幻の章−14『間違った強さ』
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空が赤く染まっていた。
「…さん?」
そんな赤い空をただぼんやりとパティは見つめていた。
「…ティさん!」
『ふうっ』と、パティは思わず溜息をつく。
「パティさんてばっ!!」
「うわあっ! ちょっとディアーナ何叫んでるのよ、びっくりしたじゃない!」
大声で名前を叫ばれパティは思わず悲鳴?をあげた。
「びっくりじゃないですよも〜。さっきから読んでるのにパティさん返事してくれないんだもの」
ディアーナは不満気な目でパティをみつめた。
「あ、ゴメンそうだったの? で、何のようディアーナ?」
「何って…あああパティさんお鍋! お鍋吹きこぼれてますよっ」
「えっ、あっいっけない、もうディアーナ気が付いてたんなら早く言ってよ!!」
「…ずっと言ってましたよ」
無茶な抗議に小さく反論するディアーナの声を聞いている様子もなく、
パティは吹きこぼれ始めていた鍋をテキパキと扱った。
「…具がグチャグチャになっちゃったわね」
「…山菜中心ですからね」
パティとディアーナは出会ってから何をするでもなく、
気がついたら与えられていた鍋を使って料理を始めていた。
「何をボンヤリ考え込んでたんですか?」
「えっ!?」
ディアーナのそんな質問にビクッと反応してしたパティ。
それに気付いてディアーナも『しまった』という顔をした。
「えっと…色々よ、いろいろ」
「そ、そうですか、そうですよね! いろいろ考えないといけませんよね」
答えられずお茶を濁したパティにディアーナはその通りだと言わんばかりに大袈裟に頷いた。
「自分達が殺し合いなどする筈がない」
2人がそう結論を出した後、ランディの放送があった。
既に何人かが実名付きで死んだという放送だった。
放送を聞いて二人は真っ青な顔で見詰め合ったが、その内容について二人は何一つ話さなかった。
同時に出てきた言葉は
「鍋つくりましょう!」「鍋用意するわよ!」
であった。理由なんて簡単だった。
言う言葉が思いつかず、目を引いたものが巨大な鍋であった。ただそれだけであったから。
「馬鹿話してないでさっさと食べるわよディアーナ」
「そ、そうですよね! お鍋は暖かい内に食べないと美味しくありませんから!」
(…まずい)
ろくな調味料もなく、山菜を放り込んだだけの鍋では不味くて当たり前であった。
よくディアーナは文句を言わない物だとパティが感心してディアーナを見ると、
彼女はポカンとした表情で何かを見つめていた。
「どうしたのよディアーナ?」
「……シーラ…さん?」
「えっ!?」
ディアーナが見つめていた方角、パティは後を振り返った。
ゴン!!
という鈍い音と同時に目の前が真っ暗になる。
「きゃああっ!! パティさん!!」
ディアーナの悲鳴と、ガシャンと鍋が引っくり返った音が、
パティにはどこか遠くから聞こえた気がした。