植物雑記
       vol.4   サボテン科・属別解説 2
                「A−B」    
               
'05年9月4日           
               

<アルトロケレウス属 Arthrocereus>

 日本ではあまり馴染みがない属ですが、花が美しいため欧米ではよく栽培されています。ブラジル産の小〜中型の細柱サボテンで、夜咲きの白〜桃色大輪花は、孔雀サボテンのようでとても豪華です。 A.rondonianus は、金刺に覆われた球体から、濃いピンクの大輪を咲かせる美種です。私は実生中苗までの栽培経験しかありませんが、比較的肥沃な用土で、たっぷりの水と光線を与えるとすくすく元気に育ちます。数年で開花サイズに達すると思われます。ブラジルの温暖湿潤な有刺低木林などに産するので、寒さはあまり好まないでしょう。


<アストロフィツム属 Astorophytum>

 云うまでもなく、もっともポピュラーな栽培サボテンの一群。一部テキサス州に分布するを除いてはいずれもメキシコ産です。かつては金鯱太平丸と同じエキノカクタス属に含まれていたもので、形態や性質もよく似ており、丈夫な"サボテンらしいサボテン"です。表皮に羽毛状の白点を多数有し、これが星を散りばめたように見えることから、一般に「有星類」と呼ばれています。日本はこの属の園芸種作出では世界の先頭に立っており、白点の濃密なや、ランポー玉の様々な変異体、さらにそれらの斑入りなど、品種名は枚挙に暇がありません。一方で人手を加えずとも十分魅力的なこれらの原種(オリジナル)はなかなか見かけなくなりました。
 私にとっても有星類はサボテン栽培の原点とも云うべきもので、入門したての中学生の頃に、大枚はたいて購入した瑞鳳玉大鳳玉白ランポー玉など、25年以上たった今も温室に鎮座しています。当時の私にとっては想像を超えるくらい高価だった輸入の兜なども、20年あまりで直径17センチほどにまで達し、天寿をまっとうしました。それだけ栽培の易しいサボテンだと云うことで、寿命がこない限り滅多と枯れることはありません。ことにランポー玉、瑞鳳・大鳳玉、般若などは、枯らそうと思っても枯れないほど丈夫です。
 いずれの種も陽光と高温を好み、春〜秋(4月〜10月・関東)が生育期です。陽当たりの良いハウスか温室で、たっぷり水を与えて育てますが、冬は水を減らして(あるいは切って)休ませます。赤玉や鹿沼などを主体にし、中性〜アルカリ性に調整した用土が適しており、腐植質たっぷりで育てる人もいます。はよく腐る、と昔は云われたものですが、これは当時の温度が保てないフレーム等で冬〜春先に水を与えていたためでしょう。は標高の低い平野部で、年中蒸し暑いような環境に生育しています。このため日本の寒い冬は苦手で、最低温度10度を下回る場合は半休眠〜休眠させた方が無難ですが、台湾やタイなどの亜熱帯〜熱帯地域では一年中元気に成長するそうです。
 有星類は実生も容易で、種も大きくてよく生え、数年で開花サイズに育ちます。丈夫で世代交代が早いため育種もどんどん進んでいますが、近年では血が濃くなった結果、スーパー兜なで矮化が起きたり、変異ランポー等にも育てにくいものがあるようです。海外の趣味家に変異ランポーの写真を送ったら「なんでこんな病気の植物を育てるのか」と云われたことがありますが、園芸的珍奇度の高いものには、ウイルス感染と思しきものや病変に近い奇形も多々あり、その分短命な植物もありそうです。なんにせよ、この分野の日本人の感性の尖り方は世界の追随を許さないと云ったところでしょうか。


      兜(古い野生株)           白ランポー玉(実生15年)    
   A.asterias (Tamaulipas, MEX)    A.myriostigma "coahuilense"


