読み捨て文庫

読み終ったもの。文庫以外も読むけどな、基本的に文庫に限ったのだ。でもやっぱり文庫以外も入れることにしたのだ。
あと、古いものは倉庫に移したのだ。


10月

うつけの采配 中路啓太 中公文庫
吉川広家とは珍しい題材だな。

ピルグリム 1 名前のない男たち テリー・ヘイズ ハヤカワ文庫
ピルグリム 2 ダーク・ウィンター テリー・ヘイズ ハヤカワ文庫
ピルグリム 3 遠くの敵 テリー・ヘイズ ハヤカワ文庫

パワーとスピード。テロリスト対スパイハンター。全3巻を一気読みしてしまった。著者はハリウッドの脚本家で、これが初長編。

自堕落な凶器 アリエル・S・ウィンター 新潮文庫
三部構成の長編なのだが、それぞれのパートをジョルジュ・シムノン、レイモンド・チャンドラー、ジム・トンプスンへのオマージュにしてあるというややこしい力作。よくがんばりました。

図書室にもどる?
ふりだしにもどる?

9月

最重要容疑者 リー・チャイルド 講談社文庫
流浪のヒーロー<ジャック・リーチャー>シリーズ。リーチャー無敵過ぎて安定の読後感。

警視庁FC 今野敏 講談社文庫
FCはフィルムコミッション。

容疑者 ロバート・クレイス 創元推理文庫
犬!!! 警察犬とハンドラーの物語。泣く。

もう年はとれない ダニエル・フリードマン 創元推理文庫
87才の元刑事のハードボイルド。設定も物語も面白いんだが、こんな爺が身近にいたらいやだ。コメディではない。

ザ・バット 神話の殺人 ジョー・ネスポ 集英社文庫
ノルウェーの刑事がオーストラリアで事件捜査に加わるという話。うーん、まあそれだけ。

8月

特捜部Q -知りすぎたマルコ-  ユッシ・エーズラ・オールスン ハヤカワ・ポケット・ミステリ
シリーズ5。なんだか連続テレビドラマみたいになってきた。(ほめ言葉)

復讐のトレイル C・J・ボックス 講談社文庫
猟区管理官<ジョー・ピケット>8(邦訳版は7)。大自然の中での連続殺人捜査。シリーズのまたひとつの転換点か。

ゴースト・ヒーロー S・J・ローザン 創元推理文庫
<リディア・チン&ビル・スミス>11。中国人はめんどくさい。

ゴールドスティン フォルカー・クッチャー 創元推理文庫
1931年のベルリンを舞台にした<ゲレオン・ラート>シリーズ3。シリーズ全体で見たらサブストーリー的な作品ではないかな。

バッドタイム・ブルース オリヴァー・ハリス ハヤカワ・ミステリ文庫
もう内容忘れた。

7月

サヴァイブ 近藤史恵 新潮文庫
自転車レース短編集。どれもいいね。

くるすの残光 月の聖槍 仁木英之 祥伝社文庫
レジスタンスとしてのキリシタン伝奇。だがしかし風太郎にははるかに及ばない。

無双の花 葉室麟 文春文庫
立花宗茂。かっこいい。

犯罪心理捜査官セバスチャン M・ヨート&H・ローセンフェルト 創元推理文庫
まあまあ。傲岸不参で嫌みな主人公に乗れるかどうか。

燦 5 氷の刃 あさのあつこ 文春文庫
またまだ続く。

地層捜査 佐々木譲 文春文庫
15年前に四谷で起きた未解決事件の真相。限定された地域と人間と過去を探るひたすら地味な警察捜査小説。

殺人者の顔をした男 マッティ・ロンカ 集英社文庫
フィンランドの探偵ハードボイルド。ロシアと地続き縁続き。

図書室にもどる?
ふりだしにもどる?

6月

エリザベス王女の家庭教師 スーザン・イーリア・マクニール 創元推理文庫
第二次大戦下のロンドンでなぜか官邸や王室に気に入られていろいろ活躍するアメリカ娘<マギー・ホープ>シリーズ2。なんだか終盤に予想外の急展開しているぞ。なんだこれ。

要塞島の死 レーナ・レヘトライネン 創元推理文庫
フィンランドの女性刑事<マリア・カッリオ>3。1と2は既に記憶にない。

人質 佐々木譲 ハルキ文庫
道警シリーズ6。立て籠もり事件。タイムリミット型なので疾走感がある。

暗殺者の復讐 マーク・グリーニー ハヤカワ文庫
正義の暗殺者グレイマン<コート・ジェントリー>4。ノンストップアクション。いつも最後は傷だらけ。

早雲の軍配者 富樫倫太郎 中公文庫
信玄の軍配者 富樫倫太郎 中公文庫
謙信の軍配者 富樫倫太郎 中公文庫

軍師ではなく軍配者。足利学校で共に軍学、兵学を学んだ風間小太郎、山本勘助、曾我冬之助、それぞれの戦いと人生。各上下巻なので6冊読まないと話が完結しない。

5月

スパイクを買いに はらだみずき 角川文庫
大人のサッカー物語。サッカー好きならぜひ。

乾坤の児 千里伝 仁木英之 講談社文庫
千里伝最終話。意外と「精神と時」の話だったりする中華武闘ファンタジー。

監視対象 -警部補マルコム・フォックス- イアン・ランキン 新潮社文庫
あ、イアン・ランキンの新シリーズ! 主人公は内務監察部の捜査官。警察官を調べる警察官ということで「犯罪」と「正義」の二面性がテーマ。

転迷 −隠蔽捜査4− 今野敏 新潮文庫
原理原則と正論の警察署長<竜崎伸也>シリーズ。今作は事件多発型。真面目な署長は忙しくて大変だ。

4月

ナニワ・モンスター 海堂尊 新潮文庫
医療と司法と関西圏のカリスマ知事。そういう話。

要人警護 渡邉容子 講談社文庫
人気ランナーを警護するプロのボディガード、八木薔子。ああそうか、こういう話なら日本でも成立するね。そして「左手に告げるなかれ」を読んだ者としてはいろいろと感慨深い。

こいわすれ 畠中恵 文春文庫
江戸のトラブル処理係、町名主<まんまこと>シリーズ3。ほのぼのしみじみ。

誰の墓なの? ジェイミー・メイスン ハヤカワ・ミステリ文庫
まともなのは犬だけだな。シリアスとブラック・コメディの中間。もっとドタバタにすればよかったのか。

血の咆哮 ウィリアム・K・クルーガー 講談社文庫
森林と荒野のハードボイルド<コーク・オコナー>7。サブストーリーである老インディアンの物語が美しく切ない。シリーズ最高作だな。

待ち伏せ街道 蓬莱屋帳外控 志水辰夫 新潮文庫
遠距離単独行専門のスペシャリスト<通し飛脚>シリーズ3。中編3作。どれも読み応えあり。

図書室にもどる?
ふりだしにもどる?

3月

海遊記 義浄西征伝 仁木英之 文春文庫
天竺に経典を求めに海を旅する義浄の冒険。妖怪とか弟子になるお猿さんとか出てこないので西遊記に比べると地味なのはしかたがない。

巨大訴訟 ジョン・グリシャム 新潮文庫
若手弁護士の成長物語。いつもと同じ。

凍氷 ジェイムズ・トンプソン 集英社文庫
フィンランドの犯罪捜査官<カリ・ヴァーラ>2。テンポが良くてキレが良くて寒さ描写も巧くて一作目二作目と感心しつつ読んだが、作者死んじゃったらしい。残念。

ナイン・ドラゴンズ マイクル・コナリー 講談社文庫
LAの一匹狼の刑事<ハリー・ボッシュ>シリーズ。14か? 何作目かよくわからんが、ボッシュ香港で暴れるの巻。そしてボッシュ自身またひとつの転換点。このシリーズとはもう20年以上の付き合いだが、マンネリとは無縁なハイクオリティ。

翔る合戦屋 北沢秋 双葉文庫
戦国信濃を舞台に戦人・石堂一鉄と武田軍との戦いを描いた<合戦屋>完結編。史実と創作の組み合わせバランスは悪くない。でも作り物感がするのは、主人公のデキが良すぎるからだろう。

川あかり 葉室麟 双葉文庫
刺客を命じられた若侍が川留め木賃宿で人々に出会い、事件に遭遇し、戦いに臨み、成長していく数日間の物語。描写が映像的で美しい。映画にすればいいのに。

