幻の章−10『黄色いリボン』


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 雨が上がる。日が昇る。

 

 それでもエルはトリーシャを抱きしめ続けていた。

守る筈のトリーシャを守れず、自分の身代りとして死んでしまった。

エルは何度も何度も自分を責め、そして泣いた。

数えきれない後悔の数、もはや涙も出ない。

(涙も枯れ果てるとはこういうことか)

と、薄情な自分にそういいわけした。

いや、涙が出ない事でさえエルは自分を責めた。

(トリーシャが死んだら生きてはいられない。

 だというのに1日で涙も流せないとは自分はなんと薄情なエルフであろうか…)

「トリーシャ、アタシも死んでいいかい?」

(絶対駄目だって言うと思うけど…でもトリーシャのいない世界に取り残されるより、

 彼女に叱られる世界に行きたい。絶交だと言われてもトリーシャを見守れる世界にアタシはいたい)

 

 鐘が鳴り、ランディの放送が始まった。

憎たらしいランディの声と、

トリーシャの死の報告が耳に残った。

 

「そうか、そうだね、こんなことさせてるあいつを許すわけにはいかないね」

エルの目に生気が戻る。

彼女は目標を見つけた。

「トリーシャ、アタシ行ってくるよ。そしてアンタの前でランディを土下座させてやる!」

 エルは抱きしめていたトリーシャをゆっくりと地面に寝かせる。

「リボン、貸して。必ず返しにくるから」

トリーシャのトレードマークである黄色い大きなリボンを解き、エルは自分の腕に巻きつけた。

「行ってくるよトリーシャ」

 

エルはランディがいるであろうドームに向って走り出した。

 

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