久の章−5『森の遭遇』
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「そう…ううん、そんなことないわ。お昼寝の最中起しちゃってゴメンね」
不思議な光景だった。
悠久学園高等部3−B フローネ・トリーティアが白い兎と会話していたから。
会話というには少しおかしいかも知れない。フローネが一人で話し、頷いているようにみえるからだ。
「あ、そうだ兎さん、髪が紫色で背が高くて目つきの悪い人間を見てないかしら?」
白い兎は鼻をヒクヒクとさせながらじっとフローネの目を見つめていた。
「え?『パイプ椅子を担いでブツブツ文句をいいながら山を登っていた背の高い男なら見た』
誰かしら? 先輩ならそんな馬鹿な格好で愚痴を言ったりしないと思うし…
うん、ありがとう。そうね、怪しいからその人が行った方には行かないようにするわ」
兎はフローネに手を振ると森の中を駆けて行った。
動物と会話する事が出来る。フローネにはそんな不思議な力があった。
しかしそんな事は誰も信じてくれるわけが無い。フローネはその力を普段から使わず、誰にも話したりはしなかった。
ガサガサッ!!
その時草木の間から亀が現れた。
「あら? 森の中に亀さんがいるなんて珍しいわ。どうしたの、迷子になったの?」
フローネは突然現れた亀に話し掛けた。
「『兎さんと競争していた』? さっきお昼寝していた兎さんかしら?え、
『そしたら突然人間に襲われて命からがら逃げてきた』ですって?
酷いわ!誰がそんな意地悪な事してるのかしら?」
亀はなおもフローネに訴え続けた。
「『その人間は『スッポンさんです〜鍋にすると栄養があるです〜』と言いながら追ってきた』ですって?
『でもその人間は何度も転んでいたからなんとか逃げのびた』そう…
『ついでにピンクの髪で』ってもういいわ亀さん。誰だか想像できたから…」
フローネは頭を抱えながら溜息をついた。
「スッポンさんどこですか〜まってくださ〜い」
遠くから緊張感の無い声が響く。
「あ、亀さんもう逃げて。ええ大丈夫よ私がくいとめるわ」
亀はフローネに頭を下げるとノソノソと歩き出した。…走っているのかもしれない。
「…あの亀さんに追いつけないティセちゃんっていったい?」
「ほえ? あーっフローネさんです〜会えて良かったですぅ」
亀が消えると同時に現れたのは、フローネの予想通り、
悠久学園高等部2−C ティセ・ディアレエックであった。