悠の章−16『アレフとクリス2』
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「良かった、アレフ君探してたんだよ」
クリスは息を切らしながらアレフに嬉しそうに話し掛けた。
「クリスか、どうしたんだ?」
「『どうしたんだ』って、何言ってるのアレフ君? 早くみんなを集めてこんな島から出ようよ」
「そうだな。じゃあ後で合流しよう。それじゃあな」
「え? ちょっと待ってよアレフ君! 一緒にいようよ」
歩き出そうとしたアレフをクリスは慌てて引き止めた。
「悪いなクリス、大勢の女の子達が俺の助けを待っているんだ」
「…アレフ君、本当は何を考えているの?」
クリスはアレフを尊敬していた。
学園一のナンパ師であり、授業サボリ過ぎての留年生であり、
居眠りの為の保健室使用率ナンバー1のアレフ・コールソンを、である。
「…マリアが死んだ。俺のせいだ」
アレフは観念したのか、溜息混じりに話し始めた。
「そんな、アレフ君のせいなわけないじゃないか!」
「あの場の異様な空気に気付いていたのにマリアを止められなかったんだ、俺は生徒会長失格だ」
生徒会の仕事をほとんど書記と会計にまかせっきりで遊びほうけていた時点で
会長失格だった気もするがクリスはその事を言及しなかった。
アレフは学園を明るく、楽しい場所にする事を仕事と思っていた事をクリスは知っていたから。
そしてそれは成功していたとクリスは思う。
「だからって1人で行動する意味なんて…アレフ君じゃないとみんなをまとめられないよ」
「違うんだクリス、さっきの女の子を助けるってのは本当なんだ。守りたい子がいるんだよ」
「…シーラさん?」
「ああ、嫌われてるってのは知ってるんだが…だからかな?
どうしてもシーラを守りたいんだ。他の誰よりもずっとな」
アレフは苦笑しながら答えた。自分でもらしくないと思っているのだと思う。
「殺されたのがマリアじゃなく、シーラだったらと思うとゾッとした。
俺がこんなこと思っちまったんだぜ? もう駄目だろ?」
(そう思ったからって普段のアレフ君だったらこんな事を絶対に言う人じゃ無い)
「駄目だよアレフ君、そんな弱気になっちゃ!」
「馬鹿だなあクリス、お前にそんな説教をされる時点で俺は会長失格だよ。
でもみんなと合流するのは間違ってない。ルシードかリーゼさんを探せ。
あの2人ならみんなをまとめられるはずだ」
「…アレフ君」
「頼むぜクリス」
アレフはニッと笑った。いつもより力のない笑顔だった気がした。
「…解ったよアレフ君。でもシーラさんを見つけたらすぐに」
「ああ、みんなと合流する。それまでに出来るだけみんなを集めてくれ」
少しだけ強くなったクリスと、少しだけ弱くなったアレフは別れた。
…これが永遠の別れになる事は今の2人に知るよしもなかった。