[江戸前の海十六万坪(有明)を守る会]
情報、其之弐拾六  2000.11/25
[ 江戸っ子船長の手紙 Part 3
雑誌”つり人” 2001年1月号より

 
「知事殿、江戸っ子は今日も待っております。」
江戸前の海十六万坪を守る会 会長 安田 進  絵・文
 
小誌をはじめテレビなどの各メディァで、石原都知事に対し、「現地を視察して下さい」「埋立計画を見直しして下さい」と訴えている”江戸前の海十六万坪(有明)を守る会の安田進会長。
いまでも連日、十六万坪では多くの船宿業者が声を枯らして「埋め立て反対!」と叫び続けている。
しかし、東京都の長である石原慎太郎都知事は、「着実に推進する」と言い放ったまま、一向に姿を現わそうとはしない・・。

飛び出す絵本に目が離せない

 「この俺様が都知事になったからには役人だろうが政治家だろうが文句は言わせねえ。金のないヤツは俺んとこへ来い!財政難だって税金はいくらでも入ってくるんだから大いに使え。おっと、環境問題だってしっかりやるぜ。なんたって俺は元環境庁長官だ。特にディーゼル車は許さねえぞ。俺が気持ちよく散歩している時に黒煙をぶっかけやがって。その時、『絶対に規制してやる!』と決めたんだ。なんたって俺は元運輸大臣だからな。東京のカラスも1羽残らずぶっ殺す!。せっかくのバーディーチャンスに、俺のボールをくわえていきやがって。パターで殴ろうとしたら、逆に襲いかかりやがった。ナニ、江戸前の海十六万坪だと?んなもん知るか、海は湘南に限る!。
それはそうと、三宅島の異変はなにごとだ。もしかしたら海底に三国人、いやゴジラでもいるんじゃねえか。そうなると銀座の時計台がやられるな。よし、戦車を出動してゴジラが銀座の街を踏みつぶす前にビッグレスキューだ。ナニ、日の出の住民が騒いでる?んなもん知るか、俺はちょっと疲れたから小笠原でリフレッシュするぞ!、ナニ、田中康夫が長野県知事になっ,た?あんなヤツと大作家の俺と一緒にすんな。なんか面白くねえな、おい、ハマウズ、酒でも飲んで暴れるか。オラオラ、どけどけ、知事と副知事の最強タックのお通りだ!」

皆さん、連日大活躍の石原都知事の飛び出す絵本をご覧になっていますか?バイタリティーあふれる内容はウォルト・ディズニーも真っ青。はっきり言って、江戸っ子はついていくことができません!。
 申し遅れました。私たちは、連日江戸前の海十六万坪にて、知事が現地視察に来られることを心待ちにしている船宿業者です。来る日も来る日も知事は姿を現わしてはくれませんね。お忙しいことは重々承知しておりますが私たちも貧乏暇なしで、知事同様、毎日コマネズミのように働いて、きちんと税金を収めて生活しているのです。
 ところで、知事が取り組んでいるディーゼル車の排ガス規制は、実に都民を感動させました。しかしながら、空気をきれいにしようという一方で、海を埋めて潰すというのはいかがなものでしょうか?。干潟や遠浅の海の持つ浄化能力については、私なんぞがいわなくとも知事なら充分に理解されていると思われますが・・。海を残すことと、そこを埋めて20車線もの道路を造るのでは、どちらが都民の身体にいいのでしょう?。そうでなくても、有明地区は日本で最も大気が汚染されているのですから。もしかしたら、排ガス規制は知事、一流のギャグなのでは・・?。
 そんな不思議な思いで、知事がいらっしゃるのを心待ちにしていたら、道理で来ていただけないはずです、海は海でも小笠原に行っていたとは。さすが、海を愛する男でございます。聞けば、水中メガネを使って海の中を潜ったそうで。しかも、環境に配慮して空港建設に待ったをかけたとか。さすがです。一度決めたらそれが間違いであっても絶対にやる木っ端役人と違って、間違いと気づいたら断固ノーと、言える。さすが私たちの知事です。水中メガネ着用のまま大至急、十六万坪にお越しください。


ハゼのみならず、シーバスの好ポイントである十六万坪。
今年は東京湾湾奥でも青物の襲来に沸いたが、そんな珍事を期待するのではなく、
昔からの生態系を維持する事のほうが大切だ。