2月

陪審員に死を キャロル・オコンネル 創元推理文庫
氷の天使<キャシー・マロリー>7。とある登場人物の個性が特殊過ぎてマロリーの存在感が薄い。それがちょっと残念。

警官の条件 佐々木譲 新潮文庫
大河警察小説「警官の血」の続編的作品。警察官の倫理と正義と信念と懊悩。

赤と赤 エドワード・コンロン ハヤカワ・ミステリ文庫
現役のNY市警刑事が書いた警察小説。にしては臨場感に乏しいような。

三秒間の死角 アンデシュ・ルースルンド&ペリエ・ヘルストレム 角川文庫
警察小説、犯罪小説というより、スパイ小説。これ次どうなるの? という展開で完成度の高いミステリ。意外と緻密。

黒のクイーン アンドレアス・グルーバー 創元推理文庫
オーストリア・ミステリだが、舞台はプラハ。どっちにしろ物語のローカリティはそんなに強くないが、ちゃんとした小説。

ブラック・フライデー マイクル・シアーズ ハヤカワ文庫
金融ミステリ、なのかな。主人公の子供が自閉症児というのが物語の単調さを救ってる。

輝天炎上 海堂尊 角川文庫
桜宮サーガ、桜宮病院の亡霊編。「ケルベロスの肖像」の裏ストーリーでもある。怨念が強すぎて読後がもやもやする。

天使の死んだ夏 モンス・カッレントフト 創元推理文庫
スウェーデンの夏。そうか、スウェーデンの家屋には冷房付いてないのか。

葡萄園の骨 アーロン・エルキンズ ハヤカワ・ミステリ文庫
人骨で殺人事件を解くスケルトン探偵<ギデオン・オリバー>17。ほのぼの安定感。

1月

スノーマン ジョー・ネスポ 集英社文庫
ノルウェー・ミステリ。正統的な警察小説。ローカリティはあんまりない。

蛻(もぬけ) 犬飼六岐 講談社文庫
尾張藩江戸屋敷に人為的に作られた町と集められた住人。箱庭の町で起こった殺人で町が崩壊していく様を描いたなんかへんな時代小説。もやもや。

これ誘拐だよね? カール・ハイアセン 文春文庫
いつも通りの超絶キチガイ犯罪小説(←ほめ言葉)。基本的に勧善懲悪(または懲馬鹿)なので読後感もスッキリ。

第三の銃弾 スティーヴン・ハンター 扶桑社ミステリー
ボブ・リー・スワガー、JFK暗殺事件の謎に挑む、の巻。今作は単なるドンパチ・アクションではないので、なかなか面白かった。

ねじれた文字、ねじれた路 トム・フランクリン ハヤカワ・ミステリ文庫
アメリカ南部の田舎町で育った白人と黒人。ひとりは殺人の容疑者となり、もうひとりは治安官となる。その過去と現在が淡々と、濃密に、冷ややかに、暖かく、描かれる。文学だな。

ケルベロスの肖像 海堂尊 宝島社文庫
桜宮サーガ、東城大医局編最終章、なのか? Aiシステム対旧態的法医学体制の行方。

先生のかくしごと 仁木英之 新潮文庫
中華仙人ファンタジー<僕僕先生>5。巻を重ねるにつれて先生が人間的感情を晒す場面が多くなってきて、なんか寂しい。

黒いダイヤモンド マーティン・ウォーカー 創元推理文庫
フランスの田舎町の警察署長<ブルーノ>3。トリュフと殺人とチャイニーズ・マフィア。三題噺をきれいにまとめてある。

カンパニー・マン ロバート・ジャクソン・ベネット ハヤカワ文庫
ミステリ、SF、ホラー、過去改変、ファンタジー、いろんなものを混ぜ込んでそれなりに物語としてまとめてある。面白いかどうかは別。

ツーリストの帰還 オレン・スタインハウアー ハヤカワ文庫
スパイ・スリラー<ツーリスト>三部作の2。3はまだか。

イージーマネー イェンス・ラピドゥス 講談社文庫
スウェーデン・ミステリのもうひとつの分野、犯罪小説。移民とか階層格差とか、北欧もいろいろと大変だ。

↑2014/2013↓

図書室にもどる?
ふりだしにもどる?

10-12月

キング・オブ・クール ドン・ウィンズロウ 角川文庫
南カリフォルニアのドラッグ抗争を扱った「野蛮なやつら」の前日譚。青春と友情と家族と転落の物語でもあり、ドラッグ年代記としても成立している。カメオ的にいろんなキャラが登場し、ウィンズロウ近年の南加シリーズの集約として重要(?)な一作。

待ってる あさのあつこ 講談社文庫
江戸の料理茶屋橘屋を舞台にした時代人情ものの連作短編。奉公人ひとりひとりの事情が切なかったり哀しかったり、でも暖かかったり。

永久に刻まれて S・J・ローザン 創元推理文庫
NYの探偵コンビ<リディア・チン&ビル・スミス>シリーズの短編集(日本版オリジナル)。どこから読んでもはずれなし。

マネー・ボール【完全版】 マイケル・ルイス ハヤカワ文庫
完全版でより面白くなったのは事実だが、ビリー・ビーンとセイバーメトリックスの神格化がより濃くなっていて、野球好きとしてはちょっと違和感もある。スポーツの楽しさは効率では計れないからな。

イン・ザ・ブラッド ジャック・カーリイ 文春文庫
モビール市警精神病理社会病理犯罪捜査班PSIT<カーソン・ライダー>シリーズ5。舞台がアメリカ南部という土地柄なので人種差別やヘイトクライムは当然のように物語のベースに出てくる。それをびっくりするような方向に展開させるのがカーリイの特長か。今回は殺人鬼のジェレミー兄貴が出てこないので残念。

神君幻法帖 山田正紀 徳間文庫
超絶忍者集団が死闘を繰り広げる山田風太郎「忍法帖」へのオマージュ的作品。悪くはないんだが、風太郎愛読者としても山田正紀(初期の)愛読者としてもはなはだもの足りない。デタラメ忍法では荒山徹の方が上だしなあ。

極北ラフプソディ 海堂尊 朝日文庫
破綻都市・極北の市民病院を舞台にした地域医療問題提示シリーズ2。面白いんですがね、毎度ながら有能な人物と無能な人物が極端過ぎる。

嶽神伝 無坂 長谷川卓 講談社文庫
伝奇時代小説かと思ったら、民俗アウトドア小説だった。戦国期の山の者(山岳地域の民)の生き方や戦い方を描いた冒険アクション。最大の敵が「猿」というのが凄い。

氷の娘 レーナ・レヘトライネン 創元推理文庫
フィンランドの女性捜査官<マリア・カッリオ>シリーズ2。フィンランド、フィギュアスケート、臨月の捜査官という珍しいものの組み合わせとなっている作品。ミステリとしてもよく出来てる。

獣の奏者 外伝 刹那 上橋菜穂子 講談社文庫
中編2作の前後に短編を加えた4作。本編の空白部分を埋めるようなエピソードではあるが、「獣の奏者」の完成度を考えるとなくてもよかった気がしないでもない。

暗殺者の鎮魂 マーク・グリーニー ハヤカワ文庫
友情と恩義を忘れない暗殺者グレイマン<コート・ジェントリー>シリーズ3。無敵でもないし不死身でもないが簡単には死なない世界中から追われる男。3作目で息切れしてきたのか、今回の敵はちょっと小者だ。ギリギリ展開がエンドレスに続くのが売りの話だが「窮地のパターン」も無限にあるわけじゃないしな。

カウントダウン 佐々木譲 新潮文庫
市長選に担ぎ出された若手市議の選挙戦記。実質破綻した地方都市での守旧派と縮小再生派の戦いぶりは、西部劇の悪い牧場主と正義のガンマンの決闘に見えてくるな。というか、わざわざそういう描き方をしたんだろう。面白いけどよーく考えるといろんな意味で絶望的になる作品。

友を選ばば 柳生十兵衛 荒山徹 講談社文庫
荒山先生、また歴史で遊んでるな。まあ、「三銃士」のダルタニャンと柳生十兵衛が同時代人である(ネタバレ)ということです。

ロードサイド・クロス ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫
人間嘘発見器<キャサリン・ダンス>シリーズ2。インターネット世界から現実社会に浸食する悪意と犯罪。ダンスのキネシクス(対面尋問)はそもそもアナログ的解析なのでデジタル世界とは相性がよくないようだ。ディーヴァーお得意のどんでん返し率もあんまり高くない。というわけで平均的な仕上がり。

