幻の章−5『ありがとう。そして…』
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『予想より随分少ないが…まあ雨のせいだったと思ってやる。
もうだいぶなれただろう?お前達のこれからに期待する。放送は以上だ』
「…クレアと更紗はまだ無事か」
ランディの放送を木に寄りかかりながらアルベルトは深く溜息をついた後、自身に舌打ちした。
「犠牲者が出てるってのに何をホッとしてやがるんだ俺は…」
白い化物からは奇跡的に逃げることが出来た。あの状態ではリオも無事に逃げ切ったと願うほかない。
様子を見に行きたいが…血が足りなかった。
「血が止まらねえ。まさか死ぬんじゃないだろうな?」
その時、ガサリと草木がすれる音が聞こえた。
「誰だ!」
「アタシよアルベルトさん」
「…ローラか。まだこんな所をうろついてたのか?さっきの化け物がまだ近くにいるかもしれん。
もっと遠くに逃げるんだ」
「うん。でもその前にすることがあるの」
「それはいったい…」
パン…と乾いた音が響き、アルベルトは最後まで話すことはできなかった。
アルベルトが最後に見た光景は
笑顔で涙を流しながら拳銃を自分に向けるローラ。
そして最後に聞いた言葉は
『ありがとう…ごめんなさい』
という
近いようで遠い単語二つだった。
悠久学園大学3年社会学部 アルベルト・コーレイン 脱落