想の章−9『残り一つ』
69
「…誰とも会えなくて、だから私ずっと心細くて、ルーさんに会えて本当に良かったです」
「…そうか」
洞窟内。陽気に話し続ける声と、関心がないのか酷く機械的な返事をするだけの声が洞窟内に響いた。
「はい。早くトリーシャちゃん達に会いたいわ。無事だといいんですけど」
「…」
話続けるのはシェリル。ルーは彼女と出会ったのはほんの数分前。
この洞窟に隠れていたシェリルに偶然出会ってからだった。
彼女は気付いているだろうか? その間にシェリルはトリーシャの名前を7回も言っている事に。
「あの…さっきから何をしているんですか?」
「アイテムを探している。占いの結果では“黄金”と“腕”に関係があるらしい」
「黄金と腕ですか? あの…腕は解りませんけど私この洞窟を歩いていた時に宝箱みたいなのを見つけました」
「宝箱? 臭いな、案内してくれ」
「は、はい。こっちです」
洞窟を歩く。古ぼけた大きな宝箱が見えた。
「私も気になってさっき開けようとしたんですけど鍵がかかってますよ?」
「鍵?…たぶん大丈夫だ」
ルーはそう言うと背負っていた荷物から不思議な紋章を刻んであるナイフ程度の大きさの鍵を取り出した」
「なんですかそれ?」
「ここに来る前に見つけた3つ目のアイテム“白の聖鍵”だ。俺の予想ではこれで開くはずだが」
鍵穴に白の聖鍵を刺し込むとカチリと音が響き、宝箱が自動で開かれた。
「…凄い」
シェリルが驚嘆したのも無理はない。宝箱には眩いまでの金貨がギッシリと詰まっていた。
ルーはその金貨の海に腕を突っ込むと黄金で出来た人間の女性の左腕を模った彫像を引っ張り出した。
「“黄金の左腕”なるほど、そのままだな」
その黄金の左腕は1度強く輝き、光の線を作った。
ルーは素早く地図とタロットを広げる。
「その方角は…この山だな。タロットの結果と照らし合わせると恐らく火口近く。
キーは“輪”と“炎”。間違いないようだな」
「集めてるアイテムっていったい何なんですか?」
「“魔宝”というアイテムだ。5つ集めるとこの現状が打開できるらしい」
「…はあ」
シェリルは良く解らない頷きを返した。
「で、シェリル、君はそれでいいのか?」
唐突にルーがそう切り出した。
「えっ? 何がですか?」
「現実から目を逸らしたままでいいのか、と聞いている」
「ルーさん、いったい何を言って…」
「不思議だろう? こんな状況に追いやられながら何故そこまで陽気でいられる?」
「それは…ルーさんに会えて嬉しかったから」
シェリルは搾り出すように呟く。自分に言い聞かせるように。
「嬉しい? 放送を聞いていれば誰かと会う事に恐怖しそうなものだが」
「だ、だって私達が本当に殺し合いをするわけがないです…」
そして消え入るような声。
「なるほど、つまり君は“放送を聞いていた”わけだな? だったらトリーシャが死んだことも
知っている筈だが?」
「!? それは…その時だけ偶然放送を聞いてなくて…」
カタカタと震えだす。
「そうか。だったら君は今始めて親友である彼女の死を知ったわけだな?」
「!! あ…あ…ああ……やめて」
涙が溢れてきた。
「誰とも会っていないと言っていたが…」
「いやあ!! もうやめてください!!」
頭を押さえ、うずくまる。
「…その服にこびりついている血はいったい何だ?」
「いやああああああああああああ!!」
シェリルは悲鳴をあげた。