幻の章−12『綺麗でいたいから2…』
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「…そう、優しいのね、ビューティちゃんは」
首と肩に噛み付かれ、大量の血を流しながらもフローネはそう言うと、ビューティを優しく抱きしめた。
「ああ…フローネさんにまで…ボクはビューティを止められない」
リオはその場に膝から崩れ落ちた。
「違う…わ、リオくん」
フローネはビューティを抱きながら、目を閉じていた。
「ビューティちゃんは、本…当はこんな事、したく…ないって」
「えっ! 何を言っているのフローネさん! ビューティが勝手に暴れるからボクは…」
「ビューティちゃんの使命はね、リオく…んが本心から望む事を叶える…こと、
そして本能からの怯え全てから守るこのなの」
「…ボクが望んだ事? ボクがヴァネッサ先生や、アルベルトさんを殺したいって思ったってことなの?」
「それ…は…」
(聞きたくない)
「あッ…」
ビューティの牙が深く食い込み、たまらず悲鳴をあげるフローネ。
「大丈夫よビューティちゃん、そんな…苦しまなくていいの」
フローネはなおも優しく笑う。
「なんで? どうして?…あっ!! 今、ボクが聞きたくないって願ったから!?」
フローネはリオの言葉に静かに頷いた。
「そんな…それじゃボクがヴァネッサ先生やアルベルトさんを…コロシチャッタノ?」
「あッ…ああッ!!」
フローネの肩がえぐれた。
「落ち付いてリオくん。ビューティちゃんはアルベルトさんを殺してないって。
解ってる、リオくんもビューティちゃんも悪くない。だから…怯えないで」
痛みで涙が止まらないながらもフローネは微笑みつづけた。
「だってアルベルトさんの死体の前にビューティが立っていて…
ボクはどうしていいか解らなくて、全て無くなっちゃえばいいって…だから…」
リオの感情が溢れた。
「みんな怖いの。誰かを憎んだり、殺したいって気持ち心の中で持ってる。私も…さっきそうだったから」
いつのまにか言葉がよどみなく続く。感覚が麻痺して、痛みもあまり感じなくなっていた。
「ビューティちゃんも辛いの。リオくんがほんのちょっとでも思ってしまった事をしなければいけないから。
後でリオくんが後悔することが解っているのに…リオくんが優しい子だって知ってるのに」
そこまで言った後、フローネは気を失った。