 私は例によって有星類でも原種主義ですが、野生種そのままの、星空のように白点を散らした上品な兜など、なかなか得難くなってきました。瑞鳳玉群鳳玉なども案外稀少になっていますが、なかなかに味わい深いサボテンです。ランポー玉系は、現在 A.myriostigma 一種に統合され亜種も認められていませんが、野生種には様々な魅力的タイプがあります。なかでも白ランポー玉("coahuilense")は、私のもっとも愛するサボテンのひとつ。古い輸入球(山木)とその子ども達を育てていますが、どれも整然とした厚稜をフェルトのような白点が覆い見事な姿です。どんなトリッキーな園芸変異種も、究極はこの野生種の美的完成度に及ばないように思えます。ほかにもトゥーラ産で、白ランポーに似たフェルト白点を持ち稜背が厚く育つ "tulense" や、柱状に丈高く育つランポー閣("columnare")、また、薄稜で上から見ると星形に育つポトシランポー玉("potosinum")など、国内ではなかなか見つけにくくなりました。ふっくら稜で人気のストロンギロゴヌム("strongylogonum")にも、産地ごとにいろいろな顔があるようで、これらを含め、ランポーこそ産地種子でタイプ違いを集めるのが楽しいサボテンでしょう。
 もうひとつ、最近、メキシコ・ヌエボレオン州で、アストロフィツムによく似た大変興味深い新種サボテンが発見されました。Digitostigma caput-medusae と命名されたこの植物は、地下に塊根を持ち、地上にはアガベのように"指状"の疣(稜)を重ねて育ちます。この指状の植物体はアストロフィツム属のような白点を有します。また黄色の花も有星類にとても似ており、当初アストロフィツムに分類されたのもあながち誤りではないでしょう。大変珍奇な姿で、栽培家を惹き付けずにはおかないサボテンです。自生地が乱獲で破壊される前に、人工的に繁殖された植物が流通することで、趣味家のニーズが満たされればいいのですが。


<アウストロカクタス属 Austorocactus>

 南アメリカ南端のパタゴニア(アルゼンチン及びチリ)一帯に分布する魅惑的なサボテン。分類の上ではコリオカクタス(Corryocactus)に近縁とされますが、姿は北米のエキノケレウスやスクレロカクタスなどを想起させる感じで、やや丈高い球状に育ちます。多くは黒〜褐色の強いカギ刺で武装し、花も桃色・オレンジ・黄…それらの入り交じった複雑な色あいで、濃色の柱頭とのコントラストが見事なものが多い。A.bertinii, A.coxii, A.patagonicus など、いずれも撥ねるような黒白のカギ刺とメタリックな花色が魅力的な種です。こんなに魅力的なのにあまり栽培されないのは、やはり難しいから、と云うことでしょうか。
 パタゴニアはアルゼンチン、チリの南緯40度以南(日本の北緯40度が盛岡・秋田付近)を指し、激しい風が吹き渡る平原や南部のフィヨルドなどで知られる最果ての寒冷地です。サボテンではクッション植物として有名な笛吹Maihuenia poeppigii)等が自生していますが、種数は少ない地域です。このパタゴニアを故郷とするアウストロカクタスも、冷涼な気候に適応し高温多湿には弱いものと思われます。自生環境はペディオ・スクレロなど北米高地難物種に通ずるところもあります。笛吹は周年屋外で雨にあてると元気良く、温室に入れると萎びますが、アウストロカクタスは同じ屋外栽培でも、より乾燥がち(雨よけ)な環境を欲すると想像します。実際は大半が接ぎ木で栽培されているようです。
 世界的にも最も珍奇稀少なサボテンですが、日本の業者や栽培家ではめったに見つかりません。私はかつて接ぎ木苗を入手栽培したことがありますが、栄養繁殖を繰り返した苗で肌刺の汚れも激しく、花も咲きませんでした。台木を外し根おろしを試みましたが、これも出来ませんでした。輸入種子の実生も何度か試みましたが、市場流通の種は殆んどが古いためか、まず発芽しません。そんなわけで、いまだ栽培経験がないに等しい一群ですが、そのぶん憧憬の念も強まり、いつか実生正木で花を咲かせてみたいと願ってやまぬ植物です。

         
          Austrocactus gracilis
(photo by Y.matsuo)


