植物雑記
       vol.6   サボテン科・属別解説 3
                  「B-C」         

                '06年2月19日             

 

 
 柱サボテン系の、比較的知られていない属が続きますが、なかには素晴らしい種類も含まれています。特徴を良く表した写真が少なくて恐縮ですが、下記の属の写真資料(栽培、自生地)をお持ちの方がおられたら、ご提供頂けると大変嬉しく思います。



<ブラキケレウス属 Brachycereus>

 サボテン愛好家よりも、むしろ一般の生物学者やナチュラリストたちに広く親しまれている植物。 ガラパゴス諸島のみに稀産し、波をかぶる不毛な溶岩の上にマウンド状に群生する小型の柱サボテンです。この属はBrachycereus nesioticus一種からなり、南米本土に産するアルマトケレウス(Armatocereus)に近縁とされ、形態的にはハーゲオケレウス(Haageocereus)にもよく似ています。植物体は一頭の径が5−7cm、高さ50cmほどと小型ですが、総計1mを超える数十頭立ての大群生に育ちます。花は昼咲きで白色大輪と記載されています。
 自生地では、黒い溶岩に球体に密生する黄金の刺が映え、大変美しいと同時にタフな生命力を感じさせる魅力的なサボテンで、ガラパゴスを旅する多くの人に強い印象を残すようです。刺が美しく小型なので栽培植物としても有望ですが、種子も苗が入手困難です。もし、栽培することが出来るとすれば、近縁のヤスミノケレウス(Jasminocereus)同様、温暖な環境と強光線を与え、やや酸性の用土で気長に育てる植物だと思います。下記に自生地写真等のあるサイトをご案内しておきます。

参考写真@ 参考写真A 参考写真B


<ボルジカクタス属 Borzicactus → Cleistocactus,Matsucana>

<ブラジリカクタス属 Brasilicactus → Parodia>

<ブラジリケレウス属 Brasilicereus → Cereus>


<ブラジリオプンチア属 Brasiliopuntia → Opuntia>

 オプンチア属に準じますが、この属は有名な団扇サボテン葉団扇(Brasiliopuntia brasiliensis)一種からなる属です。ブラジル、ボリビア、パラグアイなどの比較的湿潤な疎林〜灌木地帯に生え、高さ15m以上の巨大な灌木になります。花は黄色。大変適応能力の高いサボテンで、世界の温暖地で野生化しており、日本にも古くから導入され暖地では露地栽培の古木がみられます。皆さんもどこかで見たことがあるかと思います。



<ブロウニンギア属 Browningia>

 南米柱サボテンのなかでもっとも有名な種、"燭台サボテン"ことカンデラリス(群蛇柱・Browningia candelaris)を含む属です。高さ5-10mの大きな柱状に育ち、花は夜咲き。ペルー、ボリビア、チリのアンデス西側の沙漠地帯が主産地で、おおむね乾燥の厳しいガレ山に自生しています。
 代表種カンデラリスは、世界のサボテン愛好家に「自生地で見たいサボテン」を訊ねたとき、おそらくベスト5には入るであろう銘品ですが、その姿はまさに奇天烈そのもの。刺だらけの幹が1本、電柱のように真っ直ぐに天を突きます。その突端から刺のない幹が何本も分岐し、無数の蛇がもつれ合うかのように主幹に絡みつきます。学名はその形態を多数の蝋燭を載せる燭台になぞらえたもの。一木一草ない荒涼たる風景を背に立つ姿はなにやらデモーニッシュなものを感じさせます。下の方は刺だらけなのに上からは刺のない幹が出る理由について、丈が伸び外敵に齧られる心配のない高さに達した後は、この厳しい環境下、刺にエネルギーを費やすゆとりもないから、と解説する専門家もいます。…ともかく、見れば見るほど不思議な姿です。

             
           群蛇柱 Browningia candelaris near Nazca, Peru 
 
 栽培してみたくともなかなか入手困難ですが、たまに山採りの種が海外業者のリストに載ります。新鮮であればまずまず発芽します。多湿には弱そうなので乾燥がちに育てていますが、成長は遅く数年たっても高さ数センチといった感じ。刺なしの幹が出る「燭台」の姿を実現するには100年の単位がかかってしまいそうです。まあ、自生地での姿を瞼の裡に思い描きながら、小さな実生を愛でる、といった趣きでしょうか。この属には他にも魅力的な種があり、B.alitissimaは、整然とした稜が美しく、B.hertlingianaは、青肌に金刺が映えます。むしろこれらのほうが、栽培植物としてはカンデラリスよりもふさわしいかも知れません。下記は自生地写真等のあるサイトです。


