幻の章−18『君の手は…3』
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ゴキィッ!!…ゴキッ!!…ゴッ!!…グチッ!!…グチャッ!………コトッ。
シーラの腕からバットが滑り落ち、彼女はバットを振り下ろすのを止めた。
「…」
シーラは肩で息をしながらボンヤリとアレフであった物をみつめる。
「アレフくん私のこと病弱だと思ってた? ピアノって凄く握力がつくのよ」
そう言って自らの掌を眺める。
「マメが出来て潰れちゃったのね。こんな手見せたくないわ」
そう思ったが思わずクスッと笑う。
(違う、見て欲しいの。自分の事知って欲しい。慰めて欲しい、励まして欲しい。
そして…側にいて欲しい。)
「私ね、アレフくんも嫌いだったの。あの人と仲が良いから。独占欲の強い嫌な女の子ね。
でも優しいって事は知っていたのよ? だってアレフくんの事悪く言う人誰もいなかったもの。
付き合っていた女の子達でさえそう。今思ったんだけどアレフくんが沢山の女の子と
お付き合いするのはもしかして理由があったからなの?」
アレフであった物は何も語らなかった。
「…パティちゃんを追いかけないと」
シーラは血のこびりついたバットを掴むとディアーナが下っていた方向を見る。
すっかり日が落ちていた。
「そういえばアレフくん、私とパティちゃんて親友なんだよね。どうして?」
自分でも意味不明な事を言ってシーラは不思議な顔をした。
「…私、何言ってるのかしら? それじゃアレフくん、さようなら」
そう呟いた後、シーラはパティを追いかける為歩き出した。
さようなら…アレフが最も嫌いな言葉だった。