久の章−9『永遠の一瞬』
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――――ランディの放送直後、リーゼ脱落30分前
「いやああああああああああああああっ!!」
「ちょっと、シェリル落ち着いて!」
シェリルとトリ−シャは木々の生い茂った山の中腹で大きな木に寄りかかりながら座り込んでいたが、
ランディの放送直後、シェリルが再び混乱して叫び出した。
「いやっ、放してトリーシャちゃん!! ヴァネッサ先生が、ヴァネッサ先生まで…」
「落ち着いてよシェリル! きっと何かの間違いだってば」
「間違い? 何を言っているのトリーシャちゃん? 私達マリアちゃんが殺されるのを見たじゃない!
セリーヌさんの死体も見たじゃない!!」
シェリルがヒステリックに叫ぶ。
「そ、それは…」
「こんな所にいたら私達も殺されてしまうわ、早く逃げないと」
「違うよシェリル、みんなと合流した方がいいよ」
「みんなと合流? みんな殺し合いをしているのよ?」
シェリルが信じられない物を見るような目でトリーシャを見つめた。
「だからそれが間違いだってば! ボク達が殺し合いをするわけが無いじゃないか!!」
シェリルの腕を掴んでいた手に力がこもる。
そうであると信じたいと願うトリーシャの気持ちの表れであった。
「…放して」
シェリルは自身の腕を掴んでいるトリーシャの手を見た後、消え去るような声でそう言った。
「えっ?」
「その手を放して! トリーシャちゃんさっきから嘘付いてる! どうして?
トリーシャちゃんも私の事、殺そうとしてるの?」
「シェ、シェリル、何を言ってるんだよ?」
「放してっ!!」
「わあっ!」
シェリルはトリ−シャを突き飛ばした。たまらず悲鳴を上げるトリーシャ。
「いたたっ、シェリルひどいじゃないか!…って何してるの?」
シェリルはトリ−シャの荷物を漁っていた。
「…やっぱりあったわ。この刀でトリーシャちゃんも私を殺そうとしてたのね」
シェリルがトリーシャの荷物から取り出したのは刀身が鈍く光る刀だった。
「ボク刀なんて知らないよ! ランディ先生が言っていた武器でしょうそれ?
それより危ないよ、そんなのしまってよシェリル」
「トリーシャちゃんは親友だって信じてたのに…」
既にシェリルの耳にトリーシャの言葉は届いていなかった。
刀を構えてトリーシャを見つめるその瞳も正気では無い。
「シェリル? 嘘…だよね?」
「トリーシャ、シェリル!! よかった、無事だったか」
トリーシャが絶望感に包まれていた時、彼女のもうひとり大切な親友の声が聞こえた。
「エル!!」
トリーシャとシェリルの親友であり、信頼できる仲間エル・ルイスであった。