幻の章−9『血の色は?』
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「…ッ」
イヴは一瞬顔をしかめた後、由羅から一気に距離をとった。
そして由羅は不思議な顔をしていた。
「…ワタシにそんな力があるわけないじゃないの」
「なんのことなのかしら?」
何に対してそう考えをつけたのかイヴには解らなかったがいぶかしげな由羅の顔を見てそう聞かずにはいられなかった。
「ワタシが包丁を使ったくらいで人の腕が切り落とせるわけないでしょ。
さっきの感触はまるでなにかの結合部分に綺麗に当たった感覚…」
そう呟くと、由羅は落ちていたイヴの左腕を拾った。
「…アナタ、何なの?」
由羅がまるで化物を見るような目でイヴをみつめた。
「?」
イヴは由羅が何を言っているのかわけがわからなかった。
「解らないのかしら? アナタ血が流れてないのよ」
「えっ…」
イヴは驚いて自分の無くなった左腕を見る。
「これ…は…」
腕の切れた断面には血など一切無く、キリキリと動く歯車が幾重にも見えた。
「ワタシは…」
(ワタシハナンダ?)
ズキン!!
イヴは頭に痛みを感じ、意識を失うまいと首を大きく揺すった。
「今…何か……?」
頭痛と共に、イヴの脳裏に何かの光景が映った。
(暖かい、幸せな…自分を理解してくれる人が側にいる世界)
「アナタハ…ダレ?」
脳裏に浮かんだ誰かに思わず質問するイヴ。
「イヴ? アナタ?」
由羅がわからないといった顔でイヴに声をかけた。
「っ…死ねない」
そう言うとイヴは崖まで走った。
(ダイジョウブ、コノガケナラシナナイ)
瞬時にその崖を飛び降りた際のシュミレートが頭に浮かび、
100%助かるとふんでイヴはその崖に飛び降りた。
「なっ!?」
由羅が驚いてその崖に近づく。朝靄の為、既にイヴが見えなかった。
「…自殺したのかしら?」
由羅はその場にペタリと座り込んだ。
その崖はリーゼがシェールを助ける為に突き落とした崖であった。