北陸地方のブナ林に棲むクワガタ虫(2/3)
by えりー


9月5日,石川県H山某所,快晴

ヒメオオを見つけてから2回ほどK池周辺をルッキングしたが,まったく見あたらない.それどころか例の林道ではアカアシですら見つからないという有り様であった.幸いなことに,林道沿いに流れるU川の下流で支流が合流するところが小さな三角州になっておりヤナギが密生していた.そこではアカアシがまとまって観察することができた.ただし,大きさはどれもさほど大きくはなくせいぜい♂42〜43mmが上限というところだった.
いい加減,ヒメオオ♀だけではなく♂も見てみたいと思っていたので,思い切って隣の石川県まで足を運ぶことにした.寝坊したため家をでたのは9時を回っていた.もっともこの石川県のH山某所のほうがK池より近くて車で1時間強である.今日はこれまでになく天候は最高であった.この林道の問題点はブナ林の近く,林道沿いにヤナギの木があるところまで,車をおりて1時間ほど山を歩かなければならないというところにある.その間,何も考えずただひたすら歩く,歩く.天気がいいのが救いだ.景色はいいし,ミズナラの巨木が古い原生林であることを示している.ふと,ミズナラの幼木をみると葉の表面に何か変なものがついている(Fig.6).


Fig.6 ???

漸くヤナギが出始める地点にたどり着いたとき,すでに日は高く上っていた.汗も相当量でていた.山登りに給水は欠かせない.最低1Lはドリンクそして,カロリーメイトを持ってゆく.車にも予備のドリンクをおくようにしてある.飲みきってしまったペットボトルには林道沿いの石清水を詰める.コルリポイントまで来たとき,おじさん2人の乗ったワゴン車が上から降りて来た.どうも採集しているらしい.狙いはヒメオオだ.しかし,彼らの話では林道沿いに生えているヤナギにはまったく見あたらないということであった.本当かどうかか分からないがとにかく先にスクリーニングされてしまっては期待はできない.天気がよかったのだからもっと早くこれば良かった,と思っても後の祭りという奴だ.とりあえず,私はブナ林まで歩いてみてから戻るということでその2人とは別れた.無駄だよという言外の表情が見て取れた.
さて,気を取り直してヤナギを見てみたところ・・・「あ,ヒメオオやん,しかも♂」
彼らと話をしたすぐ横の木の幹をのこのこ歩いているのである.手の届くところである.運がいいというかなんというか,彼らはどこをみていたのだろうか?さて,この地点から1km弱の距離にあるヤナギについて,ゆっくり,丹念にルッキングしていった.とりあえずヒメオオのいた木をデジカメに収めてあるので羅列してみる.


Fig.7a 石川県産ヒメオオ♂,43mm,Fig.7b 別角度から

この林道のヤナギの場合,ほとんどの場合,すぐに手の届くところというよりは2〜3m斜面の下から木が生えていることが多く簡単に手で捕まえることはできなかった.斜面が結構きついのと背丈以上のすすき等の草が生えているので降りるのは難しい.如意棒が威力を発揮するのはこういう場所である.


Fig.8 採集者と出会った場所.正面のヤナギにヒメオオ♂がいた.


Fig.9 ヒメオオ♂のいたヤナギ(2)


Fig.10 ヒメオオ♂のいたヤナギ(3)

結局,この日観察できたヒメオオクワガタは6♂2♀であった.アカアシクワガタはゼロである. 不思議なことに行きもちゃんと見たはずの木にちゃっかりヒメオオがついてることがある.見落としたのだろうか.案外帰り道のほうが目が慣れていて見つけやすいのかもしれない.この日は,おまけがついてきた.ミズナラの倒木をひっくり返したら見たこともない甲虫が見つかった.後で分かったことであるが,この虫はオオキノコムシという割と珍しい虫だということだ.なんか少しだけ得した気分になった.ヒメオオ♂との初めてのデートはこうして終わった.


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