久の章−2『ゼファーの罠』
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――――ランディの放送15分前
(…脱出は不可能)
悠久学園高等部3−D担任、体育教師リサ・メッカーノは支給されたナイフを右手で器用に回しながら
先程みた海と島を区切る断崖絶壁を見て、答えの変わらない思考を繰り返していた。
「脱出は不可能、殺し合いなんて最もバカバカしい。だったら方法は1つしかないね」
パシィッ!!
リサは右手でもて遊んでいたナイフを1度放り投げ、柄をしっかりと掴み直し、
鏡の用に磨き上げられたナイフの刀身を見る。
「ランディを殺す」
…鋭い眼光だった。
リサは刀身に写る自身の目を見て溜息をついて目を閉じる。
「フフ、大丈夫だよ、今度は復讐じゃ無い。守りたいものがある。だから戦うんだよ」
脳裏に浮かんだ幼くして殺された弟に答える。
リサ・メッカーノ。弟を殺した殺人鬼を殺す為傭兵になる。復讐を果たした後、
経歴を偽造、悠久学園体育教師として現在に至る。
「ランディ、奴も似たような経歴だろう。同じ血の臭いがした。だが勝つのは私だよ」
幸い支給された武器は傭兵時代に自分が最も得意とするナイフだった。
「だけど確実に勝つにはサポートが欲しいね。生徒を危険な目に合わすわけにはいかない。だとするとやはり…」
一人の男を思い浮かべる。何を考えているのか今1つ掴めないが、高い知識を持ち、
冷静な判断力を併せ持った男を。
(おそらく彼も何か過去を背負っているのだろう。そして彼なら自分の傭兵であったという
過去を知ったとしても『…そうか、それでそれが何なのだ?』そう本気できりかえすだろう。
だから彼に心引かれたのかもしれない)
「リサか、どうした?」
「えっ?」
林の中から道を歩くリサに突然の声をかけたのは今まさに思い浮かべていた相手、
悠久学園 高等部3−B担任 物理教師、ゼファー・ボルディであった。
「ゼファー、あんた林の中突っ立って何してんだい?」
「罠を張って待っていたのだが…リサこそどうした? 何か考え事をしていたようだが?」
「そうだ、アンタに会えて良かった。アンタの力を借りたかったんだ」
「ほう? 話してみてくれ」
リサは促されるままに先程の考えをゼファーに話した。
「…なるほど。ランディを倒すのが一番確実な脱出方法だというわけだな」
ゼファーは腕を組み、考える仕草をした。
「ああ、あんたの力を貸して欲しい。それとも他に何か方法があるかい?」
「フム、俺の考えは…」
その時、島全体に鐘の音が響き、ランディの放送が流れた。