黒のディスティニー3


 

 6

 

CE75

 プラントの新議長となり、最初のオーブ国訪問からシャトルでプラントに向かったラクス・クライン、そして公式記録では友人

とされているが、事実上の恋人であり、口さがない人々からはラクスのヒモとも狂信者とも言われるキラ・ヤマトは乗った

シャトルの爆発事故によって行方不明。

 半年に渡る捜査も空しく遺体すら発見できず、二人が最後に過ごしたオーブ国にて墓が作られた。

 

オーブの正式見解は事故。

 

しかし

 

シャトル事故=暗殺説

 

 この疑惑は何世紀にも渡り今だ不明のままである。

前にも記載したが

ブルーコスモスのテロ行為、

オーブ氏族の一部、またはまさに泥を被せられたロマ家の関係者、

ギルバート・デュランダル議長を殺害したラクス・クライン、キラ・ヤマトを許さなかったザフト、

故パトリック・ザラ議長を信奉したザフトの強硬派等、

諸説がいくらでもある為真実は全く不明である。

 

 シャトル事故後に各組織から次々と『我々が行った』といった文面の犯行声明が流れたのも原因究明を困難にさせた

原因の一つである。

 また後世のフィクション作家の一人が面白い仮説を立てて、当時の世間を賑わせた。

シャトル爆破の犯人はプラント穏健派であり、彼女の無計画で無軌道な行為によって何の事情も説明も聞いていなかった

シーゲル・クラインを柱とするプラント内穏健派の人々が次々と故パトリック・ザラ議長の元、SP達によって殺害、強制収容

されたと当時のプラントの記録に残っている。

 その際、ラクス・クライン本人と、自身子飼いの部下達だけは当時のザフト最新艦エターナルを強奪する事で逃げ延びている為、

穏健派の頭となる為ラクス・クラインが画策したなどとも噂され、相当な恨みを買っていたと言われている

 またこれの信憑性においてはデュランダル議長殺害後、のうのうとプラントの新議長として凱旋したラクス・クラインの姿を見れば、

穏健派や良識のある人間なら許せるわけが無い。というブラックジョークで締めくくられている点が面白い。

 

 

兎も角、当時のラクス・クラインは誰に命を狙われても何の不思議のない存在であったと言えよう。

 

 

 そしてラクス・クラインの遺言状にて彼女と親交があり、かつフェイスとしての軍功も高かったアスラン・ザラがラクス亡き後

プラントの新議長として推薦される事になる。

 

 

 

 

 調印を結び固い握手を交わす。炊かれるフラッシュの嵐。ここに地球圏にある2大国家間にて平和条約が結ばれ、

カガリ・ユラ・アスハは多くの報道陣の前でこう宣言した。

 「争いの時代は今終った、多くの悲しみや怒り、憎しみもあると思う。しかし、ナチュラルもコーディネーターも同じ人間だ!

そしてもはやそんな垣根さえこの世界には存在しない。我々は今こそ憎しみの連鎖を断ち切り、人が人として幸福に生きる

そんな世界を、争いの無い世界を築こうと思う。その記念すべきだい一歩が今日である事を嬉しく思う」

 平和条約が結ばれた会場から道路へと続く長い階段をSPが隙間無く囲む。各式典にて利用される野外会場だが、カガリは

数年前、この会場でまさに自身の結婚式に利用した時の事を思い出し苦笑いを浮かべた。

「あれからいろんな事があったものだ」

 つい呟いた独り言だったが前をアスランと共に階段を下りていたメイリンが気付き振り返った。

「いや、なんでもない。ちょっと昔を思い出しただけだ」

「そうですか・・・あの」

 明日の夕食会にてアスランとメイリンの婚約を発表する。その予定であったが2人はまだカガリにその事を伝えてはいなかった。

ただ夕食会にてプライベートであるが重大な報告があるとだけプラントやオーブ側に報告はしていただけであった。

その為なにやら後ろめたさを感じていたメイリンはカガリとの会話の機会を伺っていた。

「ん? 待て、アイツ何を?」

「えっ?」

 警備をしていたSPの一人が懐に手を入れている事に気付いたカガリがそのSPを見る。その目線を辿りSPを見たメイリンは

彼の目を見て背筋を凍らせた。

 

(知ってる、あの目は・・・昔のシンの目と一緒だ)

 

 昔のシンの目、憎しみに身を焦がしたシンと同じ目が見つめた先はアスランであった。

「アスランさん!!!」

「お、おい?」

 嫌な予感を感じ前を歩くアスランに走り寄るメイリン。突然のメイリンの行動に思わず声をかけつつも立ち止まるカガリの目には

先ほどのSPが懐から取り出した拳銃が目に入った。

「お前何を!?」

 メイリンとカガリの叫び声によって2人が側にいなかった事に気付いたアスランが後ろを振り返ると同時、

 

