久の章−10『永遠の一瞬2』


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雨が降っていた。

 

誰を怨めばいいんだろう?

何を憎めばいいのだろう?

何故こうなってしまったのだろう?

 

全身で滝のような雨を浴びながら既に動かない血塗れの少女を腕に抱き、彼女はそう自問した。

 

 

――――リーゼ脱落10分前

 

 

その時まだ雨は降っていなかった。

「…何してるんだい?」

 会いたかったトリーシャ。そして友人のシェリル。

しかしその2人の間に流れる奇妙な空気にエルは眉をひそめた。

「エヘヘ、ちょっとね。それよりエル手を貸してよ」

「あ、ああそうだね」

座り込んでいたトリーシャに手を貸して立ちあがらせる。

「良かったエル。会いたかったよ」

「ああ、アタシもだトリーシャ」

お互いの無事を確認し、改めて安堵する2人。

「良かったねシェリル、3人いれば大丈夫だよ! これからみんなを探して悠久学園に帰ろう?」

エルとの合流を果たし、シェリルも多少なりとも落ちついただろうと考え笑いかけるトリーシャ。

「……り」

「えっ? なあにシェリル?」

「…やっぱり思った通りだったわ。トリーシャちゃんとエルさんグルだったのね」

「シェリル?」

「なんだい? さっきから様子が変だったけどシェリルはどうしたんだ?」

先程から様子のおかしかったシェリルについてトリーシャに訪ねるエル。

「…えっと、ちょっと疲れただけだよね、シェリル?」

「そうよ、そうだわ! トリーシャちゃんが油断させてエルさんが私を殺す機会を狙っていたんだわ。

 だってこんなタイミング良くエルさんが現れるなんて出来過ぎてるもの」

「シェリル何を言って…」

「それに殺し合いが始まっているのにトリーシャちゃんはどうしてそんな簡単にエルさんを信用してるの?

 そんなの…おかしいわ!」

エルの登場によってシェリルの混乱の迷宮は更に深くなっていた。

その出口は今の彼女にとって自身の右腕にしかなかった。

「…だって殺されちゃうもの」

シェリルはカタカタと奮えながら右腕に持っていた刀を両手で握り締める。

「シェリル落ちついて…ね?」

「おいシェリル、さっきから何をしてるんだい?」

シェリルの動向は今のエルにとって意味不明でしかなかった為、語尾が荒くなっていた。

 

…ソシテソレガヒキガネニナッタ。

 

「嫌っ!!」

シェリルは刀頭を前にし、エルに突っ込んだ。

「なっ!!」

「エル!?」

「…いや、大丈夫だトリーシャ」

 突然の行動に一瞬戸惑いはしたが、いかに刀を持っているとはいってもエルにとって

シェリルはどうという事は無かった。

(恐怖で錯乱していたのか…だったら押さえ付けて刀から手を離させれば少しは…)

そう、余裕があった。だから避けなかったのだ。

 

『みなさん聞いてください!!』

 

その時、キ―ンというハウリング音の後、拡声器を使ったリーゼの声が聞えた。

「えっ?」

その声にエルは一瞬気を取られた。

「エル危ないっ!!」

「しまっ…!」

 

 

『こんな馬鹿な事に参加する必要は無いわ! 同じ悠久学園の生徒が、一緒にミッション授業を受けた

仲間である私達が殺し合う必要なんてないもの。みんなで…』

 

 

鈍い音の後、拡声器を使ったリーゼの声だけが虚しく山に響いていた。

 

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