幻の章−13『綺麗でいたいから3…』


 

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「……ネ、……ロー…ネ」

「…ん」

 誰かの自分を呼ぶ声が聞こえた。でもとても眠たくて、私はそのまま気付かないフリをして眠ることにした。

ガクガクと身体を揺すられる。

 酷いなあ…私はこんなに眠たいのに。どうして寝かせてくれないんだろう?

さっきだってあんなに頑張ったんだもの。もう少し眠らせてくれたっていいと思う。

(あれ? 何を頑張ったのかしら?)

思い出せない。でもいい、ものすごく眠たいんだもの。

 パチパチという音と共に頬に痺れる痛みを感じた。

あ、酷い! 起きないからって頬を叩くなんて!

もう絶対起きてあげない。

しばらくすると頬の痛みが消えた。

諦めたのかな?

そう思ったとき、頬に別の何かが当たった。なんだか暖かい。

(えっ!? 涙? どうして?)

 私が起きないのがそんなに悪い事なのかしら?

なんだか凄く申し訳無い気分になって、私は目を覚ますことに決めた。

 

「…んん」

「フローネ!」

「…セン、パイ?」

 起き掛けのせいか、目が擦れて良く見えないが何となく解る輪郭と大好きな声で、

私を起していたのがセンパイだってわかった。

(あっ、私寝顔見られちゃったんだ!)

 よりによってあんな寝起きの悪い所を見られるなんて、

恥ずかしくて布団を被ろうとしたけれど布団が見当たらなかった。

しょうがなく私は照れ隠しにいいわけをした。

「あ、あのですねセンパイ、私昨日ピースクラフト先生の新作を買ってしまって…

 だからつい徹夜で読んでしまって、その、いつもはもっと寝起きがいいんですよ」

「…」

返事がない。呆れられちゃたのかな?

「…あ、あの、ごめんなさい。すぐ起きます。もしかして今日食事当番私だったですか?」

 困った。センパイがわざわざ私を起こしにくる理由がさっぱり思い当たらない。

なにか忘れてるのかな?

 最近事件もなかった筈だし、書類整理も終らせてたと思うし…えっ!?

突然センパイにぎゅっと抱きしめられた。

「…なにやってんだお前はッ!!」

(えっ? えっ? …えええっ!?)

 ど、どうしよう? これってセクハラなのかしら? でも嬉しいし…あれ? 

私達恋人同士だったかしら? そういえば恋人同士だった気もする。

キス…したと思う。…1回だけだけれど。

 だったら…甘えちゃっていいのかな?

そうだ! 私センパイに謝らなきゃいけないことが…

「センパイ、私謝らなくちゃいけないことがあるんです」

「…あ? お前こんな時になに言って…」

「でも、嫌な事は早く済ませないと…さっき私ティセちゃんと一緒にいたんです」

 あれ?なんで私達森にいるのかしら? いつのまにブルーフェザーの建物に帰ってきたのかしら?

まあいいわ、今は謝ることが先。

「でもセンパイがティセちゃんのことばっかり心配してるから…

 私嫉妬しちゃって、嘘ついちゃいました。ごめんなさいセンパイ」

「…そうか、悪かった」

(あれ? 珍しい。こういった事で謝ってくれるなんて。

 いつもだったら『あ? 何くだらねぇこと言ってんだフローネ』って言うのに。でも…)

「嫌ですよね、こんな性格の悪い子。だから今度は私ティセちゃんを守ろうって決めて…どうしたんだっけ?

 とにかく頑張ったんですよセンパイ。私、綺麗でいたいから…」

「ああそうか。きっと頑張ったんだろうな」

「はい、だから疲れちゃって…もうちょっとだけ寝かせてください」

少しだけ調子に乗って甘える。今はどうしても眠りたくて。

「…どうしても寝なきゃだめか?」

「えっとそれは…なんだか我慢できないくらいの睡魔で…明日訓練頑張りますから…駄目ですか?」

「…駄目じゃねぇよ。解ってる、フローネがスゲぇ頑張ったってのはお前の姿みりゃあ解るんだよ。

 だから眠らせてやりてぇが…寝たらお前は…」

「やだセンパイ、また泣いてる。でもたまには疲れてみるものですね、センパイ優しいし。

 でもちょっとだけ、眠らせてください。あ、起す時はもう叩かないで下さいね?

 かわりにキスしてくれたらすぐ飛び起きるかも?」

 

あ、限界だ。目開けてられないな。今のでどんな顔したのか見たかったのに。

でもいいわ、また明日起してもらうから。

 

 

だからセンパイ

 

   今日はお休みなさい。

 

 

悠久学園高等部 3−B フローネ・トリーティア 脱落

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