<アウストロケファロケレウス属 Austrocephalocereus → Espostoa >

 
<アウストロキリンドロプンチア属 Austrocylindropuntia>

 
直訳すれば「南米棒状ウチワサボテン属」と云ったところ。巨大なオプンチアファミリーのなかでも中核を担う大きなグループです。ウチワサボテン亜科(Subfamily Opuntioideae)の特徴は刺座にglochid(芒刺)と呼ばれる微細で抜けやすい刺束を有していることですが、これはウチワサボテンを扱ったことのあるひとなら誰でも体験している、あのチクチクと抜けにくいやっかいな刺です。実はこの広義のオプンチアには、北米のいわゆる団扇サボテン(Opuntia)や南米のテフロカクタス(Tephrocactus)、黒竜などのプテロカクタス(Pterocactus)、さらには麒麟ウチワペイレスキオプシス(Pereskiopsis)なども含まれています。また、アウストロキリンドロプンチア属のサボテンは、若い茎節に、後に脱落する肉質の小葉をつけます(下右写真)。これは麒麟ウチワ等にも見られます。
 アウストロキリンドロプンチアは、その名のとおり長細い茎節を上へ上へと積み重ねながら成長してゆくサボテンで、南米のペルー、ボリビア、アルゼンチンなどの、広範囲に分布しており自生環境は様々です。このため形態の幅が広く栽培上のクセや鑑賞上の魅力も一様ではありません。細長い棒状(柱状)に育ってゆくタイプは概ね栽培しやすく、花つきも良好なものが多い。このタイプは春〜秋にかけ、十分灌水して育てます。またオプンチア全般に言えることですが、寒さには強い。より太い棒状の A.pachypus や 小さめの茎節を重ねるA.verschaffeltii なども美しい赤花を咲かせる魅力的な種で欧米では人気があります。アンデスの4000m級の高原地帯(Altiplano)に産し、マット状に育つA.punta-callian や白毛をマントのように纏う A.floccosa (よくテフロに間違えられています) は大変美しいサボテンですが、栽培はとても難しい。私の経験では、弱酸〜中性でミネラル豊富な用土に植え冷涼期に育てるのが良いでしょう。ホウ素欠乏症にかかりやすいようです。
 さて、この属も含め、ウチワサボテンと云うだけで日本では不人気種になってしまうのですが、最近はテフロカクタスマイウエニオプシスなどは作る人が増えてきたようです。この属にもそれらに通じる"玉型"っぽい種類もありますし、棒状のものでも、春から秋までずっと花が咲き秋冬は赤い実が美しく、屋外(関東)放置でよく育つ A.salmiana のような種もあります。、あまり知られていないだけに、自分の目利きで鑑賞価値のある植物を探す面白さもありそうです。国内業者はまず扱っていませんが、海外業者のリストにはあれこれ探せるでしょう。

     
 Austrocylindropuntia salmiana FR 452        A.verschaffeltii                 La Rioja, Argentina             (=A.inarmata)  


<アズテキウム属 Aztekium>

 
生死も定かでないような、硬く縮こまって埃っぽい球体。白く小さく寂しげな、地味なことこのうえない花…。この属の人気種、花籠(A.ritteri)は、かつて最も安価に買える輸入サボテンのひとつだったと思います。四半世紀前の、ワシントン条約締結前夜とでも云うべき時代。当時中学生だった私にとって、大型の牡丹や良い顔の兜などは望むべくもありません。数千円でなんとか買えた花籠や黒牡丹の輸入球は、沙漠の香りを届けてくれる小さな使者でした。やっとの思いで手に入れた、これら"地味系"野生サボテンを、日ごと夜ごと矯めつ眇めつしたものです。そして彼らの枯れた味わいに深く憑かれていったのでした。無数の襞を重ね、翡翠のように絶妙な色合いの肌、硬く締まった重たい質感…花籠にはパッとする派手さこそありませんが、いかにも長い年月を生きてきた、といった風格の滲む飽きの来ないサボテンです。そのうえ丈夫で長生き。当時安かった花籠は、歳月を経たいま青々した群生株となり、我が家では稀有な"高級サボテン"になりました。
 その後、'90年にはより大型に育つ新種ヒントニーA.hintonii)が発見されました。花籠は長年1属1種と考えられており、衝撃的なデビューでした。花籠もそうですが、成長が遅いこともあって、栽培家はどうしても野生株が欲しくなります。このヒントニーは、ワシントン条約がかえって希少価値(市場価格)を煽り、結果、野生個体の採集に拍車がかかると云う実に皮肉な現象を引き起こしました。日本では、いまも明らかな山採り株が堂々と流通したり、品評会を飾っています。これはアジア的寛容と云ってすまされることかどうか…。せめても幸運だったのは花籠ヒントニーもタイプ差に乏しかったことです。おかげで兜や牡丹類のように、良タイプを求める人たちによる際限のない盗掘は免れたように思えます。いまでは実生育成株も流通するようになりました。憧れのサボテンが、故郷の山野から絶えてしまうのは寂しいことですが、そうなるもならないも、愛好家の想像力に委ねられる部分が大きいと思います。
 栽培面では、花籠ヒントニーもかなり丈夫な部類に入ります。成長は極く遅鈍ですが、春〜秋の成長期は鉢土が乾上がることのないよう、コンスタントに水を与えてやれば、青々元気に育ちます。用土は土系が良いようです。日焼けしやすいので、夏季は若干遮光するほうが無難です。実生は、種が極小のため、ピートモスや粘土など乾きにくい細かい用土に植え、水を切らさず育てます。3〜5年で1センチくらいになれば、あとは普通の管理。見応えのあるサイズに育つまで30年かけるつもりで。この気の長さが、サボテン栽培のスケールの大きさであり魅力だと思います。野生株もいったん根づいたものは丈夫で、私のところには25年物の花籠が2本ありますが、これまでちょっとした日焼け以外なんのトラブルもありませんでした。接ぎ木は雰囲気が変わってしまいますが、下ろして10年作れば、正木のような風格が備わってくるそうです。これもまた気の長い話ですが。

