悠の章−8『疑惑』


 

「いったいどうなってやがる!」

ルシードは険しい表情を隠しもせず、ドームから続く一本道を走っていた。

 

『殺し合いをしろ』

 

 馬鹿な話だった。

何故言われた通り殺し合いをする必要がある?

助かりたければ全員で一致団結してランディを縛り上げればいいだけの話だった。

 マリアが殺された時は奴の周りに機関銃を持った黒服が何名もいたし、

あの場で行動すれば中等部の子供達に被害のでる恐れがあったのでとりあえず我慢したのだ。

 ドームの出入り口近くでみんなを待つ。あるいは待っているみんなと合流する。

特に誰かと相談したわけではなかったが恐らくそうなる物だと思っていたのだ。

 しかし現実は出入り口の前で既に死んでいたセリーヌがそこにあっただけであった。

「信じたくねぇが…まさか本気で殺し合いが始まってるんじゃねぇだろうな?」

 セリーヌをあのままにしておくのは気が引けたが殺した奴が近くにいるかもしれない。

それ以上にノロマなティセ辺りが危ないかもしれない。

「ったく、あの馬鹿! 頼むからじっとしてろよ」

その時、森の中から突然石が投げつけられた。

「なっ! 誰だ!」

石の飛んできた方向を睨みつける。

「声かけても止まりそうもなかったんでね」

ルシードの前に現れたのはエル・ルイスであった。

 

「…おい、いつまでかまえてるんだよ? そりゃあ石を投げたのは悪かったけど当たらないように投げたんだけどね」

「あ、ああ、そうだな」

ルシードはかまえを解いたがエルとは一定の距離をとった。

(最悪だ…セリーヌの死体を見ちまったせいでエルが信用できねェ。)

「なんだいルシード? アンタまさかランディの言う事まに受けてるのかい?」

エルがルシードの態度に怪訝な表情をする。

「…いや、そんな事はねぇが、何か用か?」

「アタシはトリーシャを探してるんだけど見てないかい?」

エルが髪をかきあげながら質問した。

「見てねぇな。俺はさっきドームから出されたばかりだ」

「さっき? 随分遅かったんだね。アタシはもう2時間位前だったけど。まあいいさ、悪かったね、行っていいよ」

「…エル、ティセを見てねぇか?」

「見てないね。見掛けたらルシードが探していたって伝えとくよ」

「すまねェ。…エルはトリーシャと合流したらどうするんだ?」

「そうだね、まあ合流してから考えるけど、こんな馬鹿なゲームに参加する気は無いよ。

 チャンスがあればランディを半殺しにして終らせてやる。…あれじゃマリアが報われない」

拳を強く握り締める。

(エルは信用できる)

ルシードは直感した。

「ランディを半殺しにするのに賛成だ。お互い心配事が片付いたら合流するか?」

「そうだね」

 

お互いニヤリと笑う。

 

 …人の悪い笑顔だった。

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