久の章−19『無垢なる心で』


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 ゼファーは大雨の中、巨木に寄りかかり夜明けを待っていた。

 

「ふみぃ? 『たいせつ』なもの?」

「そうだ、他の全てを犠牲にしてもそれだけは守る。そんな大切なものはあるか?」

「ふみぃ〜?…ふみゃあ?…うみゅぅ?…」

ゼファーは頭を抱えて考え込むメロディを優しげな目でみつめた。

「…メロディよくわかりません」

「そうか。ではメロディが俺と由羅2人と別々の約束をしたとしよう」

「はいやくそくしました〜」

ゼファーの質問にメロディは元気に答えた。

「その約束は同じ日、同じ時、そして別の場所だった。メロディはどっちに行く?」

「りょうほうにいきます〜」

「ふむ、どうやってだ?」

「ふみぃ?それは〜…うみゃぁ?」

ゼファーは考え込むメロディの首を両手でそっと掴む。

 メロディは不思議そうな顔をしながらも師匠と慕い、尊敬しているゼファーの行動に対して

無抵抗であった。不思議そうな顔ながらも微笑みは絶やしていない。

「全てを守りきれないなら、大切な一つを守る。それが約束でも、人であっても。

それが万能では無いと気付いた時からの俺の答えだメロディ」

 

 

 

そして…

 

 

 

 大雨の夜が明けるとゼファーは再びメロディが永遠に眠った場所にまいもどった。

「『大切なもの』違うな『大切な約束』か?」

木に寄りかかっている2度と動かなくなったメロディを見る。

そしてゼファーは気付く。

メロディの手に鈴が握られていることを。

「…そうか、そうだな。『メロディが1番大切なもの』そう捉えている者がいたな」

 

そう呟いた後、ゼファーは永い間メロディをみつめ、そしてゆっくりと歩き出した。

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