悠の章−13『シーラ2』
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『シーラちゃんは良い子ね』
(そんなことない。パパやママ、先生に逆らうのが怖かっただけ)
『シーラさんは頭が良くて優等生よね』
(そんなことない。授業で覚えきる自信が無いから家で予習しているだけ)
『シーラはピアノの天才だわ』
(そんなことない。幼い頃から毎日何時間もピアノの練習をしていれば誰だって上手くなるもの)
『シーラは真面目で努力家よ』
(違うわ、忘れるのが怖いの。頭が悪くて才能が無いのよ。だから毎日練習しないと怖いの。それだけなの)
私はただの臆病者。そんな自分が嫌いだった。
親に言われるがままに幼い頃から始めたピアノ。
ピアノを弾くのは好きだし私にはそれしか無いと思った。
だから卒業したら海外の音楽学校への留学は嬉しかった。
…1年前までは
好きな人が出来た。
その人はパティちゃんの友達で『幼馴染みたいなもん、腐れ縁よ!』と紹介された。
彼はご両親がいなくて、アリサさんの家に居候していた。
『アリサさんに迷惑かけられない』彼はそういって学校の後、
色々なアルバイトをして自分の生活費を稼いでいるとアリサさんから苦笑混じりに聞いた。
自分と全然違う、凄い人だなって思った。
気がつくと彼は学園で凄く有名な人だって気づいた。いつも学園を走りまわっていたから。
理由は簡単、いつも誰かを助けていた。困っている人を放っておく事の出来ない人だから。
私が落ち込んでいる時も一生懸命元気付けてくれた。
ピアノ演奏会の時、上手く弾けなくなった私に、真っ先に駆け付けてくれた。
気がついたら彼の事がどんどん好きになっていた。
そして自分の嫌いな部分をまた見つけてしまった。
彼が別の女の子と仲良く話しているのを見ただけで胸が苦しくなった。
彼は私の物では無いのに…彼はきっとパティちゃんが好きなのに。
パティちゃんは彼の事を『あんな奴何とも思ってない!』といつも言っていたけどそれは嘘。
『サーカスに付き合わされた』『格闘大会に付き合ってあげた』
『夜、一緒にジョギングをした』いつも嬉しそうに彼の話をしていたもの。
でも私にだって食事に誘ってくれたり、演奏会に花束を持って来てくれた。
だから…もしかしたら…
2月14日。
図書館でクスクスと笑っているフローネさんに出会った。どうしたのか聞いたら
パティちゃんがバレンタインのチョコレートを持って下駄箱をウロウロしていたらしい。
きっと彼に挙げるんだと思った。
『義理よ義理! 勘違いしないでよね!!』
そんな事をいいながら。
また胸が苦しくなった。
2月28日。
私は『音楽学校に留学するかも知れない』と告白した。
もし彼が『行くな』と一言言ってくれれば私は…
『行ってこいよ! 留学…』
それが彼の答えだった。他にも何か言っていたけれど覚えてない。
私の恋は終った。