参考写真@ 参考写真A 参考写真B


 
<カーネギエア属 Carnegiea>

 西部劇に出てくる、フォークを立てたような柱サボテン、知らない人はいない、"ザ・サボテン"です。カーネギエア属は、アリゾナ州南部、カリフォルニア州東南部〜メキシコ北部のソノラ沙漠に自生する巨大な柱サボテン、弁慶柱(Carnegiea gigantea)一種から成ります。30ほどの稜からなる幹は径80cmまで太り、高さは15mを超える堂々たる姿になります。長ずると幹半ばから分岐し、両手を挙げて立つ人のようにも見えます。発芽してから、高さ6mあまりに育って最初の枝が出るまで、100年近くかかると云われています。花色は白で、幹の頂部から群開します。昼夜を通じて閉じることのない花は、昼は蜂や鳥によって、夜はコウモリによって授粉されます。現地のネイティブアメリカンたちはSaguaro(サワーロ)と呼び、果実をジャム状に加工して食したり、ワインをつくりました。また幹を木材として利用したこともあったそうです。実際、果実は種こそ多いですが中は鮮やかな赤色で甘みがあり、食べられます。
 米・アリゾナのツーソン近郊には公園になっている自生地も数多くあり、車でも容易に見学できます。フェロの金赤龍や、マミの紫金龍、フォークイエラ科の尾紅寵などと一緒に、なだらかな山裾のような場所にコロニーを形成しています。そうした場所では、とにかく一面に林立する姿に圧倒されますが、密度の高いコロニーはそれほど広範囲ではなく、少し外れると、ポツン、ポツンと、元気のない株が散見されるだけとなります。大きいので目立ちますが個体数は決して多くありません。アリゾナでも住宅開発が進み自生地は減少しつつあり、稀少植物として保全を考えるべきでしょう。
         
             
             弁慶柱 Carnegiea gigantea near Tucson,AZ,USA 

 栽培は容易で、陽光と通風を好みます。成長期は十分水やりし、一般の北米サボテンと同様の環境でよく育ちますが、中苗以上の苗は、いったんこじれると数年動かなくなったりします。微量要素等の欠乏でこじれることもあるようで、大型種だけに小さな鉢で栽培する場合はそうした注意も必要でしょう。もっとも、植え替えて気長に待てばまた動き出しますので、枯れる心配はあまりありません。高く伸び根が深くなる傾向があるので、温室内で地植えできれば最高ですが、枝が出て”それらしい姿”になるまで育てるには気が遠くなるほどの忍耐が必要かも知れません。しかし鉢植えの高さ2-30cmの株でも、刺でみっしり覆われた姿はなかなか迫力があって、栴檀は双葉より芳し、と云った風情あり。是非、ひと鉢…。



<ケファロケレウス属 Cephalocereus>

 上記の弁慶柱(Carnegiea属)や武倫柱Pachycereus属)、亀甲柱Neobuxbaumia属)などと近縁の大型太柱サボテンで、メキシコに数種が分布しています。この属の分類はわりと混乱していて、上記の属に統合されたり、また分離されたり、と落ち着きません。ここではE.F.Aendersonに準拠し、上記3属は別属としハッセルトニア属(Haseltonia)はこの属に含む、と云う理解にしておきます。
 この属でなんと云っても有名なのは、"oldman cactus"こと翁丸(Cephalocereus senilis)でしょう。その名の通り、老人の髭のような白く長い毛髪状の刺をなびかせる姿は、多くの人を魅了してきました。金鯱や新天地などと並んで古くから親しまれ栽培されてきたサボテンで、私が初めてサボテン屋さんで買ったのもこの翁丸でした。しかし、美しく育てるのが案外難しいことや、古典園芸的な観点からは顔違いに乏しく値が付かないため、最近はあまり見かけません。実際、実生すると極小苗のうちは美しいのですが、なかなか太く育たないし、白毛も汚れやすいしで、うまく大球まで育てるにはかなりの栽培技術が要りそうです。各地の栽培名人に是非挑戦してもらいたいところです。

 ちなみに自生地では高さ10mを超える太柱となり、そうなると白毛は目立ちませんが、林立するさまは男性的でたいへん迫力があり、しばしば野生サボテンの勇姿として紹介されています。もう一種、かつてハセルトニア属にあった真皇(C.columna-trajani)も、長く突きだした刺が美しく、輸入球全盛時代には迫力ある山木をよく見かけましたが、いまはすっかり忘れられてしまったようです。いまのサボテン界は、なんとなく視野狭窄で素敵なサボテンが見失われているのでは、などと想いいたす銘品です。

