少し長めのプロローグイッカククワガタというクワガタムシをご存知だろうか。胴体は寸胴で、♂には角が1本ある代わりに大顎は全く発達しておらず、あたか もカブトムシかダイコクコガネのミニ版といった風采の、およそクワガタムシには見えない小さなクワガタムシである(♂の体長12-16mm)。自 分がこの種の存在を初めて認識したのは、爆発栄螺氏の記事(くわ馬鹿2000年夏号「え?これクワガタ? その2」参照)によってであった。この変わったフォルム をしたクワガタムシは、欧州からシベリアに広く生息しており、当地フランスでも採集することが可能だという。そうであるのなら、「くわ馬鹿」を自 認する限り、採集にトライしなければならない。 ![]()
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(1)幼虫の成育木:リンゴ、菩提樹、ブナ、クリ、トネリコ、ハンノキ等。図鑑によっては、ナラ(カシワ)も含まれる。
その他の情報としては、次のようなものがある。
要するに、イッカククワガタを見つけるためには、材採集が最も効率が良さそうだ。そして、様々な情報を総合すると、山間部の原生林を 主な生息地としているとイメージされるが、果たしてどうだろうか。フランスにおける広い分布からすれば、生息地が山地に限られること は必ずしもないかもしれないが、おそらく里山よりも、自然の深い森を追った方が良いように推測される。いずれにしても、パリ周辺は、図 鑑では分布地に挙げられておらず、また自分のこれまでの経験からも、パリ周辺での採集は難しいように思われる。実際に、フォンテーヌ ブローの森を含めたパリ近郊50−80km圏内の採集においては、イッカククワガタを探し出すことを常に意識してきたつもりだが、これまで その痕跡すら見つけたことがない(もちろん単に採集が下手なだけかもしれないが)。また、材採集のターゲットとして、北フランスで最 も普通に見られる樹種であるナラが含まれるかどうかが判然としないのは、採集ポイントを絞る上で大きな障害である。 ちなみに、イッカククワガタは、当地フランスにおいて希少種とはされていない。手元の図鑑は、昆虫の希少度を3段階(普通種、中間種 、希少種)に分けて表示しており、イッカククワガタは中間種に挙げられている。参考までに他のクワガタについて記すと、ミヤマやパラ レリは普通種であり、コルリクワガタ(Platycerus caraboides)はイッカクと同じように中間種とされている。イッカクがコルリと同程度で あるとすれば、見つからないはずはないのであるが、なかなかどうして苦戦させられている。おそらく、行くところに行けば普通に見られ るのだろう。なお、日本に輸入されているイッカククワガタの個体は、スロバキア産やチェコ産が多く、フランス産というのはあまり見ら れないように思われる。 以上の諸条件を考慮して、イッカククワガタの採集を本格的に試みるために、「近場採集派」の自分としてもパリを中心とするイル・ド・ フランス県内をあきらめ、その北西部に位置するノルマンディ地方を探索地として選ぶことにした。その理由として、ノルマンディ地方は 図鑑による分布に含まれているからであり、また、イッカククワガタは欧州の中で比較的寒冷な国において普通種であるように思われるた め、パリよりも寒冷な地域を選ぶべきと考えたからである。もっとも、ヒート・アイランド化しているパリから外へ出れば、周辺地域は東 西南北どこでもパリより寒冷なのではあるが。 ![]() ※フランス政府観光局提供ウェブサイト(http://www.franceinformation.or.jp/regions/)より
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