水滸伝の時代背景について:
三国志が漢の終わりの時代から、三国鼎立の時代、そして晋が天下平定するまでのほぼ百年間を舞台とした物語である。(紀元後5−600年頃まで)
一方、水滸伝の方は宋(北宋)の時代の話(日本でいうと鎌倉時代の前、平安時代の中頃というところ)。 体制としては、帝がいて執政をする宰相を頂点に、政府があり、役人がいる。軍は宮廷を守る禁軍と地方軍がいる。宋の帝も何代にもなると、役人の不正がまかりとおり、賄賂が民を疲弊させていく。そこで国の中から立ち上がる叛徒の群れがあちこちに現れることになる。
宋の国の中にも王安石の新法が行われたが、賛成・反対の二つに割れ完全にはなされなかった。叛徒の中心に梁山泊が次第に勢力をつけ宋の国に対抗するようになる。
周辺国としては北の遼の国(契丹族)も内に女真族の叛徒が力をつけてきて、自分達の国を作る動きがあった。
水滸伝は中国の明の時代に書かれた小説で施耐庵あるいは羅漢中が講談として行われてきた北宋の徽宗(きそう)期に起こった叛乱を題材にした物語を集大成して創作されたとされる。ちなみに「滸」は「ほとり」の意味という。
水滸伝の主な登場人物: 詳細は別紙参照。
<梁山泊>
宋江、晁蓋、呉用、魯深義(後、魯達)、慮俊義、林沖、楊志、楊令、秦明、呼延灼、関勝など
<官軍・その他>
袁明、李富、童貫、聞煥章、蔡京、高求
王進、阿骨打
宋の国の地図
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物語の大筋: 3巻ずつに分け掲げる。
第一巻(曙光の章)
第二巻(替天の章)
第三巻(輪舞の章) |
宰相の蔡京(さいけい)が実権を握り、童貫(どうがん)元帥に大きな力を与え、高救(こうきゅう)に禁軍(政府官軍)を任せている。童貫の精鋭部隊は開封府(かいほうふ)にいる。
役人には賄賂が横行、政府内部は腐っていて、困っているのは民ばかり。民の困窮に立ち上がり、政府を転覆させるために密かに画策をし、反抗する同志を集め、反政府運動の中心となって結集させようとしているのが、宋江(そうこう)と晁蓋(ちょうがい)の二人である。
全国に網の目のように叛乱軍を組織するため、同志探しを魯智深、塩は当時の権力の象徴、大きな資金源となっていたため、塩の裏街道を整備する慮俊義、叛乱罪で禁軍を負われる禁軍の武術師範王進を逃したことで追求を受ける武術に長けた林沖(りんちゅう)の活躍、そのほか医者と薬師、忍びのものに相当する致死軍の設立、拠ってたつ場所の確保、心に弱さを持つ者などの教育・育成を受け持つ役としての王進など色々な分野に中心人物を見出し、生かす施策をうってくる。そして梁山泊を拠点にして“替天行道”の旗印の下、大きく一歩を踏み出した。 |
第四巻(道蛇の章)
第五巻(玄武の章)
第六巻(風塵の章) |
梁山泊の体制が次第に整い、江州での初めての闘いに出たが、林中の騎馬隊の応援で辛くも勝利する。一方、青蓮寺側の袁明も5千の騎馬隊を編成したり、高求将軍の役目替えとか、官側の体勢を立て直し、梁山泊への対抗策を打ち出し、人望の厚かった二竜山の総隊長楊志を暗殺、二竜山、桃花山を危機におとしめる。
さらに闇の塩の道を守る清風山を攻めたが、敗戦したことで、帝、蔡京が危機感をつのらせ、新しい参謀を青蓮寺に加え、官側の革新に動き出す。
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第七巻(烈火の章)
第八巻(青龍の章)
第九巻(嵐翠の章) |
梁山泊にとっての初めての本格的攻防戦、独竜岡(どくりゅうこう)の祝家荘を中心とする守備を目的にした砦(双頭山と二竜山、清風山、桃花山を結ぶ中間点に位置し、梁山泊に楔を打つ形になる)と正面からぶつかることに。
戦には勝利するが多くの犠牲者が出て、この後どうするか苦しい状況に至る。
祝家荘の闘いを境に青蓮寺側の軍との連携、対応の即応性が改善されつつあり、北の塩の道に関する締め付けが厳しくなった。
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第十巻(濁流の章)
第十一巻(天地の章)
第十二巻(炳乎の章)
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禁軍の童貫元帥が推薦する、地方軍(代州)の呼延灼将軍が率いる1万の軍が梁山泊軍と交戦、梁山泊軍は初めての大敗を喫す。その後呼延灼は梁山泊側に寝返る。一方官軍も次第に精鋭化、地方軍、禁軍の連携が計られ、青蓮寺の締めつけも激しさを増してくる。そして梁山泊の頭領の一人晁蓋が暗殺される。(第11巻)さらに闇塩の鍵を握る慮俊義も北京大名府で捕えられ、梁山泊軍は総勢で北京大名府を攻撃、占拠するが、雄州の関勝将軍の3千の兵に梁山泊を攻められ、急遽撤退するはめになる。