蜩ノ記 葉室麟 祥伝社文庫
直木賞受賞作。背筋の伸びた凛とした時代小説。真面目。

ステイ・クロース ハーラン・コーベン ヴィレッジブックス
コーベンは何書いても巧いし面白いんだけど、俺はマーロン・ボライター・シリーズの続きが読みたいんだよ……

やなりいなり 畠中恵 新潮文庫
<しゃばけ>シリーズ10。レシピ付き5編。各巻ごとに統一のテーマを立てて趣向を変えてくるのはえらい。

コードネームを忘れた男 キース・トムスン 新潮文庫
敏腕スパイだった父親がアルツハイマーでボケてしまい、おまけにスパイ組織から追われる「ぼくを忘れたスパイ」の続編。前作直後からの再開となるコメディタッチのノンストップアクション。痴呆症のスパイというそもそもの設定は面白いのだが、そこに寄りかかりすぎだよ。ストーリーは一本道でひねりなし。

8月-9月

冬のフロスト R・D・ウィングフィールド 創元推理文庫
ワーカーホリックだがべつに有能というわけでもなく、気ののらない用事を回避するためには努力を惜しまないくたびれた捜査官<フロスト警部>5。シリーズ始めのころよりだいぶフロストの「なんだかんだいっていいオヤジ」な人間味が滲み出ているので小説としてのクオリティは高くなっていると言える。ただ、フロストの傍若無人なデタラメぶりが少なくなっているのはファンとしては残念。で、作者は死んじゃったのでシリーズ未訳はあと1巻しかない。

早雲立志伝 海道龍一朗 角川文庫
伊勢新九郎はいかにして北条早雲となったのか。その前半生。早雲(新九郎)って一介の浪人からの「下克上の代表的存在」だったはずだが、京の名家の出という説もあったのか。作者自身も定説を翻す新九郎/早雲像ということで、わざわざ後説を最後に章立てして説明を入れている。それもふくめてなかなか面白い北條一代記。

モルフェウスの領域 海堂尊 角川文庫
この人が一貫して書いているのは医療の倫理と技術革新との整合と、旧態依存体制への批判。いつもの軽い文体ながら人工冬眠の抱える問題と可能性を医療という観点で真摯に書いている。

流れ行く者−守り人短編集− 上橋菜穂子 新潮文庫
<守り人>のその前の話。若き日のバルサとタンダを描いた連作短編。派手さは皆無だが淡々と美しい掌編の数々。

訣別のトリガー アーバン・ウェイト 新潮文庫
暴力とダメ人間だらけの犯罪小説。バイオレンス耐性があれば一気読みできるが、ちょっと単調。

クラッシャーズ 墜落事故調査班 デイナ・ヘインズ 文春文庫
一芸に秀でた捜査官のチームが飛行機墜落事故を調査する話。海外テレビドラマっぽい。
事故の真相がちょっと薄っぺら。

泥棒は几帳面であるべし マシュー・ディックス 創元推理文庫
「ぼくはどろぼうだよ。でもわるいにんげんじゃないからあんしんしてね」という、ほどほどにゆったりした仕事系ミステリ。こと細かい泥棒の技術描写と心象描写が目新しい。一種のおとぎ話なので安心して読める。

火群のごとく あさのあつこ 文春文庫
藤沢周平の話を情景や筋立てそのままにハイティーンの少年に置き換えるとこうなります。淡々としみじみと揺れる心の青春時代剣術小説。

ポーカーレッスン ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫
短編集。どんでん返しの名手による怒濤の16作。

若様組まいる 畠中恵 講談社文庫
ちょちょら 畠中恵 新潮文庫
この人の作品に一貫するリアリティのなさ(でも面白い)はなんだろうか、とずっと思っていたのだが、わかった。男がワンパターンなんだ。どこかにいそうではあっても二次元的で奥行きのない、想像上の生物。基本的に女子度が高くて(スイーツ好きとかお喋り好きとか集団的な結束が強いとか)、かつての少女漫画的な造型とも言える。まあ、ファンタジーなんだからそれでもいいけどね。若様組みの巡査教習、ちょちょらの江戸留守居役の日常、ともに新規分野ながらよく調べてあってそれには感心します。

消滅した国の刑事 ヴォルフラム・フライシュハウアー 創元推理文庫
旧東ドイツ警察出身の捜査官と、ベルリンに発生した猟奇連続殺人。地味な警察小説かと思ったら途中で(以下自粛)。読んでてびっくりした。

帰郷 エース・アトキンズ ハヤカワ・ミステリ文庫
久しぶりに帰った故郷では悪いやつらが幅を利かせているのでやっつけちゃいました、という自警団的ハードボイルド。なんか展開や語り口がロバート・B・パーカーっぽいな、と思ったら、アトキンズは本当にパーカー先生死後の「スペンサー」シリーズを引き継いで書いているんだそうな。ちょっとびっくり。

スーツケースの中の少年 レナ・コバブール&アニタ・フリース 講談社文庫
リトアニアからデンマーク、北欧を舞台にしたサスペンス。素性もわからず言葉も通じない子供を巡る犯罪と家族愛の話。北欧系のミステリ文学賞をいくつか獲ったらしい。

甦ったスパイ チャールズ・カミング ハヤカワ文庫
スパイ小説の復活といわれる佳作。主人公は潜入や殺人のプロでもなくITに秀でたわけでもない、組織からリストラされた中年スパイ。スパイだってただの人間だし、という開き直った(?)スパイアクション。

死者の声なき声 フォルカー・クッチャー 創元推理文庫
1930年のベルリン警察<ゲレオン・ラート警部>シリーズ2。無声映画からトーキーへの転換期に相次いだ女優の失踪と殺人事件。犯人捜しというより、捜査過程と時代の風俗描写が作品のメイン。全三部作なのだが、ナチ台頭へと続く文化の変換と都市の廃退のシンクロ性がテーマでもあるような気がする。主人公はなんかちょっと独善的で軽薄で感情移入しにくい。

大東京ぐるぐる自転車 伊藤礼 東海教育研究所
耕せど耕せど 伊藤礼 東海教育研究所
エッセイの名手伊藤先生はお元気そうでなにより(1933年生まれ)。ぐるぐるは2年前に出てたのに気付かず、書店でこの2冊が並んでいたのであわてて入手しました。ぐるぐるは自転車徘徊老人について、耕せどは小規模家庭農園老人についてのエッセイ。

7月

サッカーボーイズ 15歳 約束のグラウンド はらだみずき 角川文庫
学校の部活動としてのサッカーと、サッカー選手としての少年たちを描くシリーズの4巻目。中三の春という大きな節目で、新しい指導者と出会うことになった主人公たちの戸惑いと葛藤、そして成長。今回の大筋でもあるシステム変更に個人の成長物語を重ねているあたりがサッカー小説としても少年小説としても優れていることの証だね。

夜に生きる デニス・ルヘイン ハヤカワ・ポケット・ミステリ
ルヘインの<コグリン家のボストン裏面史>三部作の2。三男ジョーを主人公にした1920〜30年代の禁酒法時代のギャング社会の物語。ボストン〜タンパ〜キューバの闇社会史でもある。いつもの情感たっぷりのルヘイン節が最初から最後までぎっしり。

骨の祭壇 フィリップ・カーター 新潮文庫
匿名作家によるノンストップ・アクション・ロマンティック・オカルティック・スリラー。一気呵成伝奇風恋愛活劇小説。作者の正体として名前が挙げられたのはダン・ブラウン、ハーラン・コーベン、スティーヴン・キング、スティーヴ・ベリー、ジェームズ・ロリンズ、ロバート・ラドラム(故人)、などなど。それくらい評価されると小説なので超絶に面白い。一本調子だけど。

グラウンドの空 あさのあつこ 角川文庫
ただ田舎の中学生が野球する話なのになんでこんなに感動的なんだろう。もうひとつの「バッテリー」。もともとサブに置く大人の配置がうまいのだけれど、今作ではいじわる婆さんの設定が超絶に素晴らしい。

くるすの残光 仁木英之 祥伝社文庫
天草四郎の遺志を継ぐ若者たちと、対抗する悪者集団。異能の忍術合戦なので「山田風太郎を継承する小説」と帯にも解説にもあるが、風太郎っぽさは半分くらいだな。本家や荒山徹ほどデタラメではない。三巻目まで出てるシリーズの一作目。

