想の章−5『ずっとあなたが好きだった…2』


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「駄目ですシーラさん、パティさんを殺しちゃ…駄目です」

 シーラの後からディアーナの声が聞こえた。

ディアーナが刀でシーラの胸を貫いていた。体重をかけて。

「ディアーナ、あんた…」

「駄目…で…す……」

 ディアーナは刀を離すとそのままズルズルと崩れ落ち、また気を失った。

「う…そ…私、私……」

 シーラは自分の胸に突き刺さっている刀を目を見開いて見つめ、そのまま膝をついた。

そして倒れ込み、パティの胸に顔を埋めた。

 

 カラン…と手に持っていたバットが地面に転げ落ちる。

 

「私…死ぬの? パティちゃん?」

「だ、大丈夫よこれくらい!! すぐ直るわ」

そうは言ったがシーラの制服はジワジワと赤く染まっていった。

「そうかな? 凄く…苦しい。きっと天罰ね」

「バカ言わないで、アタシなんかアンタに金属バットで殴られたって生きてんのよ?

 これくらいの傷どうってことないわ」

「ふふ…そうね、パティちゃん頑丈だわ。ビックリしたもの」

「なんか釈然としないわね」

「……ごめんなさい」

ゴホッと咳き込みながら謝るシーラ。血が混じっていた。

「いいわ、こんな状況だもの。全部あいつが悪いのよ」

「ランディ先生?」

「違うわよ。助けに来ないあのバカよ。なにしてんのかしら?」

「ふふ、パティちゃんは助けに来てくれるって信じてるのね。そこがパティちゃんと彼の絆なのね」

「べ、別にそういうわけじゃないわよ」

「でもそうね。きっと助けに来てくれる。でも私はもう会えないわ」

「なに言ってるのよ、これくらいの傷すぐ治るって言ってるでしょ!」

「違うのパティちゃん。私、ルーティちゃんとアレフくんを殺してしまったの。酷いね、私」

「それは……なんとかなるわ! 大丈夫、なんとかさせる!! あんたは心配しなくていいのよ」

(どうやって?)

そんな無粋な事をシーラは聞かなかった。

「じゃあ安心だわ。早く…会いたいねパティちゃん」

「あたしは別に…」

「もう! パティちゃん」

「…そうね、久しぶりに会いたいわね。遅過ぎってぶん殴ってやるけど」

「そしたら私が彼を慰めるわ」

「ちょ、ちょとシーラずるいわよそれ!」

二人とも小さく笑う。

「ふふ、ねえパティちゃん…ありがとう」

「なにがよ?」

「愚痴とか聞いてくれたり、慰めてくれた事」

「バカねえ、親友なんだからそれくらい当たり前でしょ」

「親友…そうか、親友だったのね私とパティちゃん」

「そうよ、解った?」

「ええ…今度はパティちゃんの悩みを聞かせてね。恋の悩みとか」

「嫌よ、恥ずかしいじゃない」

「親友なのに話してくれないの?」

「…シーラ、あんた結構いい性格してんのね」

「ええ、私の秘密なのよ。親友だから特別。この秘密を知っているのはジュディと彼だけだわ」

「はいはい、光栄です」

微かな声だった。

 本当に小さな声であったから体を密着させている二人にしかこの会話はきっと聞こえていない。

だからと言って二人は小声で話しているつもりはなかった。

「…パティちゃん…早く話して」

「もー、しょうがないわね、そのかわり誰にも言っちゃ駄目よ?」

「ええ」

「そうねー、あたしは……」

 

シーラはパティの話を楽しそうに聞いていた。

 

 

   ねえ……くん。パティちゃんは助けてあげてね?

  私、パティちゃんだったら許してあげるから。

  

   あのね…例えばなんだけど、もしもあなたが旅人で、

  私とパティちゃんがあなたと同時に出会えたならば、

  あなたはどっちを選ぶのかしら?

   きっと私とパティちゃんはいい親友(ライバル)になれると思うの。

  でもきっと貴方は鈍感で…私の気持ちになんか気付きもしないで、パティちゃんは意地っぱりだから

  もっと大変かもしれないわ。

 

   もしも生まれ変れるなら、そんな悠久の世界に行きたいね、パティちゃん。

 

 

 

悠久学園高等部3−A シーラ・シェフィールド 脱落(報告済)

  

 

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