久の章−14『嫉妬と憧れと…』
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「これからどうすればいいのかしら?」
フローネが不安を口にした隣で、先程合流したばかりのティセは安心したのか?
いつもの幸せそうな顔で眠っていた。
「・・・センパイ、助けに来てくれないかな?」
「あうぅ・・・ご主人様、もうお皿割らないから許して欲しいですぅ」
フローネの呟きと同時にティセの寝言。フローネは思わず苦笑した後、空を見上げた。
木々の間から見える空はどんよりと曇っていた。
「雨が降りそうだわ。どこか雨宿りできる所を探さないと」
フローネはティセを起こさないようにそっと立ち上がると草木が深い方へ歩き出した。
「「えっ!?」」
荷物やティセが眠っている場所からほんの数メートル。
草木を掻き分けた途端目の前で同じく草木を掻き分けて歩いてきたルシードと顔を合わせた。
「せ、センパイ!?」「フローネ!?」
またも同時に声をあげる。
「良かったセンパイ、無事だったんですね」
「ああ、お前も無事だったか」
フローネは喜びのあまりルシードに抱き付きたいという衝動に駆られたが、
自身の自制心の力に押さえ込まれ、行き場を失った衝動が涙という形になって一気に押し出された。
「良かっ・・・センパイ、私、本当に心配で・・・」
「お、おい、何も泣くことはねぇだろ? そんなことよりティセの奴を見てねぇか?」
「えっ?」
(・・・そんなこと?)
「ティセの奴だよ。あの馬鹿がこんな山に一人じゃ怪我でもしねぇかと心配でな。
さっさと見つけ出して捕まえとかねぇとおちおちランディも殴りに行けねぇし」
(心配?・・・ティセちゃんが?・・・ティセちゃんだけ?)
「? どうしたフローネ、なんか調子でも悪ぃのか?」
話していてもどこか上の空のフローネをルシードは怪訝な顔で見つめた。
「・・・知りません」
「あ?」
「・・・ティセちゃんなんて知りませんし、見てもいません!」
フローネは小さな呟きから一転して大きな声できっぱりと答えた。
「あ、ああそうか、みてないんじゃしょうがねぇよな」
フローネの突然の剣幕に多少たじろぎながらもルシードは言葉を続けた。
「・・・ランディの放送聞いたか?」
「・・・はい。セリーヌさんやヴァネッサ先生が死んだなんて信じられませんけど」
ルシードは一度唾を飲み込むとフローネの目を見て言葉を続けた。
「本当だ。セリーヌの死体を見た」
「そんな!? それじゃ私達の誰かが殺し合いをしてるんですか?」
「わからねぇ。ランディの奴が殺しまわってるのかも知れねぇしな。どっちにしろ一人は危険だ。
しばらくはティセ探しになっちまうが一緒に行動しねぇか?」
「は・・・い・・・いいえ、一緒には・・・行けません」
一瞬目を輝かせたフローネはすぐに目を伏せ、そう答えた。
「おい、もし自分が足手まといになるとかそんなことを考えてるんだったら・・・」
「いいえ、違いますセンパイ。私絶対人に見つからない場所を見つけたんです。
体力の無い私が先輩と一緒にいるよりそっちの方が安全ですから」
「・・・わかった。ランディの奴をふんじばったらさっきの放送で知らせる」
「はい先輩。みんなで悠久学園に帰りましょう」
「ああ・・・っとそっちはフローネがいた方だからティセはいねえんだったよな」
「え? は、はい」
ルシードは来た道を歩き始めた。
「あ、あの、センパイ!」
「あ? 何だ?」
「・・・ティセちゃんが早く見つかるといいですね」
「ああ、そうだな」
ズキン
フローネは心の痛みを感じながらも何も言えず、ただルシードの背中を見つめる事しか出来なかった。