武神の賽 千里伝 仁木英之 講談社文庫
古代中華RPG風冒険アクションファンタジー<千里伝>シリーズの3(4で完結しそうだ)。今回のはスターウォーズにおけるアナキンのダークサイド転落エピソードを思い出したよ。あと、千里の人間的成長ぶりにびっくり。だがまあ結局、仁木英之は「僕僕先生」シリーズが一番面白いと思う。

くすぶり亦蔵 秘剣こいわらい 松宮宏 講談社文庫
剣豪女子大生の秘技<こいわらい>2。舞台のスケールをいきなり国際的に大きくして、それなりに形にしているのは見事。現実社会との整合性において「そんなわけないだろ」的な穴が多すぎるが、ホラ話としては合格点。

チャーチル閣下の秘書 スーザン・イーリア・マクニール 創元推理文庫
第二次大戦下のロンドン、たまたま(!?)チャーチル首相の秘書となってしまったアメリカ娘の奮闘記。コメディタッチではありながら、展開はシリアス。13年度エドガー賞最優秀処女長編賞、バリー賞最優秀オリジナル・ペーパーバック部門賞、ディリス賞にそれぞれノミネートされている佳作。

6月

踊る骸 カミラ・レックバリ 集英社文庫
スウェーデンの地方都市を舞台にした小さな警察署と大きな家族の物語<エリカ&パトリック事件簿>4。巻を重ねるにつれて主人公だけでなく脇の登場人物までもがそれぞれに成長していくという、シリーズ物の見本のような仕上がりになっていてびっくり。きっと作者は手抜きができない人なのだな。全員のあれもこれも書きたいのだろう。なので文庫ミステリとしてはちょっと長い。

特捜部Q−カルテ番号64− ユッシ・エーズラ・オールスン ハヤカワ・ポケット・ミステリ
コペンハーゲン警察の未解決事件捜査班<特捜部>シリーズ4。その実態は厄介者の隔離部屋なのだが、どういうわけだか重大事件を解決してしまうというちょっと変化球的な警察捜査小説。今回の捜査対象は悪質な人種差別や偏執的な優生主義絡みなので話がけっこう重い。ここんとこの北欧ミステリにはこの手のネタ(他者や異分子に対する極端な排他的攻撃性、または宗教的閉鎖性)が多いのがちょっと気になる。残念ながら現実に即した傾向なのだろうなあ。

禁漁区 乃南アサ 新潮文庫
警視庁の内務観察捜査を扱った連作短編。いちおう捜査官沼尻いくみという中心人物は設定されているが、各話とも視点は悪事に手を染めてしまう警察官にある。なので捜査物というより転落泥沼物になっている。ちょっとつらいが、物語としてはそれで面白い。

柳生大作戦 荒山徹 講談社文庫
関ヶ原の戦いと壬申の乱、日本史における二つの転換点を結ぶ百済王朝復興の陰謀……といういつものホラ話。今回も忍術妖術と柳生剣術と大怪獣が満載の痛快伝奇小説。だが実は巻末の文庫版あとがき「東アジア史の中に日本の歴史を置いて考える」(古代に朝鮮半島からの渡来人大規模漂着があったのかなかったのか的な考察)が本編より面白い!!

燦 4 炎の刃 あさのあつこ 文春文庫
青春伝奇時代小説。まだまだつづくのか。時代的にハイティーンはもう大人だと思うのだが、あんまりそういう描き方ではないな。この人の作品はピュアさが売りだからいいのか。

フリーファイア C・J・ボックス 講談社文庫
ワイオミング州猟区管理官<ジョー・ピケット>シリーズ7。原書では7、翻訳版では6だったのか。ひとつ抜けているのはなぜかしら。今回は広大なイエローストーン国立公園を舞台にしたエネルギー開発型金権巨悪との戦い。いつもながら孤軍奮闘の様と、家族の絆でほろり。

図書室にもどる?
ふりだしにもどる?

5月

暗殺者の正義 マーク・グリーニー ハヤカワ文庫
心正しき暗殺者グレイマン<コート・ジェントリー>シリーズ2。前作以上のノンストップ冒険スパイアクション。物語的に主人公が死なないことはわかっているのだが、ピンチの連続で読み出したら止まらない(止めるところがない)。そもそもの設定はウソくさいのだが、描写や展開がリアルなのでどんどん引き込まれてしまう。意外と読後感もすっきり。

冬に散る華/函館水上警察 高城高 創元推理文庫
明治24年の函館港湾警察署を舞台にした連作短編シリーズ2。密漁摘発、外国船間のトラブル、地元博徒の抗争、どれを読んでも時代と場所の設定が見事。こういうものを映像化してほしいな。見ないけど。

逆転立証 ゴードン・キャンベル RHブックス+プラス
70年代のアリゾナ、敗訴確実な裁判に直面した若手弁護士を語り手にしたリーガル・スリラー。前半と後半で弁論要旨が逆転するプロットやそこに発生する弁護士倫理の問題が面白い。相手側(検察)がマヌケにしか思えないのはちょっと残念だが。もともとの第一稿が書かれたのが79年とのことなので、その後の法廷物ブームを予見するような作品でもある。ちなみに版元(RH)は倒産したのでもうこれ入手できないかも。

禁中御庭番 乱世疾走 海道龍一朗 講談社文庫
あっ、これ読んでた。新潮文庫で。

橘花抄 葉室麟 新潮文庫
これ、まんま藤沢周平だな。面白い。

赤く微笑む春 ヨハン・テオリン ハヤカワ・ポケット・ミステリ
スウェーデンの寂れた小島エーランドを舞台にした四部作(?)の三作目。エルフとトロールの伝説が支配する島の事件が、過去の記憶と真実を明るみに引き出していく。ひたすら地味で寒くて侘びしいけれど、だからこそ暖かさが光る良質なシリーズだと思う。こういうものがあるから北欧ミステリはやめられない。

密売人 佐々木譲 ハルキ文庫
道警シリーズ5。シリーズレギュラーのはみだし警官チーム、それぞれの追っていた個別の事件がひとつの形を示していく過程がいい。あ、今気付いたが、はみだし組=正規の捜査活動ではないからタイムリミット型になってしまうのか。

4月

大和燃ゆ 八木荘司 角川文庫
中臣鎌足と百済出兵を政治と戦争から多面的に描いた古代史ロマン。各章ごとに視点となる人物を変える構成は面白いが、あまりに表現も解釈も現代的すぎるんじゃないかね。まあ……わりと退屈。

青雷の光る秋 アン・クリーヴス 創元推理文庫
<シェットランド四重奏>の第四部は荒天で孤立した島での殺人事件。密室ミステリだな。自然描写も人物造詣も筋立ても傑作のレベルに近いかと思う。最終話に相応しい高いクオリティ。が、この終わり方はきつい。ネタバレ失礼。

マドンナ・ヴェルデ 海堂尊 新潮文庫
代理出産を扱った「ジーン・ワルツ」のサイドストーリー。ジーンが不妊治療という医学面での物語ならマドンナは代理母という倫理面、心理面の物語。基本の話は同じなのに視点を変えるとこうなるのか、という作者の多才さが発露している作品。でもちょっと情緒過多。

ルクセンブルクの迷路 クリス・パヴォーネ ハヤカワ文庫
じわじわ系の心理サスペンスかな、と思いつつ読み進んでいくと行動型スパイアクションになっている。変化していく過程が面白い。でもただし作り物的なウソ臭さは満載。

地のはてから 乃南アサ 講談社文庫
開拓民の子として幼くして未開の道東(知床)に渡り、大正から昭和にかけて苦難の中で家を守り子を育てた女の人生。ただただひたすら受難に耐えて強靱に生き抜く姿は涙なしに読めない。……のだが、哀しい場面が多すぎてつらい。

冬の生贄 モンス・カッレントフト 創元推理文庫
またまたスウェーデン発の警察小説。シングルマザーの女刑事を主人公においているが、集団型の警察捜査物に近い。格差社会や移民問題という現代的な視点はわりと目新しい。シリーズ第一作なので、今後の訳出に期待。

嘘つきのララバイ メグ・ガーディナー 集英社文庫
心理検死官<ジョー・ピケット>3。死者の心理を解析する心理検死なんていう業務は現実にはない。物語もなんだかやたらに大きく広げたがる傾向もあり、そういう点ではSFに近いものがあるな。ホラ話と言うにはちょっと遊びが足らない。

