久の章−19『無垢なる心で』
39
ゼファーは大雨の中、巨木に寄りかかり夜明けを待っていた。
「ふみぃ? 『たいせつ』なもの?」
「そうだ、他の全てを犠牲にしてもそれだけは守る。そんな大切なものはあるか?」
「ふみぃ〜?…ふみゃあ?…うみゅぅ?…」
ゼファーは頭を抱えて考え込むメロディを優しげな目でみつめた。
「…メロディよくわかりません」
「そうか。ではメロディが俺と由羅2人と別々の約束をしたとしよう」
「はいやくそくしました〜」
ゼファーの質問にメロディは元気に答えた。
「その約束は同じ日、同じ時、そして別の場所だった。メロディはどっちに行く?」
「りょうほうにいきます〜」
「ふむ、どうやってだ?」
「ふみぃ?それは〜…うみゃぁ?」
ゼファーは考え込むメロディの首を両手でそっと掴む。
メロディは不思議そうな顔をしながらも師匠と慕い、尊敬しているゼファーの行動に対して
無抵抗であった。不思議そうな顔ながらも微笑みは絶やしていない。
「全てを守りきれないなら、大切な一つを守る。それが約束でも、人であっても。
それが万能では無いと気付いた時からの俺の答えだメロディ」
そして…
大雨の夜が明けるとゼファーは再びメロディが永遠に眠った場所にまいもどった。
「『大切なもの』違うな『大切な約束』か?」
木に寄りかかっている2度と動かなくなったメロディを見る。
そしてゼファーは気付く。
メロディの手に鈴が握られていることを。
「…そうか、そうだな。『メロディが1番大切なもの』そう捉えている者がいたな」
そう呟いた後、ゼファーは永い間メロディをみつめ、そしてゆっくりと歩き出した。