幻の章−17『君の手は…2』
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もはや感覚はなかった。
真っ暗闇の中、どこか遠くで何かを叩き潰すような音が聞こえただけであった。
(シーラって結構力があるんだな。始めて知ったよ)
そう言ってアレフは笑った。…つもりだった。
(あっとゴメン、女の子に力持ちなんていっちゃいけないよな。新しいシーラの秘密を知れて嬉しいよ)
らしくもない発言とヘタなフォローに思わず苦笑した。…つもりだった。
もはや言葉は声にならず、上げたはずの手はピクリとも動いてはいなかった。
(何やってるんだろうな俺。学園一のナンパ師って自称しておいて
本当に好きな、大切な女の子一人救えないなんてな)
(なあ、お前今何やってるんだよ?
俺がピンチの時は呼ばなくたっていつだってフォローしてくれてたじゃないか。
お前の親友が死にそうなんだぜ? 主人公なら駆けつけてこいよ)
言った後苦笑した。
(はは、親友じゃなくて悪友だったよな、悪かったよ。俺はもういいけどシーラは助けてやってくれ。
俺じゃ彼女の王子様にはなれなかったんだ、残念だが王子役はお前に譲るよ。
頼むぜ悪友、シーラはお前の助けを求めている。
…クソッ! 俺がシーラを他の男に任せるだって? 本気で終りみたいじゃないか!!)
立ち上がろうと意識を集中する。まったく身体に反応はなかった。
(…そうか)
至極納得した口調でアレフは溜息をついた。
暗闇が広がっている。もう少しで自分もこの闇に溶け込むのだとアレフは思った。
(これが夢だとしても最悪だが…せめて夢だと信じるしかないな。だからシーラ、またな)
悠久学園高等部3年 アレフ・コールソン 脱落