3月

風渡る 葉室麟 講談社文庫
風の軍師 葉室麟 講談社文庫
キリシタンとしての黒田官兵衛如水と、その時代。官兵衛の野心、野望を扱った小説は多いが宗教者如水という視点は珍しいのではないか。戦乱期の裏キリシタン史という構成でもありなかなか面白い。

中継刑事/捜査五係申し送りファイル 鳴海章 講談社文庫
所轄所はぐれ部署のはぐれ刑事もの。初動捜査のみを担当という制限が設定としての面白味なんだろうが、あんまり新味がないなあ。

18の罪/現代ミステリ傑作選 ローレンス・ブロック他
ショートミステリ集。半分くらいは知らない作家だが、質が高い。でも大半が犯罪とか死とか悪行とかの話なので読後感はモヤモヤ。

引かれ者でござい/蓬莱屋帳外控 志水辰夫 新潮文庫
飛脚問屋蓬莱屋シリーズ。道中ものの時代小説としても独立独歩のトラブルバスターものとしても完璧な中編3本。

スケアクロウ マイクル・コナリー 講談社文庫
「ザ・ポエット」のジャック・マカヴォイ登場。15年ぶりの主人公。基本設定はコナリーマニアにしかわからないが、知らなくても問題なし。要はアナログの残党的な新聞記者とITを駆使する犯罪者との戦い。コナリーの緊迫感ある構成と叙述が冴えてる。

極夜/カーモス ジェイムズ・トンプソン 集英社文庫
フィンランド北部の小村を舞台にした警察小説。また北欧ものか、しかも作者はアメリカ人か。さすがに期待していなかったのだが、びっくりするぐらい面白かった。事件の特異性から暴かれる人種問題と宗教的呪縛や、ローカルコミュニティにおける精神疾患の多発には福祉国家というフィンランドイメージを覆す衝撃さえある。いやべつに貶めているわけではないよ。小説としての背景の描き方が巧いということだ。極夜とは北極圏の昼間でも暗い時期のこと(白夜の反対)。そしてまた風土の凍え感には寒冷地マニアとしても満足。

夏を殺す少女 アンドレアス・グルーバー 創元推理文庫
こっちはオーストリアミステリ。不可解な死亡事件の点と点が繋がり衝撃の事実が……というありがちな基本構成だが、オーストリアとドイツ、女弁護士と中年刑事、富裕階級と難民児童という対比の仕方が巧い。同じ所をぐるぐる回っているようでもきちんと話を進めているので、中盤からテンポアップして引き込まれる。ローカリティはあんまり感じないけどね。

2月

<氷と炎の歌>
4 乱鴉の饗宴 ジョージ・R・R・マーティン ハヤカワ文庫SF
第四部もとんでもなく面白い冒険謀略暴虐物語なので満足は満足なのですが、物語的にはやっぱり途中でぶった切られてしまうのです。お願いだから早く続きを……(だが全七部作になる予定だとか)

サトリ ドン・ウィンズロウ ハヤカワ文庫
なんとまあ伝説のスパイアクション「シブミ」(トレヴェニアン作)の前日譚。それをウィンズロウが書いたという奇蹟のような作品。冷戦前夜のアジアを舞台に、日本育ちのロシア人暗殺者ニコライ・ヘルがひっそりと大活躍する(なにしろ隠密行動なので)。実をいうとシブミは30年前に読んだ作品なのでほぼ憶えていないのだが、でもこれは前日譚なので問題はないのだ。

エデン 近藤史恵 新潮文庫
自転車ロードレース物の名作「サクリファイス」の白石誓、再び。続編とはちょっと違うが、チームやレーサーを描く筆致は前作に劣らない。おまけに舞台はツール・ド・フランス。いやしかしツール・ド・フランスを出しちゃったら、それ以上の背景はありえないだろう。次作はなし?

見えない傷痕 サラ・ブレーデル ハヤカワ・ミステリ文庫
デンマーク発の警察小説。ワーカホリックの女刑事が連続レイプ犯を追うという、ありがちな物語。そこそこ読ませるサスペンスフルな出来ではあるのだが地域的な特異性は薄いなあ。

初陣−隠蔽捜査3.5− 今野敏 新潮文庫
キャリア警察官僚・竜崎シリーズからのスピンオフ。警視庁刑事部長・伊丹を主人公にした連作短編。各作にちょっとだけ出てくる竜崎の存在感がありすぎて面白い。

ノーバディノウズ 本城雅人 文春文庫
第一回「サムライジャパン野球文学賞」大賞受賞作。そんな賞しらない。読まなくてもいい。ただし、このエンディングは好きだ。

ようこそグリニッジ警察ヘ マレー・デイヴィス ハヤカワ・ミステリ文庫
破天荒秀才美女と繊細マッチョ男という凸凹コンビの刑事物。テンポがいいのでサクサク読める。深みはないけどね。

自白/刑事・土門功太郎 乃南アサ 文春文庫
昭和の時代の正しい人情刑事を描いた連作短編。地味。現在から見ると一種のファンタジーだな。

TOKYO YEAR ZERO デイヴィッド・ピース 文春文庫
戦後間もない混乱と絶望の日本人と犯罪と捜査官。三部作の第一部。連続強姦殺人犯小平事件。書いたのはイギリス人。延々と続く虚無感と精神衰弱。たいへんな力作なのだが、読んでると滅入る。

1月

<氷と炎の歌>
1 七王国の玉座 ジョージ・R・R・マーティン ハヤカワ文庫SF
2 王狼たちの戦旗 ジョージ・R・R・マーティン ハヤカワ文庫SF 
3 剣風の大地 ジョージ・R・R・マーティン ハヤカワ文庫SF 
高評なシリーズであることだけは知っていて、文庫版で完結したら読もうと思っていて、三部作だと勝手に思い込んでいたので読み始めてしまいました。第三部の途中で気付いた……まだまだ「つづく」じゃないか。という剣と陰謀と魔法と歩く死者とドラゴンの中世英国風超絶ウルトラ大河冒険活劇。主要人物だけで20人以上いる。人名も地名も覚えきれない。次作を読むまでに物語のディテールなんて絶対忘れていると思う。でもすんげー面白い!

六本木デッドヒート 牧村一人 文春文庫
2009年度第16回松本清張賞受賞作「アダマースの饗宴」を改題。バカ娘とヤクザ連中が繰り広げるお宝争奪戦。全編通して騒々しいだけだが、男女によって「遊び」の目的が違うという視点には感心した。

豊国神宝 中路啓太 新潮文庫
豊臣秀吉の残した財宝を探すという伝奇的剣豪小説。宝探しの方はありきたりだが、剣豪物としてはなかなかよくできている。主人公の剣士としてのレベルアップの様が面白い。

葡萄色の死 マーティン・ウォーカー 創元推理文庫
南フランスの小村を舞台にした<警察署長ブルーノ>シリーズ2。村への大規模ワイナリー進出を巡る騒動と死亡事件。のどかな風景やのんびりした人々の中に現代社会の諸問題が凝縮されている。それなりに真面目な田舎ミステリ。

秘剣こいわらい 松宮宏 講談社文庫
剣技に秀でた女子大生が用心棒に雇われ棒を手に京都市中で立ち回りを演じるという、現代チャンバラ小説。それ自体は面白い発想だが、最後の対決がちょっとアレな方向なので残念。

竹島後免状 荒山徹 角川文庫
竹島はなぜ二国間の問題の地となったのか、に関する剣豪忍術ホラ話。荒木又右衛門と柳生十兵衛の因縁の(?)対決再び。

アウトロー リー・チャイルド 講談社文庫
元憲兵少佐の放浪者<ジャック・リーチャー>シリーズ17作中の9作目。映画化に合わせての邦訳。もともと無敵のヒーロー系なのだが、この話では無敵すぎて造りが雑な感じ。ただしノンストップアクションとしては上出来だけどね。いずれにしろトム・クルーズ主演はないわ。

さびしい女神 仁木英之 新潮文庫
美少女仙人と見習い青年の漫遊記<僕僕先生>4。今回はけっこうな大災害に王弁くんが直面する大スペクタクルでもある。あ、僕僕先生の正体がちらりと見える。

雪の女 レーナ・レヘトライネン 創元推理文庫
北欧ミステリのブームにもついにフィンランドの女性警官が登場。シリーズ11作中の4作目にあたる。面白いけど普通の女性捜査官もの。フィンランドだから、という地域性はあんまり感じない。

