久の章−15『嫉妬と憧れと…2』
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小雨が降り始めた。
フローネは小さくなるルシードの後姿をじっと見つめていた。
(・・・センパイが行ってしまう)
ズキン
(・・・胸が痛い)
ズキン
(今ならまだ・・・間に合う)
ズキン
(駄目、言えない。でも・・・)
ズキン
「・・・せ、せんぱ」
「ほえ〜、フローネさんどうしたですか?」
ルシードが見えなくなってしばらくした時、そしてフローネがルシードを追いかけようと
決意した瞬間、眠っていた筈のティセがフローネの側まで来て声をかけた。
「・・・ティ、ティセちゃんいつから?」
「ほえ?たった今起きたんですぅ〜。フローネさん何してるんですか?」
「私は・・・」
フローネはティセの顔を見つめる。
(殺し合いが始まっている。マリアちゃんやセリーヌさん、ヴァネッサ先生はもう…
ティセちゃんが死んだとしてもおかしくない。もし今ティセちゃんがいなくなったら先輩は…)
「フローネさん? どうしたですか? お腹痛いですか?」
「えっ?」
フローネが顔を上げるとティセが不安げな顔でフローネの体を気遣っていた。
真直ぐな曇りの無いティセの瞳を見てフローネは自身の愚かな妄想を振り払った
「ティセちゃん…ごめんなさい」
「ほえ? 何がですか?」
「今センパイに会ったの。急いで合流しましょう」
「ご主人様がいたですか? ど、どこですかご主人様〜!!」
ティセの大声はキーンと鳴り響く拡声器のハウリング音によってかき消され、
そのままリーゼの放送が流れた。
「あ、あうっ、ご主人様〜!!」
放送が終わった頃には既にルシードはティセの声が聞こえる範囲にはいないようだった。
そしてたたみかけるように土砂降りの雨が降り注いだ。
「…この雨じゃもう、ティセちゃんとりあえず雨宿りしましょう。これじゃセンパイを追いかけるのは無理だわ」
「で、でもご主人様が…」
「大丈夫、きっと会えるわ。それにリーゼさんの放送をセンパイも聞いていたらそこで会えると思うの」
「は、はいですぅ〜」
ティセはしぶしぶ頷くと、フローネと共に巨木の幹に座り込んで雨が止むのを待った。
雨は…瀧のような雨は一晩降り続いた。