エアロスミス
横浜アリーナライブレポート(3.14)

雁金 伸次


 今回のツアーは昨年発表されたアルバム「ナイン・ライブス」に端を発する物である為、会場に向かう途中の僕の心境はちょっと複雑であった。
 なぜかというと、どうもその新作「ナイン・ライブス」がはっきり言って好きではなかった為であった。
 別に一曲一曲が悪い訳でもなんでもないと思うのだが、なぜか前作「ゲット・ア・グリップ」の様な「ときめき」が感じられなかった。
 まるで一連のストーリーを持った非常に完成されたコンセプトアルバムであるかの様な「ゲット・ア・グリップ」と比べるからそう思うのかも知れないが、ちょっと全体的に散漫な感じがして、そう何回も聞きたくなるような印象を与えられなかった。だから「ナイン・ライブス」の曲がどうしても中心となる事が始めから分かっていただけに、このライブ自体にもさほど魅力を感じなかったのだった。
 「『ゲット・ア・グリップ』の曲や昔の曲をたくさんやってくれたらええのになあ・・・」
 そんな事を考えながら会社の友人と二人でJR京浜東北線に揺られていた。

 会場の「横アリ」に入ってまず思った事は20前後の人が中心であるというその客層の「若さ」であった。
 確か前回エアロスミスを見た時(4年前のツアー・大阪城ホール)にもそれは感じた事だった。
 結成以来25年以上経とうとしているバンドの経歴から考えると、メンバーと同世代の40前後の人がたくさん来てる方がむしろ当然といえば当然のような気がするのだが、実際のところは僕たちですら(・・・来年30です)その中に入れば高い年令層の人間になってしまう程であった。
 エアロスミスというバンドがこれだけのキャリアを経ても未だに現役バリバリで、どんどん新しい年齢層のファンを開拓しているという「凄さの一端」を垣間見た様な気がした。
 80年代の前半の低迷期から復活を果たしてからの一連のアルバム「パーマネントバケイション」「パンプ」「ゲット・ア・グリップ」辺りを聞いてファンになった世代が大勢駆けつけている。そんな印象だった。

 それと全体的に女の子も多かった。
 「スティーブン・タイラーやジョー・ペリーのミーハー人気も健在」まさにそんな感じだった。
 これがストーンズだったらこうはいかないだろう。

 ライブが始まってからの客の反応もやはりその客層を反映した物となっていた。
 全体的に客のノリがいいのは新作からの曲や「パンプ」「パーマネント・バケーション」からの曲で、それが僕達が大喜びの「セイムオールドスト-リ-・アンド・ダンス」や「ラスト・チャイルド」辺りになるとちょっと引き気味になっているようであった。エアロスミスのメンバーも僕達おじさん世代(あの客層の中では・・・ね)の事も気遣ってか時折シブい選曲を見せてくれた。
 前述の2曲の他にも「シック・アズ・ア・ドッグ」「ママキン」それに「ドリーム・オン」等等。
なかでも「ドリーム・オン」の演奏時には後半部分で火花が炸裂してものすごくカッコ良かった。
 前回のツアーでやり尽くした為か、「ゲット・ア・グリップ」からの選曲は「クライング」の一曲のみでその点ではちょっと淋しい気がしたけど、「それは仕方がない事かな」とも思った。
 今回のライブで再認識したのは「やっぱり最新作の『ナイン・ライブス』は、僕はあんまり好きじゃないなあ」という事だった。
 「ナイン・ライブス」からはやはり7〜8曲選曲されていたのだが今一僕は盛り上がれなかった。
 「もともとそんなに好きじゃなくても今回のライブでの演奏を見ればひょっとしたら好きになるかも知れないなあ」
 そんなほのかな期待があったのだが、その点では残念な結果に終わってしまった。何がそんなに気に入らないのか明確には分からないのだけど・・・・。
 そして今回のライブの中で最も圧巻だったのはスティーブン・タイラーのファンの方には怒られるかも知れないが、スティーブン・タイラーが一旦引っ込んでジョー・ペリーがリードボーカルをとった時のブルース2曲だった。
 これはカッコ良かった!!
 僕はライブの何が好きなのかというと、こういった「えっ?こんな曲やるの?」という「うれしい誤算」があるからなのだ。
 ジョー・ペリーがやおら前に出てきて何をやるのか固唾を飲んで見守っていると、一瞬の間の後、どこかで聞いた事があるブルージーなギターのフレーズを弾きだした。