↑2013/2012↓

11月-12月に読んでたもの

首斬り人の娘 オリヴァー・ペチェ ハヤカワ・ポケット・ミステリ
1659年、ドイツ南部バイエルンの小さな街に起きた小児殺人と魔女狩り騒動。その街の処刑吏(身分は低くても実は知識人)と娘(自立心旺盛なお転婆)が真相の解明に挑む良質な歴史ミステリ。ドイツ国内はもちろん、アメリカでもベストセラーになったという作品だけあって、展開もスムーズだし、時代風景や人物の描写もきっちりと出来上がってる。中世欧州の頑迷さと野蛮さにはうんざりするのだが、それはまあ作品の責任ではないな。

己惚れの記 中路啓太 講談社文庫
自己の信念を貫き通した武士の生き様。というとありがちな物語のようだが、他のものとは全然違う。それが面白いのかはまた別。まあ面白くなくもない……かな。作者は時代小説の新鋭といわれる人なので他の作品も読んでみたいとは思う……かな。ストイックな作風は葉室麟に近い。

首売り丹左 中谷航太郎 ハルキ文庫
中路と中谷を間違えた。とりあえず読んだ。もういい。

靄の旋律/国家刑事警察特別捜査班 アルネ・ダール 集英社文庫
次から次へと訳出されている北欧警察小説のまた別のもの。これはこれで人気シリーズらしい。この一作目は1999年の作品。捜査官個人を描くのではなく捜査班という集団の活動を描く系統でそれなりに面白く読めるけれど、主要人物が多いぶん視点がいきなり切り変わるので「ん?」とならないこともない。

徳川家康 荒山徹 実業之日本社文庫
トクチョンカガンと読む。家康の影武者は朝鮮人捕虜であったという荒山的伝奇戦国ホラ話。隆慶一郎「影武者徳川家康」へのオマージュというか、裏返しのような作品。いつものぶっとび忍術剣術合戦もちゃんとある。

ファイアーウォール ヘニング・マンケル 創元推理文庫
北欧ミステリといえばもはやこれ<クルト・ヴァランダー>シリーズの8。今回はIT絡みの犯罪と陰謀。スウェーデンの小都市イースタの捜査官なのになぜか国際的事件と対峙してしまうという、前にもあったパターンでもある。ヴァランダーのITオンチ故の情報漏洩のクダリはちょっともの哀しい。というか、これ1998年の作品なのか! それで現在にも繋がる問題を描いているってちょっと凄いな。

自白 ジョン・グリシャム 新潮文庫
グリシャムだからね、当然映画化前提で書いてるね。まあ、それが悪いとは言わない。物語として読み応えあるから今回は許す。

冷たい川が呼ぶ マイクル・コリータ 創元推理文庫
しまった、ホラーだ! でもとりあえず読んだ。クーンツより怖かった(クーンツについては各自調査のこと)。でもまあ、やっぱりコリータにハズレはないな。これもちゃんと面白かった。

ソフト・ターゲット スティーブン・ハンター 扶桑社ミステリー
ついに<レイ・クルーズ>伝説が始まってしまったエンドレスのスナイパー<スワガー>サーガ。今回の内容はほぼダイハードそのまんま。巨大ショッピングモールに閉じこめられたクルーズ対テロリストグループの巻。スピード感とアクション場面は一級品。小説としては雑だけどね。

ゆんでめて 畠中恵 新潮文庫
<しゃばけ>シリーズ9。かなり特殊な構成の連作短編5作。才人だなあ。

喪失 モー・ヘイダー ハヤカワ・ポケット・ミステリ
2012年度MWA賞最優秀長篇賞受賞作。ただのカージャックが誘拐事件となり、連続誘拐事件となり、警察の捜査は後手後手となり……。構成的に序盤はちょっともたもたした感があるが、中盤以降のサスペンスの叩き込み方はよくできてる。場面場面では面白いんだけど全体としては破綻してるような気がするなあ。評価の基準がよくわからない。

スカウト・デイズ 本城雅人 PHP文芸文庫
プロ野球スカウトの権謀術数をミステリー風に描いた小説。有望選手を獲得するための裏技、反則技、禁じ手等々のオンパレード。そのままだと爽快感がない(ほんとにない!)ので、サイドストーリーで救いの部分も付け足してある。付け足しだけど。

9月-10月

水の城 風野真知雄 祥伝社文庫
「武蔵国の忍城、石田三成二万軍勢に屈せず」の話。史実だから当然なのかもしれないが「のぼう」とほぼ同じエピソードだ。だがしかし、こっちの方が10年も前の作品。しかもやっぱり面白い。どっちが上かというのは人それぞれ。

伏/贋作・里見八犬伝 桜庭一樹 文春文庫
なんだこれ? これがライトノベルというものなのか? ファンタジーというものなのか? あまりといえばあまりにひど(略)

暴力の教義 ボストン・テラン 新潮文庫
20世紀初頭のメキシコ国境を舞台にした正義と悪と巨悪の騙し合い。親子の絆もちょっとだけある。「暴力の詩人」テランにしてははなはだ薄口の話。銃弾が飛び交い血飛沫が溢れるのは毎度のことだが、筋立ても荒っぽい。映画的に洗練された作品というべきかな?

悪忍/加藤段蔵無頼伝 海道龍一朗 双葉文庫
ピカレスク忍者小説。シリーズ物のようだ。物語としてのホラの加減が巧い。

償いの報酬 ローレンス・ブロック 二見文庫
元酔いどれ探偵<マット・スカダー>シリーズ作品! 新作なのだが新作と言いづらいのは、酔いどれ時代の回顧談だから。過去を振り返るというのはちょっとずるい気もしないでもないが、スカダーの物語が読めるのなら問題なし!

濡れた魚 フォルカー・クッチャー 創元推理文庫
1929年のベルリンを舞台にした警察小説。全8部(予定?)の一作目にあたる。敗戦後の社会不安、経済不況、ナチの台頭という暗い時代背景の中で現実的にならざるをえない若手捜査官の成長物語でもあるようだ。期待のシリーズ。

紳士の盟約 ドン・ウィンズロウ 角川文庫
サンディエゴのサーファー探偵<ブーン・ダニエルズ&ドーン・パトロール>シリーズ2。ほんとにウィンズロウは大人になれない大人を描くと巧いんだよな。しかもこのシリーズは登場人物の大半がそんな人間なので、読後感も爽やかだったりする。

北帰行 佐々木譲 角川文庫
新宿、新潟、稚内とハイテンポで展開する巻き込まれ追いかけられエンドレスバイオレンス小説。展開が早いというか、荒っぽいというか。ちょっと救いがない。

暗殺者グレイマン マーク・グリーニー ハヤカワ文庫
伝説のヒットマン。でも本人の気持ちは正義の味方。敵役も類型的なイヤな奴。そんなものが面白いわけないよな、と思いつつ読んだら面白かった。テンポがよく、怒濤のスリルとアクション。シリーズ化されたのもわかるが、同じ手を二度も三度もつかうわけにはいくまい。

ソウル・コレクター ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫
<リンカーン・ライム>シリーズ8。今回の敵はデジタルデータとしての個人情報を盗み、悪用し、破壊する「すべてを知る男」。いつもながらどんでん返しの連発と伏線ではない伏線が見事。敵役にちょっと小者感がするのはサイドストーリーで格上の敵が活動中だからか。

8月

特捜部Q Pからのメッセージ ユッシ・エホズラ・オールスン ハヤカワ・ポケット・ミステリ
北欧警察小説の伝統を継承するデンマーク<特捜部Q>シリーズ3。確かにシリーズ最高作といわれるだけのクオリティがあるが、個人的に宗教ネタはあんまり好きじゃないので☆一つマイナス。というか☆なんてつけてなかった。

札幌方面中央警察署南支署/誉れあれ 東直己 双葉文庫
徹底して「反権力反警察」の東直己が警察小説? と思ったら警察内抗争(いい警官vs.悪い警察)の物語だった。納得。

桐島、部活やめるってよ 浅井リョウ 集英社文庫
ああ、これはよくできた青春小説だ。「桐島」の同級生たちのどうでもいい(?)日常を綴る連作短編。一作ごとに完成度の落差があるのと全体の構成にはちょっと疑問もあるが、全体のトータリティを損なうものではないかな。期待しないで読んだわりには面白かったよ。

