悠の章−18『更紗とクレア』


 

 

18

「…何、してるの?」

悠久学園3−Aクレア・コーレインが声をかけられたのは、

級友のセリーヌを土に埋めている最中の事であった。

「…更紗…さま?」

自分の反応が酷く鈍かった気がする。ただ黙々と土を掘っていたせいかもしれないとクレアは思った。

「…セリーヌ埋めてるの?」

「…はい、他にしてあげられる事が、思いつきませんでしたので」

クレアは力なく答えた。

「…あたしも…手伝う」

更紗はクレアの反対側に座り、セリーヌに土をかけ始めた。

(…私、何をしているのでしょうか?)

 

扉の前で兄が待っていると思っていた。

いなければ待とうと思っていた。

開かれた扉の前にいたのは血だらけで既に冷たくなっていた級友ただ1人だった。

扉を叩いても、大声をあげても扉の向こうは返事をしてくれなかった。

血を吐いたのであろうセリーヌの血だらけの口元をハンカチで綺麗に拭った。

 

…自分に出来るのはそこまでだった。

 

 このまま野ざらしのままではセリーヌが余りに不憫だと思い土に埋める事にした。

それが正しいのかどうかは解らない。

クレアは表情を凍らせたまま、ただ黙々と穴を掘り続けていた。

 

 

「…ア、クレア、終ったよ?」

「え? あ、そうですわね」

手に持った土を落す。セリーヌは完全に土の中に埋った。

「…セリーヌ様とは御学友だったんです」

「…」

「とても良い御方でしたのに…どうして!」

 

クレアは泣き出した。嗚咽が止まらなかった。

 

更紗はそれを、ただ黙って見つめていた。

 

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