久の章−12『由羅の不安』
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(…どこ? 何処にいるのよメロディ?)
悠久学園大学三年、教育学部 橘 由羅はドームから出された後、妹であるメロディを探す為走り続けていた。
ドームから出されてすぐにランディの放送があった。
そして学園の仲間同士で殺し合いが始まっていた。
(どうして人間はこう馬鹿なのよ…ここの連中は信用出来ると思っていたのに…)
学園の仲間達で殺し合いなどする筈が無い。マリアちゃんは気の毒だが、
だからといって自分達が殺し合いをする道理等無いのだ。アレフくん達がランディを倒してくれるだろう。
自分は彼らの邪魔にならず、メロディや更紗達を守れば良い。
由羅はドームを出るまでそう考えていたのだ。
「金持ちの道楽ですって?…そんな事にあたし達ライシアンを巻き込まないで!!」
由羅はそう吐き捨てた。
由羅達ライシアンが人間と同じく対等に扱われたのはごく最近であった。
美しく、弱く、人間に保護されなければ人権が無い。それだけの理由で人間が自分達をどのように扱ってきたか…
由羅はそれを考えるだけで腹立たしくなった。自身がそう扱われたわけでは無いのに。
「前世の記憶…かしらね?」
由羅は特にランディが嫌いであった。だからランディがこのような暴挙を起したとしても
(こいつはいつかそんなことをすると思っていたのよ)と、心の中で吐き捨てた程だ。
「違う…今はランディなんてどうだっていいわ。メロディ、メロディさえ無事なら…お願い、メロディ出てきて!」
チリーン
由羅の耳に微かに鈴の音が聞えた。
メロディが懐き、多少なりともマシな人間だと由羅も認めている男がメロディにプレゼントした鈴の音だった。
「この音は…メロディが気に入って普段から持っている鈴の音だわ、メロディそこにいるの?」
由羅は鈴の音が聞こえた方向へ走り出した。
「…メロディ?」
メロディは大きな木に寄りかかりながら腰を下していた。
僅かに通る風がメロディの首につけられた鈴を鳴らしていた。
「無事でよかったわメロディ。お昼寝してるの? 風邪ひいちゃうわよん」
由羅が優しくメロディの頬を撫でる…冷たかった。
「えっ…メロディ?」
メロディはそのまま横向きに崩れ落ちる。
…チリーン
その衝撃でメロディの首から鈴か転げ落ちた。
メロディはそのまま2度と目覚める事はなかった。
そして鈴の音が虚しく風に踊っていた。
悠久学園高等部1−D メロディ・シンクレア 脱落