久の章−11『永遠の一瞬3』
31
雨が降ってきた。
「…違う、私…私は…」
目を閉じていたエルは震えた声で呟くシェリルに気付き、ゆっくりと目を開いた。
「…あれ? アタシは…トリーシャ?」
エルは痛みも感じず、身体の何処にも異常は無かった。ただ目の前にトリーシャの後姿があった。
「エル、怪我は無いよね?」
「あ、ああ。トリーシャ、いったい…」
振り向き微笑んだトリーシャの顔色はあまりにも白く、生気が無かった。
「…よかった」
そう言った後、トリーシャはエルに寄りかかるように倒れた。
「えっ? トリーシャ、なっ!?」
とっさに抱きとめるエル。抱きとめた腕にヌルリと生暖かい感触があった。
「これ…血、トリーシャどうして!?」
抱きとめた状態のまま、トリーシャを地面に寝かせるエル。
トリーシャの胸に刺傷。血が…止らなかった。
「だって…エル危なかったから…」
「だからってトリーシャが、すぐに血を止めないと!」
「大袈裟だなあ…ねえエル、シェリルはどこ?」
「シェリル? シェリルは…いないよ。どっかに行ったみたいだ」
既にシェリルの姿は刀と共に無かった。
「大変だ、エルすぐにシェリルを探して! あのままじゃシェリル危ないよ」
「何言ってんだいトリーシャ! 今はあんたの方がよっぽど…ちっ、包帯か何かないのかい?」
傷口に当てたタオルが一瞬で真っ赤に染まる。エルは荷物を漁り始めた。
「…ねえエル…ボクもう駄目かな? なんだか目が霞んできたよ…」
「喋るんじゃないよトリーシャ! アタシが必ず助けるから」
荷物にあったタオルを結び、トリーシャの胸に縛りつける。
「…そんなにきつく縛ったら…胸苦しいよエル」
「我慢しな。医者は…この際ディアーナを探すしかないか?」
エルはトリーシャを抱き上げ歩き出した。
「…んっ!」
「あっ、苦しいかいトリーシャ? でも少し我慢してくれ、必ず助ける」
「…頼もしいねエル」
トリーシャが力なく笑う。
(…ゴメンね。ボク、優しいエルの事大好きだよ)
雨が更に激しく降ってきた。
「ちっ、こんな時に…トリーシャ、辛いだろうけど雨宿りしてる余裕は…トリーシャ?」
返事が無かった。
「嘘…だろトリーシャ?」
顔を近づける。トリーシャの呼吸は既に止っていた。
「…トリーシャ?」
エルはトリーシャを抱いたまま、ガクリと膝をついた。
「うっ、うああ……うわあああああああああああああああああああっ!!!」
悠久学園高等部2−B トリーシャ・フォスター 脱落