        
        花籠 Aztekium ritteri (古い野生株…作り込み25年)



<バッケベルギア属 Backebergia → Pachycereus>


<ベルゲロカクタス Bergerocactus>

 
北アメリカ西海岸沿いに分布する細柱サボテンで、B.emoryi 一種からなる属です。黄金色の刺がビッシリと密生する美しいサボテンで、海岸砂丘に一面叢生する自生地での姿は見事なものですが、残念ながら栽培経験がありません。海外でも栽培例は少ないようです。刺が痛すぎるからでしょうか。温暖な海沿いに自生するため、陽光と適度な水分があれば、日本の人工環境下でも順調に育つと思われます。大きなハウスがあれば是非トライしてみたいと思っています。
 またこの種と、武倫柱(pachycereus pringlei)のあいだの属間自然交雑種として有名なのが、×Pacherocactus orcuttii (=×Pachgerocereus)です。バハカリフォルニアの El Rosario 付近で極く稀に見つかるそうで、19世紀に発見されて以来、永く謎のサボテンでした。実物は、金褐色の強刺が密生するなかなか迫力あるもの。下の写真はその幻の柱サボテン、貴重な実生苗です。

         
          
Pacherocactus orcuttii (photo by Y.matsuo)



<ブロスフェルディア属 Blossfeldia>
    

 "最小のサボテン"としてつとに有名ですが、このサボテンの特異さはその小ささだけではありません。生態そのものがサボテンより苔に近いような植物で、掟破りの点だらけ。じっさい栽培してみても興味の尽きることがありません。
 松露玉(B.liliputana)は球体の径わずか1センチ前後、おおむね単頭ですが、群生することもあります。花も径1センチ弱の白〜淡黄色で、自家受精して菊水のような微小な種子を実らせます。ともかくなにからなにまで小さいサボテンです。ブロスフェルディアには他にもいくつかの種、亜種があげられていますが、大差はなく、いずれもB.liliputatna に統一されるものと考えられています。自生地は南米・ボリビア〜アルゼンチンで、南北に1000キロ以上、標高1200-3500mと云う実に広範囲に分布しています。しかし何処にでも生育しているわけではなく、おおむね切り立った岩の割れ目のような場所に限られていて、苔や地衣類とともに生えています。長い乾期には激しい乾燥と暑さに見舞われる場所です。岩の亀裂、数センチの隙間にたまった僅かな泥に身を埋め、乾期には干からびたキクラゲのような姿で、およそ生きている植物には見えず、いっぽう雨の季節が来れば水を吸って国内の栽培品のように青々丸々とした姿になるそうです。
 
         
        
  Blosfeldia liliputuana in habiat(自生地)