 「うわ。何やったっけこれ?・・・・嘘?・・・ジミヘンやん!これ!『レッドハウス』やん!!」
 僕は完全に鳥肌が立ってしまった。
 まさかジミ・ヘンドリクスの「レッド・ハウス」がこの場面で聞けるなんて!!
 ジョー・ペリーのギターもジミヘンっぽい音を出していて、僕はこの瞬間に「今日は本当に来てよかった!」と確信した。
 この一曲だけで今日のチケット代9000円の元がとれて、さらにおつりまでもらえた様な気がした。
 こんな事があるから「ライブ詣で」はやめられないのだ!!
 この曲でのジョー・ペリーとブラッド・ウイットフォード 二人のギタリストのギターバトルは本当にカッコ良かった。
 エアロのギタリストといえばどうしてもジョー・ペリーの方が注目されがちなのだが、ブラッド・ウイットフォードもなかなかどうして素晴らしいギタリストである事を改めて思い知らされた。
 エリック・クラプトンっぽい正統派のブルースロックの流れを僕はブラッドのギターに感じた。
 これは恐らく席の配置に起因する物だと今考えれば思うのだが、僕の席ではブラッドのギターの方がよく聞こえた。
 (ステージの向かって右側がジョー 左側がブラッドというポジションなのに対し僕達の席はブラッドを真正面に見る左側に寄った席であった。)
 こうしたライブにおいてはジョー・ペリーは「魅せるギタリスト」であるのに対し、ブラッドは「聞かせるギタリスト」でこの好対照な二人のギタリストの絡み合いが実にスリリングだった。
 ギターという楽器のおもしろさ、ギタリストという存在のカッコよさを改めて味わえた様な気がして、普段から思っている「息子をギタリストにしたい」というバカな気持ちに一層拍車がかかってしまった。
 名前もジョーだし・・・・。
 それに、「ああ、ジミヘンが生きてたらなあ。ジミヘンを一回でいいから直に見てみたかったなあ」という今は亡き超天才ギタリストへの想いも一層つのった。
 やがて「レッド・ハウス」は終わった。
 「一体次は何が来るのだろう」とドキドキしている僕の耳に、またもやどこかで聞いた事のある味のあるギターのイントロが飛び込んできた。
 それはなんとフリートウッドマック(ブルースバンド時代の)が1969年に発表した「イングリッシュ・ローズ」というアルバムの一曲目に入っている「ストップ・メッシング・ラウンド」という曲だった!

 僕はもうさっきの「レッド・ハウス」ですでにフラフラの状態だったのだが、この「ストップ・メッシング・ラウンド」で完全にノックアウトされてしまった。
 なんていうシブい選曲なんだろう!!
 ここでもジヨー・ペリーのギターはピーター・グリーン(フリートウッドマックのギタリスト)にそっくりの音色で、ピーター・グリーンというギタリストへの愛情と敬意に満ちたプレーだった。
 「レッドハウス」も「ストップ・メッシング・ラウンド」も両方とも1969年頃の楽曲であることから、「ああ、きっとエアロもアマチュア時代はこんな曲をコピーしながらボロッちいライブハウスのドサまわりを繰り返していたんだろうなあ」
 そんな感慨も頭によぎった。
 これは僕の憶測に過ぎないのだがこの選曲は「俺達の音楽のルーツを知ってほしい」というメンバーの強い意志表示のような気がしてならない。
 「俺達のライブに来たからには俺達のすべてを見てほしい 俺達はここから始まったんだ」メンバーのそんな叫びの様な気がした。
 僕がかつてローリング・ストーンズの音楽をきっかけとして興味がブルース、ソウルへと派生していった様に、今日のライブを見た若い世代の連中の中にもきっと、今回のエアロのライブをきっかけとしてブルースに興味を持つ人間が出てくるに違いないと僕はその時思った。
 「ストップ・メッシング・ラウンド」はやがて一旦舞台裏に引っ込んでいたスティーブン・タイラーがブルースハープで絡んでくるところで最高潮に達した。
 僕はもうライブならではの、この「気持ちのいい鳥肌」の感触を存分に味わった。改めて言うがこの2曲だけで「今日は本当に来て良かった」と強く思った。
 このブルース2曲の後、ライブはどんどん佳境に向かい、彼らの中で最も有名な曲「ウオーク・ジス・ウエイ」で一旦終了した。
 アンコールは最新作からのバラードと「スイート・エモーション」だった。
 最近のライブでは半分『お約束』になりつつある「スイート・エモーション」の後半部分で突然レッド・ツエッペリンの「デイズド・アンド・コンフューズド」へチェンジする演出も「来るぞ来るぞ」と分かっていてもやっぱりカッコ良かった。

 ライブが終わった後、僕はTシャツもパンフレットも買わなかった。
 でも僕にはでっかいお土産が二つあった。
 いうまでもなく「レッドハウス」と「ストップ・メッシング・ラウンド」だった。
 帰りの電車の中でも、途中でメシを食った上野の飲み屋でも僕は友達に『「レッドハウス」と「ストップ・メッシング・ラウンド」が良かった!』と何度も何度もまくしたてて、半ば友達を呆れさせてしまう程であった。

 僕は今まで、様々なアーティストのライブを見てきたし、その中で様々な「瞬間」を味わう事ができた。

 しかし今回のエアロのブルース2曲は、その中でも特筆すべき「最高の事件」に成り得た。
 次回のライブでは一体どんな「素敵な事件」が待っているのか?
 今から次回の来日が待遠しい気持ちでいっぱいである。
 ただその時は新作も素晴らしい物を引っ提げてやって来てほしいな・・・とも正直、ちょっぴり思ったりなんかもしている。


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