トヨタ労使は日本をどこに導こうとしているのか考えた
8日の新聞各紙に「トヨタ労組ベア断念」の見出しが躍った。交渉の結果そうなったというのではない。今年の春闘で、賃金のベースアップ(ベア)を要求しないことを決めたというのだ。
トヨタ自動車といえば、日本の大企業の中でも稼ぎ頭だ。日本企業史上初めて1兆円を越える経常利益を上げ、今年も1兆円を越えることが見込まれている。
こんなに儲かっている会社はほかにないと言っても良いくらいだ。にもかかわらずその労働組合は賃上げを求めない。年間わずか6万円の一時金を求めるだけだという。
冗談ではない。トヨタが賃上げをしないで、いったいどこの会社が賃上げできるというのか。賃上げなしでどうして景気が良くなるというのか。消費不況に風穴を開けるのが労働組合の任務ではないのか。そんな思いに駆られて新聞記事に目を通す。
昨年の春闘で100円の賃上げ回答を準備していて、奥田会長(現日本経団連会長)におお叱られしてベアを見送った話は有名だ。今年の春闘でもとてもベアは望めないから、最初から要求するのをやめておこうという作戦らしい。
「ベアゼロ春闘の流れは決まった」「今春闘の焦点は定昇部分の削減へと移っていく公算が大きくなった」などという記事が紙面を飾っているではないか。「人件費抑制は、所得、雇用情勢の一層の悪化を通じてデフレを深刻化させかねない」という指摘は当然過ぎるものだ。
事実上経営のトップとして君臨するトヨタの奥田会長は日本経団連会長として「奥田ビジョン」という名前で、04年度から消費税率を毎年1%ずつ上げて16%まで持っていくべきだという構想を示している。小泉首相は税率は上げないと言っているが、信用できるものではない。
奥田氏は社長時代から「トヨタが変われば日本が変わる」という意識を持っていると新聞は伝えている。どんなに儲けようと賃上げはしない。むしろ賃下げに踏み込む。一方で消費税は16%に上げていく。これでどうして不況が克服できるのか。日本経済沈没の道に導く他ないではないか。そうなっても、トヨタの車だけは売れ続けると考えているのだろうか。悪夢のような話である。
(2003.1.8)
