪い感触が嫌だったから。

「ハァハァ、銃がなくちゃあたし、フゥ、どうすれば…いいのっ、うっ…」

コホコホと咳き込む。

「やだ、ハァハァ、さっきから全然息が整わな…コホッ、苦し…い」

 また咳き込み、小さな手の平で口元を押えた。手には血が付いていた。

「…この血ってあたし?」

 目を丸くして手の平をみつめたローラは、その後胸の苦しみを覚え、大きく咳き込みながら倒れ込んだ。

手の平から押え切れなくなった血が地面に広がる。

 呼吸はいつまでも整わず、苦しさが増して行った。

「やだ…どうして? 胸が苦し、ゴホゴホッ!!」

 咳も呼吸困難も一向に収まる気配がなかった。

「そうだあたし、もう3日もお薬を飲んでない」

 ローラは持病を患っていた。もう何年も病院で過ごし、去年からようやく通院と多量の薬を摂取する事で

念願の悠久学園に入学する事ができた。

 

「あたし…死ぬの?」

 

自身の想像に愕然とするローラ。

「嫌、いやあっ! あたし死にたくない! あたしまだ生き帰ったばかりなのに…やっと青春が、

 人生が始まったばかりなのに死ぬの? そんなのいやあッ!!」

「酷い、早過ぎるわ! あたしまだ素敵な恋もしてないのに…人生が短いって知ってたから1年1年を

 一生懸命生きようって誓ってたのに…恋も知らないで死にたくないよ…」

 叫べば叫ぶだけ口から血が流れ落ち、倒れたローラの顔は既に血の海に埋っていた。

「こんな事で死んじゃったら…あたし何の為にセリーヌさんやリーゼさんを刺したのよ!

 何の為にアルベルトさんやルーさんを撃ったのよ! これじゃただの人殺しじゃない!!」

 目が霞み、焦点の合わない中、ローラは前を向いた。

(誰か…いるの?)

 薄ボンヤリと誰かが立っている姿が見えた気がした。

ローラは何かを掴もうとするかのように右腕を伸ばす。

 

「あたし、生きたいだけなのに……お兄ちゃん、あたし…死にたく……ない」

 

 

 伸ばした右腕は何も掴む事なく、そして力なく地に落ちた。

 

 

悠久学園中等部 2−C ローラ・ニューフィールド 脱落

 

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