悠の章−12『シーラ』
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口元を押さえつつ黒髪の美しい少女、悠久学園3−Aシーラ・シェフィールドは走っていた。
途中、誰かとぶつかった気がしたが気にせず走り続けた。
立ち止まったら自分自身の何かが崩れてしまうと思ったから。
(さっきのはいったい何だったの?)
ドームから出された時、すぐ側の林で土を掘る音が聞こえた。
『何の音かしら?』
シーラは音のする方を除き込んだ。
そこには同じクラスメイトのクレア・コーレインがセリーヌ・ホワイトスノウを
土に埋めている姿があった。
セリーヌの顔は真っ青で生気は感じられず、制服には大量の血が付着していた。
そして土を掘っているクレアの表情は冷たく凍り付いているかのように無表情であった。
気がついたらシーラは走り出していた。
悲鳴をあげるでもなく、ただ異常な程の違和感を感じ、激しい嘔吐感を覚えた。
走れば余計に気分が悪くなるかもしれない。しかしあの場所にいたくなかった。
(セリーヌさんが殺された? そんな、昨日までは同じクラスで一緒に勉強をしていたのに…)
(クレアさんが殺した? ありえないわ。でも…まさか)
3人は同じクラスだった。そしてミッション授業を通じてクラス内では最も親しい友人となった。
3人で勉強をした事もあるし、お互い色々な相談をしたのだ。
『それは大変ですねえ』
(いつも朗らかな表情で話を聞いてくれていたセリーヌさんが)
『でも〜きっと何とかなりますよ〜』
(いつも明るい声で励ましてくれたセリーヌさんが…)
「うっ…」
考えるとまた嘔吐感が強まる。それを必死に耐え、シーラは走るのを止めなかった。
「駄目、もう走れない」
どれだけ走り続けたのだろう?シーラは体力の限界まで走り、そして膝をついた。
荒い呼吸を整える。少し、落ちついてきた。
「…本当にセリーヌさんだったの?」
じっくり見た訳ではない。もしかしたら見間違いなのかもしれない。
「そうだわ、私達が殺し合いなんてするわけないもの。きっと見間違いだったんだわ」
シーラは先程の林まで戻ろうと決心し、目を開いた。
「………!!」
「い…いやああああああああああああああああああああ!!」
シーラの目の前には血の池と、その池に浮かぶ大量の紅い髪があった。