久の章−16『ルーティ迷走』
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「嫌だよう…怖いよう…」
土砂降りの雨の中、薄暗い洞穴で、悠久学園高等部1−A ルーティ・ワイエスは
両手で肩を抱きながらまるくなり、小さく震えていた。
「何で? どうして?」
わけのわからないランディの集会の時、額をボウガンの矢で貫かれ死んだマリアの姿が頭から離れなかった。
「嘘だよ、あのマリアが死んじゃうなんて…」
学園でもっとも親しかったマリアの死。
そして現在一人ぼっちであるという不安、寂しさ、恐怖。
それらの感情が順めぐりでルーティを支配し、泣き疲れ、心はボロボロになった。
「お父さん、お母さん…助けて、ルシード」
ルーティは疲れきっていた。そして無意識だった。
「…あれ? アタシ、どうして?」
呟いた本人も何故ルシードの名前が出たのか不思議だった。
「…アタシ、ルシードのこと好きなのかな? そんな筈無いと思うんだけど…」
少しだけルシードの事を考えてみる。
「プッ、アハハ・・・」
ルーティの中のルシードはティセにコーヒーを引っかけられたり、
ティセの作ったできの悪い腹巻を貰って泣きそうな顔をしたり、
バレンタインに大量に貰ったチョコレートをティセにあげて苦笑いしているそんな二枚目半の姿だった。
少しだけ心が軽くなったルーティは強烈な睡魔に襲われそのまま深い眠りについた。
夜になっても雨は激しく降り続いた。
その雨の中、ルーティが眠る洞窟に一人の侵入者が現れた。
「・・・」
ルーティは夢を見ていた。
夢の世界のルーティはゼファー、バーシア、メルフィ、ビセット、フローネ、ティセ。
そしてルシードと共に魔物事件専門の特殊警察のメンバーとして働き、
街の住民であるリーゼやシェール、更紗達と共に充実した日々を送っていた。
それはとても幸せで楽しい夢だった。
侵入者は幸せな顔で眠るルーティを見つめ・・・
「フンッ!!」
グシャッ!!
手に持っていた金属バッドでルーティの頭を叩き潰した。
「ハンマー。駄目ね、私には重くて扱えないわ」
侵入者は自身の美しい顔に張り付いたルーティの返り血を拭く事もせず
荷物を漁っていたが目にかなった物がなかったのであろう、軽く溜息をつくとすぐさま洞窟の外へ歩き出した。
漆黒の空と土砂降りの雨の中を・・・長く美しい黒髪が体に張り付く事も気にせずに。
頭を叩き潰された時、ルーティは眠っていた。…幸せな夢を見て。
・・・苦しまなかった筈である。
悠久学園高等部 1−A ルーティ・ワイエス 脱落