悠の章−6『ありがとう』
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アルベルトは更紗を担ぎながら無我夢中で走り続けた。
肩に担いでいる更紗はカタカタと震えている。
(くそっ! 子供にあんなショックな物見せやがって!!)
余り知られていないがアルベルトはかなりの子供好きである。
ぶっきらぼうな所はあるが親切で面倒見も良い。ただそれ以上に短気で喧嘩っぱやく、
化粧好きな変な人。という印象が強いのだった。
(それにしても…更紗ってこんなに重かったのか?)
体力に自身はあるが正直疲れてきた。
そろそろ大丈夫であろうと立ち止まり、更紗を肩から下ろした。
「あーっと、大丈夫か?」
「…」
更紗は怯え切った目でアルベルトを見つめる。
「…よっぽどショックだったんだな。でも大丈夫だ、とりあえずここら辺は安全そうだし」
安心させようと笑顔を見せる。
まさか更紗がアルベルト本人に怯えているとは全く思っていない。
「…あたしを…殺すの?」
更紗にとってアルベルトは無理矢理セリーヌから引き離し、
自分を人気の無い所に連れ込んだ身長2メートルのよく知らない人でしかなかった。
「は? 殺す? なんだ、誰かいるのか!?」
アルベルトは後を振りかえると戦闘態勢を取った。
「更紗は森の中に隠れていろ!」
「…」
当然誰もいない。
「…誰もいないな。気のせいじゃないのか?」
「…」
更紗は不思議そうな顔でアルベルトを見つめる。
「ん、どうした? お腹でも空いたか? そういやあ貰った荷物確かめてなかったけど…」
アルベルトが荷物を下ろし、自身の荷物を漁る。
「おっ、チョコレートがあるぞ、更紗食べるか?」
更紗にチョコを差し出す。
更紗は益々不思議そうな顔でアルベルトを見つめた。
「…どうしてあたしをここに連れてきたの?」
「えっ?そりゃあ、…セリーヌが殺されてたって事は殺した奴が近くにいるかも知れないからな。
あそこにいちゃあ危ないだろう」
更紗はアルベルトがセリーヌの名前を言う一瞬、躊躇した事に気付いた。
(…この人)
「まさか本当に殺し合いをしている奴がいるとは思いたくないが…
オレはクレアを探しにいかなきゃならないんだが、一緒に来るか?」
(…この人は良い人なんだ)
更紗はアルベルトの本心に気がついた。
「…ありがとう」
彼の気遣いに対して、今言える精一杯の感謝を口にした。