OZ's 電脳書評(2002-その2) |
私のコンピュータへの「姿勢」を変えた一冊である。
この本自体は学生時代から知っていた。しかし、その頃は、「情報化社会」への 関心は強かったものの、「コンピュータそのもの」に対して特別な興味を抱いて いたわけではなく、そのため、この本自体も印象に残っていなかった。
その後、私は、コンピュータ・ソフトウエア技術者として社会人生活をスタート させたものの、「コンピュータ=管理社会を強化するもの」というイメージを払拭 できなかった。そして、生協や自治体などの非営利セクターで働いている知人と 比較して、自分は社会に有用な仕事をしているのだろうか? と確信が持てない 日々を送っていた。
そんな迷いのなかで、本書を読みなおした。そこには、アメリカでパソコン通信を 活用して市民運動のすすめる人々や、コンピュータを社会のために役立てようと活動 している人々の姿が、いきいきと描かれていた。
なかでも、1970年代前半、カリフォルニア・バークレーで作られた「コミュニティ メモリー」と呼ばれる市民が使う電子掲示板システムと、その活動をリードしたリー・ フェルゼンスタインという人が、強く印象に残っている[注]。
それら人々の思想・行動を知り、「コンピュータは、管理を強化するためにではなく、 人々のコミュニケーションを発展させるために使うことができる」「私の「技術」は そのように社会に活かすことができる」という思いが芽生えてきたのだ。
本書の技術に関する記述は、もう古くなりすぎて参考にならないが、コンピュータ ネットワーク発展の黎明期の雰囲気を知ることができる。
なお、著者の岡部氏は、その後、インターネットの普及期には、「インターネット 市民革命」を、NPOやベンチャービジネスの発展期には、「サンフランシスコ発・ 社会変革NPO」を、それぞれ書いている。いずれも、コンピュータ・ネットワークを 軸として、社会をよくしようとしている人々・組織(その中には営利企業も含まれる) を取材したルポルタージュである。
[注]「コミュニティメモリー」、および、リー・フェルゼンスタイン氏については、 スティーブン・レビー著「ハッカーズ」(工学社刊)が詳しく取り上げている。