 ブロスフェルディア
の最大の特徴はその表皮にあります。見たことがある人は解ると思いますが、生ゴムのような、皮膚を剥いた肉が露出しているような不思議な質感です。殆んどのサボテンは、表皮からの水分蒸散を防ぐため、程度の差こそあれ硬いクチクラ層をまとっています(牡丹類等が典型)。しかしこのクチクラ層がブロスフェルディアの表皮には欠如しているのです。もうひとつ、ブロスフェルディアの表皮には決定的なものがありません。それは気孔です。通常、高等植物は呼吸や炭酸同化に伴うガス交換と、蒸散の水蒸気の通路として気孔と呼ばれる孔を表皮(普通は葉の裏面)に多数持っています。これがブロスフェルディアには殆んど存在しないのです。では、どうしているのか。ガス交換や蒸散(または吸湿)は、おそらく、刺座まわりの隙間か、クチクラを失い半透膜に近い表皮からダイレクトに行っていると推察されます。このブロスフェルディアのように気孔が少ない植物は、およそ炭酸同化を行うすべての植物のなかでも極めて稀であると、Andersonも驚嘆している程です。では、苛烈な環境に生きている最も小さなサボテンが、クチクラもなく、水も空気も素通しの丸裸に近い姿をあえて選んだのは、いったい何故なのでしょうか。
 おそらく、これほど小さい植物体であっては、多少のクチクラなどまとっても水分は保持しきれないのでしょう。そこでブロスフェルディアは逆説的な戦略を選んだのです。即ち、周りの土が乾上がるときには自分もカラカラに乾涸らびてしまい、土埃同様の姿となる。そしてひとたび雨が降れば、今度はたちどころに吸水し元通りになる…そんな生態が自生地では実際に観察されています。これは、共生している苔や地衣類、またイワヒバなどとよく似た生活サイクルですが、サボテンではここまで極端なものは他にありません。


松露玉 B.liliputana KK2137 Zudanez 2800m,Bol. B.liliputana Mizque 3200m,Bol

 さて、このブロスフェルディアの栽培ですが、"最小"というスペックが惹き付けるのか、昔から誰もが一本は持っている、というサボテンでした。もっとも、自根(正木)で育てるのは不可能と思われていたため、流通していたのはもっぱら栄養繁殖による接ぎ木のみでした。しかし、接ぎ苗は不健全に膨れて野生個体とはかけ離れた姿となり、魅力を減じていました。最近になって状態の良い輸入株が導入されるようになり、実は自根でも育てられることが判ってきたのです。健康な輸入球であれば、当初、たっぷりめに水を与えてやれば青々としてきます。根は出ても微小で、やはり球体表面からも吸水しているように感じます。もともと岩の割れ目で土にまみれて生えているので、長時間の直射日光では焼けやすく、軟らかい光線があたり空中湿度も保てる場所がベスト。ちょうどハウォルシアが好むような環境に置くと元気です。しかし、輸入球は根部に腐敗が入っているものも多く、こうした根の悪い個体は、いったん膨らんでも腐りがあがってダメになるようです。以上は、あくまで青々と園芸的に美しく育てる方法。でも、自生地での姿を見ると、また違った欲も湧いてきます。
 先に述べたように野生では、乾期にヒモノとなり雨期には丸々緑豆の如く…を繰り返している松露玉ですが、上の栽培法ではどうしても"青々丸々"の状態を続けることになりがちです。ブロスフェルディアの魅力の半分しか目にしていない、とも云えます。私のところで、長年元気だった個体が、根も球体もまったく健康なのに突然アタマから腐死した、と云う経験があります。一見元気に育っているようで、実は不自然な環境下で不健康だったのかも知れません。いま考えているのは、元気に活着した個体には、野生同様のサイクルを体験させてやろうということ。温暖湿潤、軟光線の快適なハウスから出して、半屋外のような環境で一年くらい水を切り、キクラゲよろしく薄っぺらに反り返るくらい乾かしたらどうなるか。そして反対に水漬けのようにしたらどのくらいで息を吹き返すものなのか(あるいは腐るか)。などなど、是非とも試してみたいと思っています。そうしてこそ、掟破りの凄チビサボテン、松露玉の本当の魅力に触れることが出来そうなので。



(次回 Brachycereus へ続く)





                 

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