獣の奏者 III探求編 上橋菜穂子 講談社文庫
獣の奏者 IV完結編 上橋菜穂子 講談社文庫
全四部完結。いろんな意味で第二部までの読者には予想し得ない導入と展開と結末。これで和製ファンタジーの最高峰に立ってしまったと言ってもぜんぜん過言ではない。というか、ファンタジーという枠で他の作品と一緒にしたくない珠玉の名作。ぜひ映像化はしないでいただきたい。

7月

フランクを始末するには アントニー・マン 創元推理文庫
幻想ミステリ短編集。いくつかはびっくりするぐらい面白いが、どれもけっこうブラック。体力ない時には読まない方がいい。他人におすすめはしない。

燦 3 土の刃 あさのあつこ 文春文庫
あ!? 全3部じゃなかったのか!! まだまだつづく。

死を哭く鳥 カミラ・レックバリ 集英社文庫 
スウェーデンの地方都市を舞台にした<エリカ&パトリック事件簿>4。このシリーズで一番面白かった。本格警察ミステリになってるし、各キャラクターも個性がしっかり書き分けられている(ようやく?)ので、話がすっきりしているわけだな。

この声が届く先 S・J・ローザン 創元推理文庫
NYの探偵コンビ<ビル・スミス&リディア・チン>シリーズ10。おおお、タイムリミット・サスペンス! ディーヴァー的なケレンやどんでん返しはないが、それはそれでいかにもローザンのスタイルで好ましい。(でもシリーズ愛読者としては、こういうのは一回だけでいい)

吊るされた女 キャロル・オコンネル 創元推理文庫
冷徹美女刑事<マロリー>シリーズ6。連続殺人事件のベースに隠されたマロリーの幼少期。マロリーのサディスティック描写が少なくてマニアとしては少々もの足りないのだが、とりあえず訳出が続いていることに歓喜。

獅子の血戦 ネルソン・デミル 講談社文庫
NYの対テロリスト捜査官<ジョン・コーリー>シリーズ5。ついに「王者のゲーム」のアサド・ハリールとの決着戦。最後に主人公が勝つのは分かっているのだが、ハラハラドキドキの構成はさすが。いつもながら上下巻一気読み。

弩 下川博 講談社文庫
南北朝動乱期、野盗と戦うために侍を雇った村の物語。時代設定と武器(石弓=クロスボウ)が新鮮で興味深い。でも活劇場面は思ったほど出てこない。

時輪の轍 千里伝 仁木英之 講談社文庫
唐の時代を舞台にしたチャイナ・ファンタジー<千里伝>2。前作以上にロールプレイング的。それはそれでいいのだが、千里のキャラがまだ立ってない。

6月

天地明察 冲方丁 角川文庫
江戸時代、改暦事業に取り組んだ渋川春海の生涯(史実を元にしたフィクション)。2010年の本屋大賞受賞で話題になった作品。理系の話だからスペクタクルではないが、意外と波乱と苦闘に満ちていてドラマチックでもあって面白い。オタクな時代小説だね。

三十三本の歯 コリン・コッタリル ヴィレッジブックス
70年代のラオスでただ一人の検死官<シリ先生>シリーズ2。前作と比べると緊迫感がかなり増している(主要登場人物の生死に関わる謎解き)が、それでも緩やかで泰然とした東南アジア感たっぷりの異色作。

暴行 ライアン・デイヴィッド・ヤーン 新潮文庫
暴行事件の傍観者たちは何故被害者救助も通報もしなかったのか。作品のクオリティは高いと思うが、苦手。

太閤暗殺 岡田秀文 双葉文庫
豊臣秀吉暗殺を目論む石川五右衛門。なんだ? 遊びのない話だな。04年度の「本の雑誌おすすめ文庫時代小説第一位」だったらしいが、古典にはなりそびれたね。

墨染めの鎧 火坂雅志 文春文庫
戦国時代、僧侶でありながら大名となった安国寺恵瓊の生涯。戦国ものだと安国寺恵瓊はだいたい「腹黒い外交坊主」として登場してくるが、作者もそこは否定していない。彼がそうなったのには理由がある、という物語。

追撃の森 ジェフリー・ディーヴァー 文春文庫
ノンシリーズの逃亡追撃サスペンス。ディーヴァーらしい引っかけとひっくり返しの連続ジェットコースター。まあ、ただそれだけ。

ラストダンス 堂場瞬一 実業之日本社文庫
40才を目前にしてそれぞれプロ野球引退の次期を迎えた投手と捕手の最後の夏、最後のひと試合。この作者のスポーツものは実はあんまり好きじゃないのだが、これはよかった。主役コンビが対照的でありながらもストレートな野球バカなのがいい。

アリアドネの弾丸 海堂尊 宝島社文庫
この人の話は医療サスペンスだったり医療SFだったり医療ホラーだったり医療冒険小説だったり医療青春小説だったりするが、これは医療政治(医療システムと警察組織との暗闘)と殺人事件を組み合わせた本格ミステリ。終盤の白鳥の屁理屈と謎解きは爽快ですらある。御都合主義と無理矢理感はご愛敬。

5月

オランダ宿の娘 葉室麟 ハヤカワ文庫
江戸時代、オランダ商館長が江戸訪問で寄宿した場所がオランダ宿。シーボルト事件を背景に、オランダ宿の人々を襲った悲劇を描く。なんかちょっと辛い。

インフォメーショニスト テイラー・スティーヴンス 講談社文庫
主人公であるヒロインは言語能力と変装と情況分析の天才という情報収集のプロ。対人関係に障害があることも含めて「ミレニアム」のリスベットと重なるイメージもあるが、あそこまで強烈な存在感はない。物語としてもいささか薄い。スピード感はあるんだが。

ブレイズメス1990 海堂尊 講談社文庫
<東城大医学部付属病院>サーガの一編。天才外科医を巡る学部内政争の顛末。あの人のあれはこのことのあれとこんなふうに繋がっているのか、というような話。この作者の小説は作品ごとに時代が行ったり来たりするのでちょっと混乱する。そろそろ自分用の年表相関図作るしかないか。

結婚は殺人の現場 エレイン・ヴィエッツ 創元推理文庫
マイアミを舞台にしたワケあり転職ミステリの4。今回はブライダルサロンの店員。いつもながらのイカレたサイドエピソードの数々は爆笑ものなのだが、本筋がいまいちでした。

嶽神 長谷川卓 講談社文庫
武田家の隠し黄金を巡る戦国時代小説。異能の忍者がわらわらと出現するアクション小説としては面白いが、宝探しの伝奇時代物としてはちょっともの足りないなあ。あと、主人公が強すぎ(運も含めて)。

裁きの廣野 C・J・ボックス 講談社文庫
正義と家族愛と大自然を背負ったヒーロー、ワイオミング州狩猟管理官<ジョー・ピケット>シリーズ5。主人公は正義の人なので周囲に敵が多い。今回はその「悪意」に心を折られそうになる姿がちょっと痛ましい。でもいきなり次作か面白そうなのだが。

尋問請負人 マーク・アレン・スミス ハヤカワ文庫
主人公は拷問のプロ。しかも自身の過去の記憶がない……。まあ、そういうありがちな話だった。

萩を揺らす雨 紅雲町珈琲屋こなみ 吉永南央 文春文庫
珈琲屋のお婆さんのおせっかい探偵帖。しみじみと淡々と適度にウェットな連作短編。

4月

どしゃぶりが好き 須藤康貴 光文社文庫
私立高校の弱小アメリカンフットボール同好会を舞台にした青春小説。主人公は顧問の教員だが、青春と言っておいていい。ま、競技としてのアメリカンフットボールの面白さは伝わってくるが、小説自体としてはフツウ。

パイレーツ−略奪海域− マイクル・クライトン ハヤカワ文庫
クライトンの死後PCから発見されたという未発表長編。海賊冒険もの。これ、映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」の人気に商売人としての血が騒いだんだろうな。わりと書き飛ばした感もある。B級っぽい。

黄昏に眠る秋 ヨハン・テリオン ハヤカワ・ポケット・ミステリ
冬の灯台が語るとき ヨハン・テリオン ハヤカワ・ポケット・ミステリ
スウェーデン・ミステリ。「秋」はスウェーデン推理作家アカデミー新人賞、英国推理作家協会賞最優秀新人賞を獲得。「冬」はスウェーデン推理作家アカデミー最優秀長篇賞、英国推理作家協会賞インターナショナル・ダガー賞、北欧「ガラスの鍵」賞を獲得。スウェーデンの辺境にあるエーランド島を舞台にした連作。どちらも「死者の魂」が色濃く扱われている秀作。ひたすら地味だけどね。あとは春と夏で四部作になるらしい。

