想の章−3『ディアーナの闘い』
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「きゃあっ」
という悲鳴と共にディアーナは暗闇の中、ドシャリと音を立て転んだ。
「いったたたた…ってああ! パティさん大丈夫ですか!?」
転んだ拍子に肩を貸し担いでいたパティを地面に落としてしまった事に気付き
慌てて上半身を置き上がらせ木に寄りかからせる。
「はううっ…」
パティの額から流れ落ちる血を見て目眩を起すディアーナ。
「だ、ダメ! い、今はあたしがパティさんを助けなきゃいけないんです!
まかせてくださいねパティさん、きっとあたしが助けてみせます」
気を失っているパティを元気付けるディアーナ。
あまり意味のない行為であったがこれは自身を奮い立たせる為でもあった。
「えっと、バットで叩かれたのは頭と腕…あっ!」
殴られたパティの右腕を軽く持ち上げると腕がありえない方向に曲がっていた。
「ひ、酷い…とりあえず添木をしなきゃ。なにか添木になるものは…痛ッ!」
暗闇の中、添木に出来る枝か何かを探す為、辺りの草むらを手探りしたディアーナの手に痛みが走った。
「な、何?」
手を傷つけた物を掴みあげる。
「これ、刀ですよね?」
辺りが暗い為、ディアーナは刀を目の前に持っていき、自分の指を傷つけた切先を指でなぞる。
切先はベットリとした液体がこびりついていた。
「えっ? これ…血?」
液体に触れた指には鉄のような嫌な臭いがした。ディアーナの大嫌いな血の臭いであった。
「きゃああああああっ!!」
ディアーナは刀を放り投げた。
「いやあっ! もう嫌!! 何でこんな殺し合いなんてしなきゃいけないの?
何でシーラさんがあんなに怖く……先生、先生助けて…」
「うっ…」
「えっ!? パティさん?」
返事は無かった。あまりの痛みに気を失いつつも思わず声が出てしまったのかもしれないと
ディアーナは判断した。
「そうだ、パティさん、パティさんを助けなきゃ!」
ディアーナは手の甲で涙を拭うともう1度添木になる枝を探した。
「うん、この枝が調度いいわ。後は…」
ディアーナは自身の額に巻いていたバンダナを解くと枝と共にパティの右腕に巻きつけていった。
「うっ…ああっ!!」
腕にバンダナをひと巻きする度にパティから悲鳴が上がった。
「我慢してくださいねパティさん、1回固めてしまえばもう痛みは無い筈ですから」
そう言ったディアーナの表情はとても凛々しかった。
「次は頭…とりあえず傷口を綺麗にして、血を止めなきゃ」
ハンカチを携帯していた水で濡らし、傷口を拭く。
「これは泥、パティさんの額から流れ落ちてくるのは泥…」
ディアーナは不気味な呪文を唱えながら血を拭き取っていった。
彼女は血液恐怖症であった為、血では無いと思い込みたいらしかった。
暗闇であったから泥に見えない事もないかもしれないが、実際額から泥が流れ落ちてきた方がよっぽど怖い。
「血が止らない…押えつけて出血を減らさないと」
ディアーナはパティのハンカチも使うと結び付けてバンダナのようにパティの傷口に巻いた。
「こっちにバンダナ使えば良かったかも? でも今出来ることはやりましたよパティさん。
後は先生に診てもらえばすぐ良くなります!」
「うん…ありがとうディアーナ」
ディアーナの元気な声にパティが弱々しくも返事をした。
「そんな、先生の助手として当然ですよ。…ってええ!! パティさん起きてたんですか?」
「…うん、ディアーナが治療してくれてる途中からね。でもアンタがよく治療出来たわね?
血苦手なんでしょ?」
「あはは、それはもう、パティさんの血を泥だと思って治療してたら平気でした」
「ど、泥って…あんたねえ」
「あ、他に痛い所ありませんか?」
「う〜ん…たぶん大丈夫。アンタのおかげよ」
「やだそんな、照れちゃいますよ」
ディアーナは照れくさそうに笑った。
「見つけたわ、パティちゃん」
「「えっ!?」」
ゴキィッ!!
突然の言葉に振り向いたディアーナは叩頭部に衝撃をうけ、そのまま倒れた。
「逃げるなんて酷いわパティちゃん。こんな暗闇の中探すの大変なのよ?」
そういって薄く笑ったのはシーラ・シェフィールドであった。