久の章−18『雨宿り2』


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「ア、アレフ様!?」

「!?」

アレフは混乱した。雨宿りに入った小屋に二人の少女が先客としていて、しかも抱き合っているのである。

「あの? アレフ様?」

クレアは口を開けたまま驚愕の表情で固まっているアレフにもう一度声をかけた。

「な、なんてことだ!! 俺のデートの誘いを断るからおかしいとは思っていたけど

こんな秘密があったなんて!」

「あ、あの…アレフ様何をおっしゃっているのですか?」

「だからって美少女二人が勿体無い、勿体無すぎるんじゃあないか?」

「あの…」

「ああ、嘆かわしい、こんなことがあっていいんだろうか?」

「…」

「いいやまだ間に合う! 今からでも健全な男女交際に目覚めさせるべきだ!」

「話を聞いてください!!」

 

ゴスッ!!

 

 という音と共にクレアのストレートがアレフの顔面にヒットし、

1人暴走していたアレフはそのまま気を失った。

「なんだ違うのか、俺はてっきり…」

「…変な事いわないで下さい」

 数分後、意識を取り戻してからアレフはようやく自身の勘違いに気がついた。

「てっきり…何?」

「更紗様は気にしちゃ駄目です」

「…まあいいや。それより雨は一晩止まないな。俺も今晩はこの小屋で過ごすよ」

「ええっ!!」

アレフの言葉にクレアが更紗を庇う様に後ずさった。

「おいおいクレア、その反応はあんまりじゃないか?」

「で、ですがアレフ様と一晩同じ部屋で過ごすのはその…危険過ぎますし…」

「そんなに信用が無いのか俺は…」

 

あるわけが無い。

 

「信用と言いますか、その…」

「『その』何だい?」

「兄様が言うにはアレフ様の側に長時間いるだけで妊娠してしまう。と」

クレアは真っ赤になって答えた。

「アルベルトの野郎!!」

「…アレフ怖い」

「ああ、ゴメンよ更紗。まあしかたないか…この大雨の中、外で一晩過ごすよ俺は」

 アレフは立ちあがり、ドアを開ける。真っ暗闇の中、滝のような雨音が激しく響いた。

「…凄い雨だな。まあ平気さ、それでクレア達が安心して眠れるなら風邪を引くくらい安いもんさ」

 アレフはそういって寂しげに笑った。…が、なかなか外に出ない。

「…あ、あのアレフ様、小屋に居て下さい。この大雨は危険ですわ」

「いいのかクレア? 俺のこと信用してくれるのかい?」

「…はい、アレフ様を信用致しますわ。ただし…」

クレアはそういうと小屋の中央に線を引いた。

「この線からこちら側には入らないで下さいね」

そう言ってニッコリと笑ったクレアにアレフは物凄く微妙な笑顔で答えた。

「(…アレフ、もしかして凄い?)」

更紗は久々のクレアの笑顔を見て嬉しかった。

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