久の章−3『ゼファーの罠』
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「…なん…だって?」
リサはあまりの事に言葉がつまった。
ランディの放送は既に殺し合いが始まっており、マリアに続きセリーヌ、
ヴァネッサの2人が死んだという衝撃の内容であったから。
「…既に始まっていたようだな」
ゼファーの表情に変化は無い。しかしその目にはある決意のような色が浮かんでいた。
「くっ! よりにもよってその2人が…」
人を疑う事を知らないセリーヌと最も生徒思いだったヴァネッサ。
誰であれば良かったというものでは無い。そんな事は解りきっていたがそれにしてもと
思わざる追えない2人が学園の仲間に殺されたのだ。リサにはよりにもよってと言う他なかった。
ドン!!
平静でいられなかったリサは突然背中を突き飛ばされた。
「なっ!?」
数歩前によろめく。すると大地は突然消失し、激しい衝撃の後、世界が暗闇に覆われた。
リサは落とし穴に落ちた。
「…ッ! これは!?」
衝撃で打ち付けたであろう左肩を押さえながら辺りを見まわす。
空に光り、そしてその光りから自分を見下ろすゼファーの姿があった。
「ゼファーあんたどういうつもりだ!!」
「『罠を張って待っていた』と言った筈だが?」
「何を…私を罠にはめてどうするつもりだい!?」
ゼファーを睨みつける。
「おかしな事を言うなリサ。これは殺し合いなのだろう? 敵を罠に填めないでどうするつもりなのだ?」
「敵…だって? アンタこの馬鹿なゲームに参加するつもりなのかい!?」
「先程『他の方法があるのか』と聞いていたな? 脱出が不可能なのは地図を見て解っていた。
そしてもはやランディを倒す方法は無いというのが俺の結論だ。
恐らく唯一のチャンスはマリアが殺された時の集会だったのだろう。もはや手後れだがな。
そして参加者を全員集めてランディのいるドームを襲撃するという手があったかもしれないが
先程の放送でそれも手後れという事になった。この島から脱出する方法は1つ。
最後の一人に生残る事であると俺は判断した」
リサは歯軋りした。目を見れば解る。ゼファーは本気で言っているのだ。
「アンタは生徒を殺せるのかい? 私を…殺せるのかい?」
「…ああ。俺は死ねない。同じ失敗はもう出来ないからな」
ゼファーは自分の両足に1度目をやった後、荷物からライフルを取り出しリサに構えた。
「ゼファー!!!」
リサはゼファーに向けてナイフを投げた!!
ドスッ!!
ナイフはゼファーの頬を掠め、後の木に突き刺さった。
「…リサ、何か遺言はあるか?」
ゼファーはナイフが頬を掠めた事を気にも留めず、ライフルの照準をリサに向けながらそう言った。
「フフ…そうだね。私、アンタの事結構気に入っていたよ」
それがリサの精一杯の告白だった。
「…そうか」
森に銃声が響いた。
悠久学園高等部3−D担任、体育教師リサ・メッカーノ 脱落