幻の章−7『大切な欠片』


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『…何をしていたのかしら? 由羅さん』

 

「あらん? 見てなかったの、今クリスくんを殺しちゃったのよん」

「あなたがクリスさんを殺すなんて信じられないけれど…」

 イヴの言葉に振り帰りもせず、まるでイタズラを見つかって笑いながら

開き直っている子供ような態度の由羅に冷静な声で返事をするイヴ。

「ええ、ワタシもビックリだわ」

「…そう。そちらのリーゼさんも貴方が殺したのかしら?」

「ちがうわよん。まあ信じなくてもいいけど」

先程からまったく態度の変わらない由羅に、イヴは核心をついた。

「そう。あなたの凶行は、先程放送のあったメロディさんの事に関係あるのかしら?」

「…ええ、そうよ」

 由羅はさっきまでの陽気な態度とうってかわってイヴを睨みつけると、吐き棄てるように答えた。

(やっぱり…)

「陳腐な言葉だけれど、メロディさんの事は残念に思うわ。

 でもだからといってあなたがクリスさんを殺した事をメロディさんが喜ぶのかしら?

 それは意味のない行動ではなくって?」

由羅は1度リーゼの死体に近づき、そっと屈みこんだ。

「…メロディはイイ子だったのよ」

「知っているわ」

「じゃあ何であの子が死ななきゃいけないのよ」

由羅はイヴに背を向けながらゆっくりと立ちあがった。

「…それは…答えられないけれど、でもわたし達が殺しあう意味は無いわ。もし復讐と言うのなら、

 こんな所に連れてきたランディ先生を倒すべきだわ」

 イヴはその為にここに来た。リーゼの呼び掛けに期待して。

結末は…最悪であったが。

「…ランディは人間だわ」

由羅は震える声でそう呟いた。

「そう、だけど…由羅さん、あなた何を言っているの?」

「人間が悪いのよ。全ての人間が!! 自分達の快楽の為に平気でワタシ達を踏みにじる人間全てが!!

 メロディはここの人間が大好きだったのに、その人間に殺されたのよ。

 ワタシはメロディを裏切った人間を一人でも多く殺してやるわ!」

(いけない!)

気付いた時には遅かった。いやクリスを殺した時点で理解しなければいけなかったのだ。

(由羅さんは既に狂っている!!)

突然イヴに向って走り寄って来た由羅の右腕にはしっかりと包丁が握られていた。

(避け切れない)

そう気付いた時には

 

ドサリ

 

イヴの左腕が落ちた。

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