            
           翁丸 Cephalocereus senilis Hidalgo,Mexico



<ケレウス属 Cereus>

 ケレウス属は、数あるサボテンの属のなかで最も古い名前のひとつで、18世紀半ばには最初の記載があります。かつては柱状に育つサボテンの大半がこの属に置かれていましたが、次第に別属に分離されてゆき、いまでは30種あまりがこのケレウス属に残っています。乱暴な言い方をすれば、取り立てて分離するような特徴のないサボテンが今もケレウス属に残っているわけです。この属の多くは、ハッキリした稜を持ち、枝打ちしながら灌木状に丈高く伸びる柱サボテンで、白〜桃色の夜咲きの大輪花を咲かせます。
 代表種はなんと言っても鬼面角Cereus peruvianus=C.repandus)で、関東以南であれば、概ね屋外で越冬し、地植えにすれば高さ数メートルの立派な姿となり、花も良く咲かせます。南向きの広い庭があれば是非1本植えておきたいものです。ほかに、青味を帯びた肌に鋭い黒刺が映える美種、阿聖(C.aethiops)や、大型の接ぎ台に使われるヤマカル柱(C.jamacaru)などがあります。栽培はいずれも丈夫で、肥沃な弱酸性の用土に植え、温暖期は十分灌水して育てます。



<シンチア属 Cintia>

 ボリビアの標高4000mの高地で発見され、1996年に記載された新しいサボテンですが、日本ではもうお馴染みです。この属ただ一種のサボテン、恵毛玉Cintia knizei)の学名は、発見者でもあるペルー在住のサボテン業者Karel Knize氏の名に、また和名は氏のフィールドナンバー"KK(ケーケー=けいけ)"に因んでいます。ほかにも、ナピナ、サブテラネア、など色々な名がありますが、現在は同じ種と考えられています。

          シンチア・恵毛玉 Cintia knizei KK1768 Otavi 3500-4000m Bolivia

 一頭の径が3センチくらいの小型種で、まれに群生します。地下には巨大な塊根を持ち、地上部は扁平でほぼ地中に没して生育します。刺のない艶やかな肌、頂部を覆う綿毛など、類をみない独特の姿が魅力的なサボテンです。花は梅花を思い起こさせる美しい形の黄花で、春先に良く咲きます。ネオウェルデルマンニア属(Neowerdermannia)、レブチア属・ワインガルチア属Rebutia=Weingartia)に近いとされていますが、種子や実生の生育形態など確かに似ています。また、花の色形は、小型のコピアポアとも似ています。 
 栽培は、アンデスの標高4000mに生えている植物を平地で育てているのだ、と考えれてみれば、随分容易な部類です。やわらかい弱酸性の土に植え、真冬と梅雨〜真夏を休眠させるようにします。実生苗は生育が遅いですが、じっくり気長につきあうべしです。接ぎ木苗は台木から外しても丈高くなり、地中に潜るような本来の姿に育ちません。



<キポケレウス属 Cipocereus>

 ブラジル東部を中心に分布する中型の柱サボテンのグループです。株立ちになりますが、高さは2-3mどまり。花は夜咲きの白花で、真っ青の実をつけます。栽培家にはあまり馴染みがありませんが、ユーベルマニアディスコカクタスなどとともに生えている写真などをご覧になったことがあるかも知れません。近縁のピロソケレウス(Pilosocereus)とは、独特の瑞々しい果実を持つこと等で区別されています。目にも鮮やかなインクブルーの果実は、現地では食用にも供されており、大変美味だそうです。
 
              
                 ブラディ Cipocereus bradei HU143
                 Minas Gerais, Brazil


 ブラデイ(Cipocereus bradei)、ミネンシスC.minensis)などは種子が業者のリストに載っています。前者は氷のような青肌でなかなか美しく、これに果実がたくさん実ったらかなり素敵だろうと、私も数本栽培しているのですが、開花まではまだかかりそうです。自生地は貧栄養の酸性土壌で、ユーベルマニアなどと同様、アルカリ土壌ではうまく育ちません。ピートモスなどを混ぜ込んだ用土で温暖期は十分な水分を与えて育てます。寒さには弱い筈ですが、同じ産地のディスコやアロハドアが溶けてしまうような低温でも平気な顔をしていますから、なかなかに頑健な植物なのでしょう。種をみつけたら、是非…。

果実・・・参考写真@ 参考写真A 参考写真B


(次回へ続く)





                  

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