江戸前青もの大騒動

 そうそう、これも本来であれば私どもではなく、東京都環境保全局(現・環境局)がお伝えするべきことなのですが、知事も知ってのとおり、彼らは実に使えない者たちでございまして、おそらくまだ知事の耳に入っていないことと思い、申し上げるしだいです。
 今年の10月に入ってすぐに、知事の支配下である江戸前に、なんと突如、青ものと呼ばれる魚群が入り込んできたのです。これは海に生きる私どもも実に驚かされる出来事でした。船頭も釣り人も血沸き肉踊らせて釣りまくるという、過去に記憶のない夢のような体験をいたしました。
 魚はイナダ、ワラサ、カツオ、サバなど。最大では8kgを超える大ものが上がっています。誰もが、ここは黒潮洗う大海原かと勘違いするほどの釣れっぷりでしたが、冷静になって周囲を見渡せば、月の前には巨大なゴミ処分場と東京のシンボルである東京タワーがそびえ立ち、岸はどこも垂直護岸で切り立っている悲しい現実に引き戻されたのであります。
 しかし、その時は人間ばかりではなく、いつもはゴミをあさっているひもじい江戸前の海鳥たちまでもが「こんな経験初めて!」と、実に大はしゃぎしておりました。釣り客が捨てるカキピーと違って、大ものに追われて海面で逃げ惑うイワシを、本当にうまそうに食っておりました。
 こんな光景、役人どもが知ったら何と言うでしょうか。おそらく「東京の海に自然が戻ってきました-」と手を叩いて海鳥に負けないくらい大はしゃぎして、胸を張るでしょう。
しかし知事殿、本題はここからでございます。知事を糠喜びさせたようで実に申し上げにくいのですが、海に携わる者として役人とは違って正直にお話しします。
 これは東京都にも以前から言っていることなのですが、自然なきところに自然は戻らないのであります。
 江戸前まで迷い込んだ魚群も、わずか数日で江戸を背にして大海原へと帰って行きました。さすがに埋め立て工事ばかりの江戸前では、息を続けることが難しいらしく、イワシをたらふく食べて用事をすませると、命からがら去っていったのです。
 しかし知事殿、彼らは何と義理堅い魚でありましょうか。聞くところによれば、彼らの故郷は三宅島周辺というではありませんか。島の一大事に呑気にスキューバーダイビングなどしちゃいられないと、一時的に生活の場を離れ、江戸前にて島の方々に挨拶をしに来たのだというのです。どうか知事の粋なはからいで、この事実を島の方々に伝えてやってはくださいませんか。海を恋しく思っている予どもたちも、きっと喜ぶはずです。
 そういえば知事も島の子どもたちに勇気を与えようと、あきる野市の学校を訪ねていましたね。何をおっしゃるのかと思えば、「アフガニスタンには、戦争でメチャクチャになり勉強もできない子どもたちがいぱいいて、君たちはまだ幸せだよ」・・・。
 魚の話をもっと早く伝えておけば、知事も子どもたちに「変なオジサン」と思われずにすんだのに、と思うと残念でなりません。船で東京にやって来たとき、「ドラえもんのどこでもドアがあればいいのに・・」と言っていた島の子どもたちからは「知事がいれば安心」という言葉は聞かれませんでした。
 これは環境保全局の伝達が怠慢なためではないでしょうか。まるで藤子不二雄のほうが頼りになるみたいであり、大作家である知事が馬鹿にされているようで大変腹立たしく思っております。
十六万坪の入口に立ち入り禁止のブイが浮かぶ、
ハゼもさっぱり釣れなくなり、
シーバスもやがて逃げ出すだろう。

安田画伯
描く、
今の十六万坪。

海をつくる男

 知事もよくご存じのとおり、環境保全局はふざけたところです。自ら絶滅危倶種のAランクに指定したエドハゼに対しても、船宿業者ごときが虫取り網でつかまえたからといって、「エドハゼなんてどこにでもたくさんいる」と、いいだしたのです。お前が絶滅が心配だって言い出したんじゃねえか!と私は思いますけど、知事殿はどのようにお考えですか。まさか「エドハゼもどこかに行くでしょう」とはおっしゃらないとは思いますが・・。
 それにしても知事殿、こんな使えない家来ばかりでさぞかしご苦労も多いことでしょう。絶滅危供種がどこにでもたくさんいるなんてふざけたことを言うう環境保全局こそ絶滅局Aランクに指定するべきではないでしょうか。
 わが国には、天皇陛下をはじめ名のあるハゼの研究者がたくさんおります。その方々も、レッドデータリストを参考にしているというのに、指定している張本人が工事の都合で「絶滅を心配している」とか「こんな魚はたくさんいる」とかデタラメな報告をしているのですから、江戸城に足を向けて寝続けているようなものでしょう。江戸時代、江戸城に殿がいて、その眼下に広がる江戸前は、日本一と評された海でした。しかし現存、東京に知事殿がいて、その支配下にある江戸前は日本一最低な海だとみんなが言っております。なぜでしょう。やっぱり家臣がアホだからでしょうか。それとも殿の違い・・?。

 海を埋めて、町をつくり続けて400年。つまりこれは、海を壊し続けて400年ということであります。400年をかけて日本一から日本一最低にしたのです。しかし、今まで一度たりとも行なわれていないのが海づくりです。
 もしも海づくりという観点から行政が働いていれば、東京はもっと住みやすい、世界に誇れる都市になっていたでしょう。知事殿にはぜひ、江戸前史上初めて海をつくった男になっていただき、歴史にその名を刻んでいただきたかったのですが、家康殿の400年も前の古いマニュアルをパクッてしまうとは、大変悲しく思っております。
 最後にもうひとつ情報を。実はあの魚群、三宅島から来た群れのほかに、小笠原からの群れもあるようなのです。仲間のひとりがサバをつかまえて問いただしたところ、「石原知事を見たら逃げろと言われて来た」と白状したというのです。さすがに私も「おまえウソをつくんじゃないよ」と笑っていましたが、小笠原休暇を終えて知事が東京に戻ってきたのを機に、あれだけいた魚群がパッタリと姿を消してしまったから、どちらを信じていいものか悩んでいるところであります。
 いずれにしても、知事に失礼なことを言ったサバは、その日のうちにシメておきましたからご安心ください。
腰まで水に漫かり.歩きながら網を5分引っぱったただけで.こんなに稚魚が獲れるのは.東京港で十六万坪以外に考えられない。
ましてや.虫取り網ですくっただけで絶滅危慣種のエドハセが捕まえられる水域はほかにない