 

 

  パン!  と乾いた銃声が響いた。

 

 

 

 走り寄っていたメイリンがそのまま力なくアスランに抱きつく。

抱きとめた腕にヌルりとした感触を感じて手のひらを見てアスランは驚愕した。

 

 赤い、赤い、メイリンの血。

 

「メイリン!」

「アス・・・ラン、良かった無事だった・・・」

「な、何が・・・」

 後ろで怒声と悲鳴、一人のSPが回りのSPに取り押さえられ、カラカラと銃が階段を滑り落ちていた。

それを見てアスランは全てを悟る。

「あ、アスラ・・・」

「今はしゃべるな! すぐに病院に」

「う・・・ん。でも・・・たぶん駄目かも」

 力なく微笑む。

「馬鹿言うな! こんな傷くらいで」

「うん、うん。でも、最後だったら嫌だから、お願いです、言わせてください」

 微笑みながらもポロポロと涙をこぼす。

「駄目だ! 最後なんて絶対に言わせない」

 必死の形相のアスランを見て微笑みながら。

「私・・・アナタに会えて、本当に幸せでした・・・ありがとうアスランさん」

「メイリン!!」

「あ、はは、違うね、やっぱり言いなれちゃってて、最後まで・・・アスランさんって・・・」

「メイリン!」

「・・・」

「メイリン、メイリン・・・あ、ああ・・・うあああああああああああああッ!!!」

「アスラン! 今担架が来た。メイリンを早く」

「・・・」

 カガリの言葉に沈黙で答えるアスラン。

「アスラン!!」

「黙れ!!!!」

「・・・あ、アスラン、まさか・・・」

 真っ青な顔で2人を見つめるカガリ。

アスランは動かなくなったメイリンを強く抱きしめる。

彼女の上着のポケットから、ほんの二日前に渡した指輪ケースがコトリと落ちた。

アスランはそれを無言で掴み、中の指輪をメイリンの左薬指にそっとはめた。

「・・・いこうメイリン」

メイリンを抱き上げ、悠然と進む。その姿を見て、誰もが道を空けた。

そしてそのまま停車させていた車に乗り込み、その場から去る。

 

 

誰も、何も言えなかった。

 

 

 

 

 6

 

ガシャン!!・・・とけたたましい音をたて、ルナマリアは手にしていたカップを落とした。

 

TVから流れるテロップと映像が、ルナマリアの時を止めていた。

 

 “平和条約調印の為来日していたプラント議長アスラン・ザラの秘書、メイリン・ホークが現場SPに銃撃され死亡。

犯人の目的は議長暗殺と断定。なお議長は無事のもよう”

 

 無慈悲なテロップが流れ続ける。

「シン、シン! メイリンが・・・メイリンが!!」

 ガタガタと震えるルナマリアをきつく抱きしめるシン。

「ああ、守るって、約束したじゃないか! 畜生!!」

 シンが睨みつけるTVには階段に広がった夥しい量の血が移っていた。

 

 

 

 

 全てのスケジュールをキャンセルしたアスラン・ザラはメイリン・ホークの遺体を伴いプラントに帰国。

3日間彼は公の場に現れなかった。

 そして平和条約調印式から3日、プラントからオーブへ向けて、事件後初めての公式文章が伝えられた。

プラントからの要求はただ一つ。

 

実行犯の身柄引き渡し。

 

ただそれだけであった。

 

世界は大いに安堵した。

 

 これを期に再び戦争が行われてもおかしくはなかったのである。無論この後どのような要求がプラントから

オーブへ向けて発信されるかは解らないが最悪の事態だけは避けられた。

 

それが世界の見解であった。

 

・・・オーブの回答がされるまでは。

 

 メイリン・ホーク殺害犯の身柄引き渡し。

 

オーブはこれを拒否。

 

 犯人にはオーブ国の法と理念に従い正当な裁きを下す。変わりに謝罪金と賠償金、自国が保有する技術の

一部を無償提供すると回答。

 

 

 翌日、プラントはオーブの回答を拒否。

 

 

 そして宣戦は布告された。

 

 

 

CE77(コズミック・イラ)

 

 CE70年代に起こった戦争は

 

後にロゴス戦争として人類人口が最も激減した最悪の戦争として後世に記録されることになる。

 

 

 

 

そしてCE70年代は今だ続いていた。

 

 

 

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