幻の章−6『最悪のめぐりあい』


 

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ランディ放送10分前(早朝)

 

 小さな希望だった。それを逃がすまい、見失うまいと雨の中さ迷いながらも走り抜けた。

「なに…これ…?」

クリスが辿り着いた希望の地には、既に冷たくなって久しい、リーゼの血塗れの死体がただあるだけだった。

「あらん? クリスくんじゃない」

そういって森の中から現れたのは由羅であった。

「由羅さん…良かった、無事だったんだね。でもリーゼさんが…」

「あら? 残念ねえ(ワタシが殺したかったのに)。クリスくんが殺したの?」

「なにを言っているの由羅さん!! リーゼさんが死んだんだよ!?」

クスクスと笑いながら愉快そうにリーゼの死を語る由羅にクリスは声を荒げた。

「ええ、残念だわ〜。自分勝手な人間はワタシが殺したかったのに」

「ゆ…由羅さん? まさかお酒を飲んでいるの?」

クリスは明らかに様子のおかしい由羅に心配気に近づいた。

「うふふ、心配してくれるのねクリスくん。ありがと」

「うわあっ! ちょっと由羅さん!?」

由羅に突然抱きしめられ悲鳴をあげるクリス。

 

「あのね…」

 

クリスの首にそっと由羅の手がかかる。

 

「メロディがね…」

 

その手に軽く力が入る。

 

「え、え? 由羅さん…苦し…」

 

 クリスは由羅が何をしようとしているのか解らなかった。

だから、不幸にも抵抗しなかった。

 

「メロディ…死んじゃった」

 

そして一気に力を込めた。

 

「…ぅ…ぁ……」

 鐘が鳴り、ランディの放送が始まった。

『最初の夜があけたな、まず死者を発表する〜』

ランディの放送終了と同時、ドサリという音と共にクリスの体が地面に崩れ落ちた。

 

「…最後まで抵抗しなかったわねクリスくん。…ワタシのこと、信じてくれてたの?」

 2度と答える事の出来ないクリスにそう呟く。

涙は…流れなかった。

「そう…そうなのね」

 無垢な、綺麗なものが好きだった。綺麗なままでいて欲しかった。人間を信じたかったから。

 

だから…

 

「…おかしいわね、何でこんなに人間不信なのかしらワタシ?」

 

「…何をしていたのかしら? 由羅さん」

 冷めた目でクリスを見下ろしていた由羅に声をかけたのは

悠久学園大学文学部2年 イヴ・ギャラガー であった。

 

 

悠久学園高等部 1−B クリストファー・クロス 脱落

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