〜 イッカククワガタ採集記 〜

(その2)



いざノルマンディへ

ノルマンディという地名から、何が思い起こされるだろうか。第2次世界大戦における米英連合軍の上陸作戦を想起する人もいるだろう。 カマンベール・チーズなどの乳製品やシードルなどのリンゴ酒の生産地としても有名である。世界遺産であるフランス有数の観光地モン・ サン・ミッシェル修道院は、ノルマンディの海岸沿いにある。そのノルマンディ地方には、パリから高速道路を車で飛ばせば、1時間ほど でその外縁に辿り着く。

4月9日は天候に恵まれ、快適なドライブとなった。それでも、高速を降りて牧草地を走ると、朝もやでところどころ視界が悪くなる。い くつかの小さな町や村を抜け、採集の目的地としていたブナ林のそばにある村に近づいて行く。途中でシャトーと呼ばれる立派な城館が忽 然と現れたりする。

[朝もやの風景] [城館]
   
朝もやの風景 城館が現われる


やがて、目指していたリヨン・ラ・フォレという村に辿り着く。ノルマンディ地方の東端に位置するこの村は、「フランスにおける最も美 しい村々」の一つに挙げられており、ごく小さな村ながら、瀟洒な景観が訪れる人を楽しませてくれる。村の中心は広場になっていて、カ フェやパン屋、レストランなどが並んでおり、広場の中央では朝市の準備が進められていた。ノルマンディ名物のチーズも並んでいる。時 刻はまだ午前9時前。日曜にかかわらず開いていたカフェで、カフェ・オレとパン・オ・ショコラの軽い朝食を取る。

[リヨン・ラ・フォレ村] [チーズ売り場]
   
リヨン・ラ・フォレ村の中心 朝市のチーズ売り場


さて、ドライブの疲れを癒し、気力が充実してきたところで、採集へ。車で村を出ると、地図が示すとおり、ほどなく道沿いに林が広が る。日陰の多そうな斜面の林の脇に、駐車スペースが見つかったので、車を停めてその林に入ってみることにした。イッカク採集の確たる イメージが描けない以上、手当たり次第に試してみるしかない。そこは、ブナとナラを中心とする混成林であった。この日は、コルリクワ ガタが入っていそうな細めの材にはけっして目をくれず、したがってコルリの産卵痕探しに時間を費やすことなく、太めの朽ち木や切り株 にひたすらに狙いを集中することにする。

[林]

村の近くの林


平地の林は、どこも人の手が入っており、大木を人為的に切り倒した後の切り株が多く残されているのがよく見られるが、ここも例外では なかった。多くの切り株は朽ちているために、その樹種がブナかナラか分からない。切り株は概して乾燥して堅く、昆虫が中を穿つような 状況にはないが、それでも適度に湿気を帯びている切り株もところどころで見つかる。早速そのような切り株に手を付けてみると、甲虫の 幼虫のものらしき食痕が走る。しかし、クワガタのものにしては、縦に真っ直ぐに伸び過ぎている。案の定、カミキリムシの幼虫が出た。 次いでカミキリムシの成虫も出てきたので、これはめずらしいと喜んだら、残念ながら、羽脱できないまま取り残されたヨツスジハナカミ キリの死骸であった。

[カミキリムシの幼虫]

切り株にいたカミキリムシの幼虫


一方、クワガタ幼虫のものとおぼしき食痕は、多くの場合パラレリピペドゥスオオクワガタのものである。見慣れると食痕を割り進むまで もなく容易にそう判断できるが、確認のために食痕の主を追求していくと、やはりというべきか、パラレリの幼虫が顔を覗かせる 。パラレリは、市街地近くか森の奥深くかを問わず、実にいたるところで見つかるクワガタである。太めの材または切り株をターゲットと する場合、このクワガタと出会うことだけは避けて通れない。

[パラレリの幼虫]

パラレリの幼虫が顔を出す


太めの朽ち木を割っていると、何と、狙っていないはずのコルリクワガタも出てくる。見かけた♂は藍色であったが、♀は藍色ではなく薄 い銅色のものが多かった。コルリの♀の色はバリエーションが豊かだが、それは生息環境に関係があるのだろうか。それにしても、コルリ クワガタが太めの材にも入っているとは、驚きであった。「コルリ材は細めの落ち枝」という固定観念が、これまで自分の中で何と強かった ことか。コルリ狙いには、産卵痕のついた細めの材を探すという「常套手段」が実はここでは効率が悪く、むしろ湿度の保たれた材を太さ や産卵痕に関係なく選んでいった方が、結果として効率が良いのかもしれない。

[コルリ♂] [コルリ♀]
   
太めの材から出たコルリ♂ 材からこぼれ落ちたコルリ♀


このようなことを繰り返しているうちに、時間がどんどん経っていく。しかし、いつものように、イッカククワガタの手掛かりらしきもの は全く見出せない。そろそろ場所を変えるべきであろう。




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