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第十三巻(白虎の章)
第十四巻(爪牙の章)
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第十五巻(折戟の章)
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いよいよ宋の国が本気で梁山泊を潰しに総攻撃をかけてくる。20万の軍に対し、梁山泊軍は合わせても1万足らず、大変な苦戦に晒され、起死回生の賭けが実行される。
誦義庁に掲げられた赤い名札には華々しく散った指揮官などの上級将校の名が並んでいる。
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第十六巻(馳聚の章)
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第十七巻(朱雀の章)
第十八巻(乾坤の章)
第十九巻( 旌旗の章)
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時間稼ぎの講和交渉、趙安将軍の二竜山攻め、童貫元帥の緒戦の負け、巨大船を擁しての水軍も合わせた戦いへと進み、楊令の入山はあったが、秦明や林沖の死と梁山泊の中心人物の死も多数出る。
そして最後の決戦の幕が梁山湖の西、流花塞の北を戦場にして切って落とされた。
そして最後に勝利するのは・・・
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印象に残った所:
1. 楊志が王和の軍により暗殺されるシーンの描写 (第5巻)
楊志は、一度大きく息を吸った。林の中を駆け回る。二人、倒した。それで、林からは人の気配が消えた。広場。三十人以上いた。斬りこむ。剣と剣が触れあう。敵の姿勢は、ひそやかだった。気合いなどなく、殺気だけが肌を打ってくる。
頭上。剣。跳躍した敵。斬りあげ、次の瞬間、横から突き出された別の剣を弾き飛ばした。敵の攻撃に、間断がなくなった。三人、四人で絶え間なく襲ってくる。かわしながら斬れるのは、ひとり、せいぜい二人だ。白嵐が哮える。楊志は跳躍し、林に入ろうとした敵をひとり、切り倒した。
矢。叩き落とす。一本だけ、肩を掠めた。済仁美は、楊令を抱くようにして、木の陰にいた。矢では、狙いにくい場所だ。しかし、狙えないわけでもない。
・・・・
息があがっていた。しかし、眼が眩むほどではない。林の中。白嵐の哮え声。躰が自然に動いた。ひとり。血が周囲の木に飛びちった。
・・・・
矢。転がった。敵の中。それで、ようやく矢が防げる。立ち上がった。再び、矢。味方の二人をも射倒し、一本が楊志の肩に突き立った。矢は抜かずに折った。敵の中を走り抜け、林を背にし、跳躍をくり返す。呼吸はすでに限界だった。しかし、これぐらいで死ぬことはない。死んではならない、と躰が言っている。叫び声をあげ、四、五人を斬り倒した。それでも、敵は減らない。
2. 楊志の子楊令に対し、秦明将軍が言うところ:
戦に勝利する場面が出て来るが、何故かグッとくる場面というのは、人物像が描かれることで情が移ると起こるもののようだ。
例えば、 (第8巻)
楊志の亡き子として育てられている楊令が高熱で何日も伏せていて死ぬかも知れない。鄭天寿(ていてんじゅ)という二竜山の指揮官の一人が、起死回生の戦の作戦に勝利し、その後楊令の為に薬草を取るため、がけの下に降りて誤って崖から転落、死んでしまう。結局はその薬草が役に立つことなく楊令は一命を取り留めていたが、その経緯を秦明将軍が楊令に語って聞かせる場面には、心が動かされ、涙する。その前に鄭天寿の過去を秦明に語っていることが伏線となって、人の情が紡がれていたからかも知れない。
「これは、鄭天寿の命だ。私が本営に戻った時、お前の熱はもう下がりはじめていた。だから、この蔓草が役に立つことはなかった。これが鄭天寿の命だとしたら、情け無いほどどうでもいい命でもある。しかし、ひとりの、この世でただ一人の人間にとっては、無常に大切な命だ」
「はい」
「持っていてやれ、この蔓草を。そして、鄭天寿という男がいたことを、覚えていてやれ」
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