運命の日 デニス・ルヘイン ハヤカワ・ミステリ文庫
1919年に実際に発生した「ボストン市警ストライキ&大暴動」をテーマにした大長編。たいへんな力作で良質な作品だが、読後の疲れも半端ではない。他人におすすめするのはちょっと難しい。

奔る合戦屋 北沢秋 双葉文庫
戦国痛快アクション「哄う合戦屋」の前日談。なるほど、あれにはこういう訳があったのか。小説自体のデキもこっちの方がいい。

評伝シャア・アズナブル≪赤い彗星≫の軌跡 皆川ゆか 講談社文庫
シャアの評伝だよ! キャスバル・レム・ダイクン〜シャア・アズナブル〜クワトロ・バジーナ、そして、宇宙世紀0093年までのシャア・アズナブル。彼の行動と発言をベースに人物像を描き出した力作だよ。個人的にはZZまでは追いかけていたのでほぼ全部理解できたよ。文庫カバーは安彦先生の描く33才のシャアだよ。シャア好きガンダム好きなら絶対読んでおけよ。

3月

ゴールデン・パラシュート デイヴィッド・ハンドラー 講談社文庫
風光明媚で伝統的な郊外に暮らす映画評論家と女性駐在警官<ミッチ&デス>シリーズ5。物事は見かけ通りではない、という富豪家族の暗部と犯罪。連続テレビドラマみたいになってきた。面白いんだけど、シリーズ途中からだと人間関係が全然わからないと思う。

眩暈 東直己 ハルキ文庫
札幌の私立探偵<畝原>7。真面目な方のシリーズ。この作者のバカ(年齢に関係なく)の描き方にはほんとに愛がなくてリアル。このシリーズはいつも内容的にちょっと重たい。

アコギなのかリッパなのか−佐倉聖の事件簿− 畠中恵 新潮文庫
元大物政治家の事務所職員の青年が、自身に押しつけられた無理難題をそれなりに解決していく連作短編。良くも悪くもあっさり味。

つばくろ越え 蓬莱屋帳別控 志水辰夫 新潮文庫
飛脚問屋蓬莱屋の道中飛脚の男達を描いた枯れ味たっぷりの連作短編(中編?)。ちょっと異質な股旅人情ハードボイルド。

羆撃ち 久保俊治 小学館文庫
伝説の羆猟師の自叙伝。どのように伝説なのかは読めばわかります。アウトドアライフなんていう甘っちょろい生き方ではない、本物の自然と対峙して生きる男に感動。

裏返しの男 フレッド・ヴァルガス 創元推理文庫
特異な警察署長<アダムスベルグ>シリーズの2作目。1作目は読んでない。アルプスの村を襲った狼騒動と殺人事件。フレンチ・ミステリらしい(?)不思議な緩さとへんてこな人間描写の絶妙なバランス。しかしコメディではありません。

野蛮なやつら ドン・ウィンズロウ 角川文庫
近年のウィンズロウのテーマであるカリフォルニアと麻薬戦争の複合技。暴力的で無軌道な物語といえなくもないが、どこか透明感があるのはいつもながらの味。そんで、原文に沿った文体なのだろう、文章のキレが抜群にいい。

1-2月

扉は今も閉ざされて シェヴィー・スティーヴンス ハヤカワ・ミステリ文庫
変質者に誘拐監禁されていた女性の体験談と再生への足取り。モノローグ形式がリアル感と苦難を際立たせている。どうしようもなく重たい話なのかと思ったが、ヒロインの精神的な逞しさが輝いてもいる。辛い話だけど、なかなかの佳作。

ススキノ・ハーフボイルド 東直己 双葉文庫
ボーイズ、ビィ・アンビシャス 東直己 双葉文庫
少年(高校生から大学生に)を主人公にしたススキノ事件簿。舞台を同じくする「名無しの俺」や「畝原」シリーズのサブストーリーでもあるので、同じ光景(事件)を視点を変えて見ることができる面白さがあるね。

疑心−隠蔽捜査3− 今野敏 新潮文庫
原理原則一本道の堅物キャリア警察官僚<竜崎伸也>シリーズ。今回は所轄署長でありながら要人警備の責任者に任じられた竜崎の公私にわたる混乱と葛藤が主軸。まあ本人は混乱とは微塵も思っていないのだが。このシリーズは主人公のキャラ設定が特殊過ぎて、そこが面白い。

海翁伝 土居良一 講談社文庫
信長、秀吉、家康の時代に蝦夷地の大名となった蠣崎=松前家の季広、慶広という二代の生涯。戦わない商家大名という観点は面白いです。それだけ。

宗谷の昭和史−南極観測船になった海軍特務艦− 大野芳 新潮文庫
昭和13年から50年に渡って日本の歴史を生き抜いた「宗谷」を綴ったノンフィクション。面白いなあ。竣工から退役までドラマありすぎ。ただ、船史として考えると戦時中のサバイバルと南極観測隊成立暗黒裏話に力が入りすぎてる気もする。

廃墟に乞う 佐々木譲 文春文庫
直木賞受賞作である表題作を含む連作短編。休職中の道警刑事・仙道孝司を探偵役にしたローカル事件簿。精神的なダメージで休職中という背景が効果的。なんというか、ひたすら地味だけど心に染みるものがある。

真鍮の評決 リンカーン弁護士 マイクル・コナリー 講談社文庫
リンカーン弁護士<ミッキー・ハラー>2。今作はハリー・ボッシュとの共演がテーマである。コナリー世界では違う作品の主人公同士がクロスするのはよくあることだ。しかし、ボッシュをこんな使い方で、ボッシュを出してこんなオチで、いいのだろうか。ちょっと評価に迷う。もちろんリーガルスリラーとして一級品に仕上がってはいるのだが。

田舎の刑事の趣味とお仕事 滝田務雄 創元推理文庫
田舎の刑事の動物記 滝田務雄 創元推理文庫
田舎町の刑事が名推理で難事件を解決していく連作短編。コメディなので、迷推理で何事件を、正しいのか。深夜のTVドラマ「デカ黒川鈴木」の原作と知って読んでみたのだが、ドラマよりずっと面白い。意外な拾いもの。

シノダ! チビ竜と魔法の実 富安陽子 新潮文庫
妖狐のお母さんと人間のお父さんと不思議な力を授かった子供たちの日常ファンタジー。あまりに日常すぎてもの足りない。あ、コドモ向けなのか。

木練柿 あさのあつこ 光文社文庫
元武士の商人・遠野屋清之介と冷笑家の同心・木暮信二郎の友情だか対決だかを事件帖の形で描くシリーズ3。今回は連作短編。孤独感と透明感と虚無感が半端ない。でも最後は暖かいのでクセになるのだなぁ。

武士道エイティーン 誉田哲也 文春文庫
剣道女子!シリーズ最終巻(?)。宿命の対決はさておき、香織、早苗、それぞれの語りに加え、今作は第三者のエピソードも彼ら自身の口から語られる。それが意外とよかったりする。うん。

ミスター・クラリネット ニック・ストーン RHブックスプラス
主人公は元警官・元私立探偵・元受刑者にして人捜しの名人。そんな男が無政府状態のハイチで行方不明の少年を捜すという話。ハイチ/ヴードゥー教のドロドロ感と暴力が怖い。簡単なハイチ史のテキストにもなる。してもしょうがないが。

パーフェクト・ハンター トム・ウッド ハヤカワ文庫
完全無欠の暗殺者が自分を狙う謎の組織と対決するという、ひたすら乱暴な話。展開がやたらと早いので「んなわけねーよ」と思う以前に先へ進んでしまう。なので読み終わってもなにも残らない……

アイアン・ハウス ジョン・ハート ハヤカワ・ミステリ文庫
デビュー以来ひたすら「家族の絆」について真摯に書き続けているジョン・ハートの4作目。テーマの重たさはいつも通りだが、珍しく(?)派手なドンパチシーンがいっぱいある。各方面で高評価され、3作連続(!!)での全米探偵作家クラブ賞(MWA賞)最優秀長編賞受賞を達成するのではないかと言われているようだ。確かに面白いし深いし高水準ではあるけれど、そこまで飛び抜けてるかなぁ。個人的には「遺伝ネタ」はちょっといかがなものかと思う。


2011年12月ころ以前に読んだものはこちら。
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